15周年にして最強な言葉と歌

──そんな倉木さんから40枚目となるニューシングルが到着します。ダブルAサイドとなる本作の1曲目は、TVアニメ「名探偵コナン」のエンディングテーマとなっている「無敵なハート」ですね。

はい。自分にとって、これはけっこう攻めの楽曲なんですよ。前作の「Wake me up」は歌手としてスランプに陥ってしまった自分の気持ちを改めて取り戻すために作った曲（参照：倉木麻衣「Wake me up」インタビュー）だったんですけど、それをライブで歌っていく間に、もっともっと気持ちが歪まなくなる曲を歌いたいって強く思うようになって。

──それこそ“無敵”になれる曲を。

そうです、そうです。で、たくさんの候補の中から、アップテンポで力強くて、聴いているだけで自分の気持ちが新しく生まれ変わっていくような雰囲気のあるこの曲を選んだんです。そうしたらすぐにタイトルが浮かんで、歌詞もすぐに書けましたね。“無敵”ってすごく強い言葉ではあるんですけど、そこには自分の弱さを受け入れた上で、弱いからこそそうなっていきたいっていう願望が込められていると思うんです。そういう思いが伝わればいいなって思いながら作っていきました。

──自ら“無敵”と唱えることで、気持ちを鼓舞することができますもんね。

私自身、ライブハウスツアーを回っているときに体調を崩したことがあったんですけど、この楽曲にものすごく助けられましたからね。この曲を歌うことで気合いが入るな、がんばろうって思えるなって。みんなきっとネガティブになってしまう瞬間はあると思うので、そういうときにはぜひこの曲を聴いてもらえたらなって思いますね。15周年にして最強な言葉と歌が詰まっているので。

自分にもっと敬意を

──自らの弱さを吐き出しつつも、サビで痛快なメッセージを強力に放つ歌詞の構成がいいですよね。気持ちがすっと曲に入っていけました。

ありがとうございます。AメロBメロのメロディはちょっと語っていくような感じなので、歌詞もしゃべる雰囲気で書きました。で、サビには一番伝えたいメッセージを込めて。気持ちが弱って自分を見失っているときって、自分自身を愛せてないなって思うことがよくあるんですよ。なので、自分にもっと敬意を払って、リスペクトする気持ちを大事にすればきっと夢に到達できるんじゃないかなっていう、そんな思いをそのまま書いてみた感じですね。

──今回はクールなラップパートもありますね。

デモの段階でそのパートはなかったんですけど、なんて言うのかな……ボクサーがウォーミングアップするみたいな感じを歌でも表現したいなと思ったので、ラップを入れることにしたんです。そこの部分の歌詞はあえて歌詞カードに載せていないので、耳でしっかり聴きとることで気持ちを奮い立たせていただけたらなって思います。

──ボーカルのレコーディングはいかがでしたか？

難しかったですね。こういうアップテンポの曲は勢いでぶわーっと歌ってしまいがちなので、メリハリをしっかり出すのが難しいんです。リズム感ももちろん大事ですし。今回の曲はAメロBメロとサビのテンションの差がすごくあるのでメリハリはつけやすくはあったんですけど、その中でどういった歌い方をするかっていうのは何度もチャレンジしながら決めていった感じでしたね。

──歌詞の内容とともにサビで感情が一気に放出されるボーカルがとにかく気持ちよくて。

サビはもう一気にダッシュ！みたいなイメージですね（笑）。この曲は、ライブハウスツアーで歌っていたんですけど、みんなすごく盛り上がってくれました。簡単な振りもついているので、みんなと一緒に楽しめる感じで。

カンボジアの子供たちのための「STAND BY YOU」

──そして、シングルにはもう1曲。「STAND BY YOU」も収録されています。実はこれがカンボジアでの経験から生まれた曲なんですよね。

そうなんです。カンボジアの子供たちのために曲を作りたいなと思ったとき、すぐにタイトルは思い浮かんだんですよ。で、日本に戻ってきてから、徳永（暁人）さんに“STAND BY YOU”というタイトルのイメージで楽曲を作っていただきました。みんなに口ずさんでもらえる曲にしたかったので、子供たちと一緒に「♪ラララ」で歌うパートを入れてもらったり、ほかにも子供たちが学校で楽しくしゃべっている声が入っていたり、カンボジアの民族楽器を使ったりもしてますね。

──歌詞に関しては、カンボジアで感じたことをそのまま詰め込んだ感じですか？

はい。最後に「君は僕のヒーロー」っていうフレーズがあるんですけど、それはまさに向こうで私が感じたことだったんですよね。子供たちが私にとってのヒーローだなってすごく思えたので、そういう気持ちを少しでもみなさんに感じ取ってもらえたらいいなと思って。ただ、この曲の歌詞は言葉選びがすごく大変でした。伝えたいことはたくさんあったんですけど、それをどう集約するかという部分でものすごく悩んだというか。

──確かにこの曲は、言葉数が少なめでシンプルな描き方をされていますよね。

伝えたいことをすべて強いメッセージとして歌詞にしようと思えばできたとは思うんです。でも、今回は聴いてくださる方がそれぞれのイメージを持って受け取ってもらえるような情景作りをしたかったんですよね。ニュアンスとして伝えるというか。

──なるほど。そういう表現をしたことで、そっと側に寄り添って支えたいという思いを柔らかく、温かく伝えることに成功していますよね。感情を押しつけるのではなく。

カンボジアに行って感じたことがまさにそういうことだったんです。タイトル通り、ほんとにそっと側にいて、支えてあげることが一番大事だなって。

──歌声にもそういった思いはしっかり反映されています。

今回は、テンポに対してオンタイムで歌うのではなく、ちょっとゆったりと歌ってみたんですよ。相手を支えて、気持ちを持ち上げるような歌い方っていうんですかね。そういう感情が伝わればいいなと思って、言葉1つひとつを丁寧にメロディに乗せました。あ、あと今回は構成にもかなりこだわったんですよ。最後に鼓笛隊のようなサウンドになるところがあるんですけど。

──ちょっとマーチっぽい雰囲気になるパートですよね。

そうです、そうです。向こうの子供たちが私の音楽の授業をきっかけに、楽器に触れ、楽しく演奏できるようになったらいいなっていう思いがあったので、そういうシーンをイメージしたサウンドを入れてもらったんです。

──それはカンボジアで音楽の先生を経験した倉木さんの夢でもあるわけですよね。

はい。今はまだ音楽の授業はないけど、いずれは音楽と触れ合うことが自然なことになって、みんな一緒に楽しめるようになったらいいなってすごく思うので。

──ライブでは「♪ラララ」のパートで大合唱になることは間違いないですよね。すごくハッピーな光景が生まれそう。

レコーディングの段階から、みんなが大合唱してくれる光景を思い浮かべていたので、そうなったらうれしいですね。私が歌っているとき、ブースの外ではスタッフがみんな手を上げて左右に振ってくれていたんですよ。自然とそうしたくなっちゃうみたいで（笑）。なのでライブでもそういう景色が見られたらなって思います。

──カンボジアの子供たちにもこの曲が届くといいですね。

私自身、この楽曲をより多くの人たちに知っていただきたいなと思っているんですね。なので、5年ぶりの台湾公演では中国語で「STAND BY YOU」を歌わせてもらったんです。そういうところからアジアの子供たちにもどんどん広がっていってくれたらいいなと思ってます。