ナタリー PowerPush - 倉橋ヨエコ
"歌手廃業ライブ"が2年を経てDVD化 ファン待望の映像集の全貌を紐解く
倉橋ヨエコ、その半生を語る
「解体ヨエコショー」ブックレットには過去に発表された彼女の半生を追ったテキスト「或る女の生き方 倉橋ヨエコ、その半生を語る」「或る歌手が廃業するまで 倉橋ヨエコ、その半生を語る2」が掲載されている。ここでは彼女の生き様、音楽に対する思い、廃業に至る考えなどが読み取れるこのテキストを少しだけ紹介する。
私、初恋は遅いんですよ。中学生くらいの時なんですけど…それもゆりちゃん(愛用のぬいぐるみ)じゃないけど、自分が妄想した人と文通をしていたんです(笑)。その人が初恋の相手ですね。文通しているから遠距離恋愛なんですよ。だから相手とは会ったことがなくて、写真でしか知らないということになっている。きっとマンガに出てくる王子様みたいなのを想像していたんだと思うんですけど、すっごい好きでした。母にも紹介してましたね。「結婚相手が見つかったよ」って(笑)。
昔から曲を作る原動力は被害妄想です。一つの出来事で曲が出来るというよりも、それが起爆剤となって昔のことまで思い出したりする。例えば「はないちもんめ」という曲にしても、幼稚園のいじめられた時に戻るんじゃなくて、現在の曲を作るための引き金にするんですよ。だから今は「いじめっ子、ありがとう!」って言えるんです(笑)。
もしかしたら今後、例えば10年後にいろんなことを経験して、人間的に大きくなった倉橋ヨエコがもっと違う作品を作ることは出来るかもしれません。でもレコード会社のディレクターさんに「10年待ってください」っていうのは言えないですよね。そういうことを考えた結果、最高のものが出来た今の時点で倉橋ヨエコは終わろうと思ったんです。それが私の正直な気持ちなんです。正直な歌を、正直に聴いてくれた人たちに対して、私は正直な姿で終わりたかった。
レーベル担当者が明かす「解体ヨエコショー」発売への道のり
最後に「解体ヨエコショー」について、BabeStarレーベルA&R・山本久美子氏に話を訊いた。約2年という異例のインターバルでのリリースまでには、どんなエピソードがあったのか。
──そもそもラストライブの映像化は予定していなかったんですよね?
はい、もともとはスペースシャワーTVでの特番の放送しか予定していなかったので……ベストアルバムのリリース時に「DVDは出しません」と発表したときには「あんなにカメラが入っていたのになぜ!?」って、ファンの方からたくさんの意見をいただきました……。申し訳ないです。
──そういったファンの方からの嘆願書や署名、そしてヨエコさんの音楽活動開始10周年にあたることからDVD化の話が進み出したわけですね。
そうです。さらに「いい機会だから連絡を取ってみよう」という話になったんですが、当時の制作チームももう解散していましたし、ヨエコさんの連絡先自体がわからなくて(笑)。ようやく探し出して、嘆願書の件も含めてお話してみたら「そんなにたくさんの人が私のために動いてくださったんですか」と驚いていて。そして「私もラストライブのDVD、観たいです」とおっしゃったので、これはやるしかないと。
──リリースにあたって苦労した部分は?
当時の制作チームが解散しているせいもあって、映像を探すのにまず苦労しましたね。結局スタッフの記録用に撮影した映像しか残っていませんでした。あと会場が老舗なので、あまり良い音が録れなくって……当時DVD化が見送られたのもそのあたりに理由があるんですが。でもファンのみなさんからすれば「とにかくライブの一部始終を観たい」という思いがあるんじゃないか、と思って制作に踏み切りました。
──ヨエコさんご本人はもうご覧になったんでしょうか?
いえ、進行スケジュールがギリギリでようやくできあがったばかりなので(取材は9月上旬に実施)、まだご覧いただいてないんですよ。
──でもご本人も楽しみにしていらっしゃったみたいですし、きっと楽しまれるんじゃないんでしょうか。
そうですね。今はアーティスト活動からは離れていますけど元気に暮らしていらっしゃいますし、ヨエコさんにもファンのみなさんと一緒に楽しんで観ていただきたいです。
Disc 1
- Special edit
- ボーナス【倉(蔵)出し映像、「鳴らないピアノ」music video】
Disc 2
- 白い旗
- 鳴らないピアノ
- 感謝的生活
- 卵とじ
- あいあい
- 盗られ系
- 過保護
- 白の世界
- マネキン人間
- 友達のうた
- 損と嘘
- 夜な夜な夜な
- 春の歌
- 夏
- 人間辞めても
- 恋の大捜査
- はないちもんめ
- 輪舞曲
- メドレー(自転車/ラジオ/レモンケーキ/ラブレター/森へいく/梅雨色小唄)
- 沈める街
- ジュエリー
- 依存症~レッツゴー!ハイヒール~
- 東京
- 楯
倉橋ヨエコ(くらはしよえこ)
1976年愛知県出身。武蔵野音楽大学在学中からオリジナル曲を書き始め、2000年に初の手作りCD「お帰りなさい」を発表。2002年3月には初のフルアルバム「婦人用」をリリースし、独特の味を持つ「ジャズ歌謡」サウンドで世間の注目を集め始める。その後、ピアノを前面に打ち出した「東京ピアノ」、多彩なゲストとのコラボに挑戦した「御中元」などのアルバムをリリース。最近ではテレビCM「マスカラ命の女ですぅ~♪」の声の出演でも話題となる。2007年2月には5thアルバム「色々」を発表し、他の追随を許さない独自路線のサウンドを追求。しかし、2008年に突如ミュージシャン廃業を宣言。同7月のライブツアーを最後に、音楽活動を終了させた。