心の闇を書く使命
──キャッチコピーにも“都市型夜光性音楽ユニット”とあるし、「共犯」というタイトルも含め、本作の世界観からはそういったダークサイドの存在が思い浮かびますよね。それこそバットマンとキャットウーマンとか。
HANAE まさにおっしゃる通りです。私はロケット団になりたいと言い続けてて、軽く無視されてますけど(笑)。1作目なので、字面でも不穏な感じを出したかったし、そういう雰囲気をわかりやすく提示してみました。
──そういったコンセプトを据えたうえで表現していこうと思ったものを、もう少し詳しく教えていただけますか。
八王子P まずは詞を書くHANAEさんが伝えたいことを大事にしたいというのはありました。歌詞先行で曲を書くとか、自分のスタジオに来てもらって同時並行で作業したりだとか、いろいろと作り方を試したんですけど、最終的にはある程度打ち合わせをしてから僕が作った曲に合わせて詞を書いてもらうスタイルに落ち着きました。あらかじめテーマを決めたうえで、それを明示するような曲を作っていったんです。
HANAE 「この曲でこういうことを表現する」と決めてから制作するのは、実は今回が初めてで。やりやすいと言ったら変だけど、着地点が見えているほうが想像しやすかったです。「頭の中にあるイメージをどう言語化して解像度を上げていくのか?」という作業なので、導かれたらわりと早く書けました。
──そういう制作方法だからこそ、新たな言葉が出てきたり?
HANAE そうですね。そもそも収録曲5曲のテーマが、今まではそんなに触れてこなかった内容で、友達とかに言えないような秘密の恋愛であったり、自己顕示欲の強さであったり、そういう誰しもが持っている部分をバーンと出してしまおうって。
──それはKUMONOSUが始まって向き合った感情というよりは、もともとどこかにあったものですか?
HANAE やっぱりいつかは書きたいというか。年齢が上がるにつれていろんな経験をしていくし、私はSNSを頻繁にやっているほうなんですけど、DMでファンの方から悩み相談を受けるようになって、人々の心の闇がネットを通してリアルに見える分、いつかは書かないとフェイクだろって思っていました。ただ、ソロとしてやってきたガールズポップをファンの人に評価してもらって、私も自分の音楽に誇りを持っているからこそ、いきなり振り切ってしまうのはどうなのか? という葛藤があったんです。でも、そこをKUMONOSUという新たなステージで表現できたという感じです。
八王子P 多分、そういう何かしら満たされていなかったり迷っていたり、悲しかったりする人こそ音楽を聴くと思うので。別に自分に降りかかったことじゃなくても、テレビを点けてもそうですし、外に出てみても、やっぱりいろんなことが起きているから、その中で感じることはたくさんあるだろうなと感じたんです。このテーマ、この枠だったら伝えたいことは尽きないよなと思いました。
死ぬまで他人だからこそ救われる
──そういった世界観に合わせて、ビジュアル面もかなりインパクトのある内容に仕上がっていますよね。例えばネット音楽の界隈には顔やキャラクター性をあえて出さない選択肢もある中で、こういう打ち出し方を選んだのはなぜだったんでしょうか。
八王子P 最初は顔を出さない話もあったけどね?
HANAE うん。本当にバーチャルになろう、みたいな。2人とも2次元になるくらいのこともアイデアとしてはあったけど……そもそも2人とももうけっこう出ているので(笑)。
──まあ、そうなんですよね(笑)。
八王子P アバターみたいなものを用意しても、結局はお互いの顔がちらつくから無理があるだろうということで(笑)。僕の中ではまず見た目が今までとガラッと違うほうがいいだろうと、本当に新しいことを始めるんだということが外見から伝わればいいなっていうくらいでした。ビジュアル面とかのセンスはHANAEさんのほうがあると思うので、そこに関しては彼女のほうがこだわりを持ってやっていますね。
HANAE イメージとしてはストリートというものを歌詞やコンセプトの中でも考えていて……ストリートというと、90年代だったらヒップホップの感じでちゃんと街に根付いた文化だったと思うんですけど、今は個々がストリートになっていて、ネットを介して交わっていくようなイメージなんです。「都市型」と名乗ってはいるんですけど、その都市がどこにあるのかなというと、私はネットだと思っていて。だからビジュアルにも、厚底のスニーカーとかブレイズの髪型だったり、そういうストリート要素をわかりやすく取り込みました。あとはなんというか、ダークヒーローの座を勝ち取りに行っている雰囲気が出るように、戦闘力強めな感じを意識しました(笑)。
──今のお二人とは全然違いますからね。
八王子P お恥ずかしい(笑)。打ち合わせをしていく中で、HANAEさんは、このメインビジュアルの衣装とかも相当攻めているし、「全然着たいです」と意欲的でしたけど、僕はそこまで攻めちゃうと自分に嘘を付くことになっちゃうなと思って(苦笑)。
HANAE そこのさじ加減はけっこう、客観的に見ても難しかった。
──八王子Pさんがもっと攻めるパターンも可能性としてはあったと。
八王子P 提案としてはありました。ただ、派手な人が2人並んでもなあって考えたうえでの着地点っていう感じです(笑)。
──よくわかりました(笑)。先ほどストリートのお話の中に「ネット」という言葉が出てきましたが、作品を通じて「繋がる」「触れる」とか直接的なコミュニケーションを指す言葉が出てきつつも、全体としては孤独感のようなものが描かれています。そこに現代の、ネットやSNSでつながりを求めながらもリアルでは人間関係が希薄だったりする時代性が現れている気がします。
HANAE 痛みや孤独を肯定するというか……例えば夜に携帯を開けばそこには「眠れない」「死にたい」とか、SOSを発信してる人がたくさんいるのに、人生としては交わる可能性のほうが少ないじゃないですか。それがすごく寂しいなと思って。同じように、個々として存在しているのに交わらないことの寂しさを抱えている人ってたくさんいると思うんです。でも「私たちは1人じゃないよ」っていう言葉ではその寂しさは救えないと思ったから。
──うんうん。
HANAE 「1人じゃないよ」っていう歌はたくさんあると思うんですけど、「私たちはそれぞれ1人だよ」っていう救いを作りたい。そういう気持ちが根底に流れてますね。絶対的に私たちは他人であって、死ぬまで他人だからこそ救われることがあると思うんです。
八王子P 歌詞の言葉もそうだし今の話もそうですけど、絶対に僕からは出てこないものだから新鮮ですよね。歌詞とメロディが合わさったときのワクワク感もありますし。
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1990~2000年代のJ-POPを昇華
- KUMONOSU「共犯」
- 2019年2月13日発売 / TOY'S FACTORY
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初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット]
1944円 / TFCC-86643 -
通常盤 [CD]
1404円 / TFCC-86644
- CD収録曲
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- 共犯
- 秘密裏
- 存在証明
- 見世物
- 夜光
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「共犯」Music Video
- KUMONOSU(クモノス)
- ボカロPとして活躍する八王子P、シンガーやモデル、詩人として活動するHANAEによる“都市型夜光性音楽ユニット”。ダークヒーローをテーマに掲げ、2018年8月に結成された。同年12月に東京・CIRCUS Tokyoにて初のワンマンライブ「KUMONOSU演舞 -開幕-」を成功させる。作編曲を八王子P、歌唱および作詞をHANAEが担当したデビューCD「共犯」を2019年2月にリリースした。