1990~2000年代のJ-POPを昇華
──サウンドに関してはどんな意識で作っていったんでしょうか。音楽ジャンルをコンセプトに置いていないというお話はありましたが、全体的には、これまでの八王子Pさんのイメージでもあるダンスミュージックの要素が色濃く表れてる印象を受けました。
八王子P ですね。さっきはあんなことを言っておきながら、バリバリのダンスミュージックベースなんですけど(笑)。新しいことを始めながらも、今までのファンのことを思いっきり無視することはしたくなくて、まずは入りやすい形として自分の得意なところでやろうという考えはありました。ただ今回は、四つ打ちでBPMが128という、いわゆる往年のEDM的なサウンドは1曲もなくて。ベースは変わっていないんですけど、それこそ「共犯」を聴いてくれた人も「今までのイメージと全然違う」っていう感想をくれたりするし、いろいろな表現力の幅は出せたかなと。
──ハウスっぽい部分があったり、ダブステップのニュアンスもあったりと、時代ごとのダンスミュージックのトレンドから、さまざまな要素を取り込んでいるなと感じました。
八王子P 確かに。そこまでダンスミュージックのセオリーに則らず、要素だけ取り込みました。やっぱり一番の主役は歌詞とメロディなので、そこが伝わるように曲を組み立てていった感じですね。
──その結果なのか、1990年代から2000年代あたりのJ-POPにも通じる部分を感じました。
八王子P うんうん。意図していたわけではないんですけど、自分も客観的に聴いてその印象はありました。
HANAE その時期のJ-POPに根付いてる気がする。
八王子P 自分が聴いてきた音楽もそうだし、好きなアーティストとかの話をしていてもHANAEさんはけっこう渋めの……。
HANAE (笑)。王子はちょっと年上なんですけど、聴いてきた音楽はそこまで変わらなくて。その頃のJ-POPは本当にめちゃくちゃ聴いてて、影響も受けています。そこが滲み出る感じなのかな。
──当時の音楽って、例えば小室哲哉さんの楽曲にしても、ちゃんと歌とメロディが中心にある前提のもと、けっこうマニアックなことも含め、ダンスミュージックや洋楽の流行をポップスに取り込んだ音であり文化なんですよね。それと近いことがこの作品でも行われている気がして。
八王子P いろいろな影響をJ-POPに昇華していくという意味で、やり方としてはそれと近いかもしれないですね。
──そうなると、KUMONOSUの音楽も実はマニアックな要素は含みつつ、音楽マニアみたいな人に刺さるだけじゃなく「普通に曲として好きだから」というポップスとしての聴かれ方もされるような気がして。
八王子P 小難しくならないようにというのは考えていました。特にHANAEさんのファンの方は若い人も多いし、まずはちゃんと聴いてもらうことが一番大事だなと、いい意味でのキャッチーさを意識しながらやりましたね。いきなり突き抜けすぎちゃうのも、自分たちが今までやってきた活動や考え方とはちょっと違うかなって。
HANAE さっきおっしゃったように、すごくポップな要素からマニアックな部分まで楽しめるというのは、まだ1回しかワンマンをやっていないんですけど、お客さんの反応にもう出ています。そんなにダンスミュージックを聴いたことがなかったり、クラブに行ったことなかったりする人たちには新しく聴こえていて、逆に王子のファンの方や自分でもDJをされる方、関係者のミュージシャンの友達とかには、長めの尺で私が歌わないテクノパートみたいなところがすっごいウケる。だからポップな部分も楽しんでいただけるし、楽曲を深く掘り下げても楽しめて、もっといえば作品とライブでもまた違う、深いところまでズブズブと味わっていただける曲ができたんじゃないかなと思います。
──中でも、僕は最後の「夜光」がすごく印象に残りました。八王子Pさんのイメージにあまりないバラードで、端的に言うと“いい曲”。
HANAE 最初に会ったときから王子は「バラードを作りたい」と言っていたのに、これが最後にできた曲だったんですよ。
──やろうとは思っていたものの、実際は時間がかかったと?
八王子P いや、自分の中にもうイメージがあって、おいしいものを最後にとっておくくらいの感じで。いつでも形にできるなと思ってたから、難産だったわけではないですね。歌詞もレコーディングの時間も、最後の詰めまで一番時間がかからなかったし、この曲ではお互いにやることがはっきり見えてたのかもしれない。
──「夜光」が作品全体における落としどころというか、この曲があって「共犯」が成立するものだと思いました。
八王子P まさに、デビューCDを作るにあたって「夜光」の歌詞の内容はあらかじめ決まっていた部分もありました。
HANAE 前の4曲では孤独感やダークな部分を表現していて、言葉のチョイスもそうなっているんですけど、じゃあ傷の舐め合いや見せ合いで完結したいのか? っていったら、絶対にそうじゃなくて。かといって曲ごとに「こんなこともあるけど前向きに生きていこうね」っていうのも違うなと思ったとき、1つの作品として最後に希望の提示をしたかったんです。
──そこまでの流れがあるからこそ、救いとして「夜光」がより際立って聴こえてきました。そういう意味では、この5曲で一旦は本作のコンセプトが完結していますよね。
八王子P はい、一区切り的な。
ライブ、ライブ、ライブ
──となると、気が早いかもしれませんが、今後も作品ごとにテーマやコンセプチュアルな要素を置いていくことを考えているんでしょうか。
八王子P そうですね。この前も「次の作品どうしようか」っていう話をしたんですけど、今まではDJ的な考え方で「四つ打ちの曲が多いから違うビートの曲を入れよう」とか音先行で作ってきたのが、HANAEさんとやることでストーリーや大枠のコンセプトから音を広げていくようになったので、それがすごく楽しいんです。だから次回もデビュー作品に近い作り方にはなると思うんですけど、内容はお楽しみにって感じです。
HANAE お互いにまだまだやりたいことはあるので。
──先ほど初ワンマンのお客さんの反応の話もありましたけど、今後はライブに重点を置いた活動をなさっていくんでしょうか?
八王子P ライブがしたいからHANAEさんと一緒にやったのもあって、ライブは大事にしていきたいなと。Vocaloidでは表現できなかった生の歌声や表情もそうですし、僕にとってはいろんな部分で今までと違ったことができて。この前の初ワンマン(2018年12月15日に東京・CIRCUS Tokyoで行われた「KUMONOSU演舞 -開幕-」)では、会場の都合などでやれなかった演出もあるし。
HANAE 照明や映像をガッチガチに組んで、ちょっとインスタレーションみたいにしたりとか、いろいろアイデアはありますね。あとは王子が頻繁に海外に行っているので、便乗して早く海外でライブがしたいです!(笑)
八王子P はははは! 僕はDJで呼ばれることも多いから、彼女に比べたらそこで満たされている部分があると思うんです。だからもう、ライブへのモチベーションは僕よりもHANAEさんのほうがすごいですよ。しょっちゅう「ライブ、ライブ、ライブ」って(笑)。
──渇望が。
HANAE そう。これだけネットの恩恵にあやかりまくってるし大好きなんですけど、普段ネットにいるからリアルがネットなんですよね。だからこそ逆に、リアルに会うことのほうが非日常かもしれません。
八王子P 確かにね。
HANAE 私にとってはそれが大切です。
八王子P だからライブに関しても重きを置いて、精力的に活動していきたいので、みんなぜひ遊びに来てほしいですね。
イベント情報
- KUMONOSU「共犯」リリース記念イベント
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- 2019年2月16日(土) 東京都 タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
- 2019年3月2日(土) 大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 イベントスペース
- KUMONOSU「共犯」リリースライブ「KUMONOSU演舞 -共犯-」
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- 2019年3月10日(日) 東京都 渋谷WOMBSTART 18:00
- KUMONOSU「共犯」
- 2019年2月13日発売 / TOY'S FACTORY
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初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット]
1944円 / TFCC-86643 -
通常盤 [CD]
1404円 / TFCC-86644
- CD収録曲
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- 共犯
- 秘密裏
- 存在証明
- 見世物
- 夜光
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「共犯」Music Video
- KUMONOSU(クモノス)
- ボカロPとして活躍する八王子P、シンガーやモデル、詩人として活動するHANAEによる“都市型夜光性音楽ユニット”。ダークヒーローをテーマに掲げ、2018年8月に結成された。同年12月に東京・CIRCUS Tokyoにて初のワンマンライブ「KUMONOSU演舞 -開幕-」を成功させる。作編曲を八王子P、歌唱および作詞をHANAEが担当したデビューCD「共犯」を2019年2月にリリースした。