空白ごっこ「ラストストロウ」インタビュー|混ざり合う3つの才能が発露した「プラチナエンド」ED曲

空白ごっこが2月16日にニューシングル「ラストストロウ」をリリースした。

今作には現在放送中のテレビアニメ「プラチナエンド」2ndシリーズのエンディングテーマ「ラストストロウ」や、同アニメの世界観を踏襲したカップリング曲「カラス」、セツコの葛藤を曲にした「ふたくち」を収録。3曲それぞれ異なるアプローチで、空白ごっこの表現の幅を広げた楽曲となっている。音楽ナタリーではメンバーにインタビューし、初めて3人で作曲した「ラストストロウ」やセツコの悩みから生まれた「ふたくち」の制作秘話などを通じて、“三人三色”の才能が混ざり合う空白ごっこの魅力に迫る。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 鈴木友莉

空白ごっこのイメージを壊さないアー写を

──ラジオDJの落合健太郎さんが新年にApple Musicで公開していたプレイリストに、空白ごっこの「シャウりータイム」が入ってましたね。

セツコ え、そうなんですか! 知らなかった。

──前作「開花」には「カレーフェスティバル~パパティア賛歌~」「シャウりータイム」「天」とタイアップ曲が多数入っていたので、これまでとは違うところにも空白ごっこの音楽が届いたのかなと思うんですが、皆さんの実感はどうですか?

針原翼 正直に言うと、そこまで僕らの音楽が広まった実感はまだないんですよ。タイアップもあって、これまでの活動になかったことは「開花」をきっかけに実現できたんですが、「空白ごっこの音楽が広く届いたか」と言われると、そこまで手応えがなくて。

セツコ 私は少し安定してきたのかなという気もしています。初期の頃は「空白ごっこってなんだろう」というインパクトもあったし、リリースもハイペースだったから短時間で広く広まった感覚があったけど、今はリリースのペースも緩やかになって、空白ごっこの音楽を知ってくれていて、新曲を待ってくれるようになった。広く届けるという大きな目標には達していないかもしれないけど、待ってくれている人に曲を届けることはできていると思います。

koyori 僕は「開花」をリリースしたことによってもっといろんなことに挑戦できるなという実感があります。音源をリリースしたわけだから、もちろんいろんな人に聴いてもらいたい思いはあるけど、「開花」を作れたことによってさらに前に進める実感がある。だからそんなに悲観はしてないですね。

──年明けのタイミングでアーティスト写真が一新されました。このアーティスト写真はセツコさん自身を写したものですよね?

空白ごっこのアーティスト写真。

空白ごっこのアーティスト写真。

セツコ はい。実は以前からアーティスト写真を撮ろうと思っていたんですが、去年はツアーの開催や音源制作に追われていたからなかなか実現できなくて。2022年に入ってから「ラストストロウ」のリリースも予定されていたから、年明けの境目にビジュアルを一新したいなと思い、思い切ってアーティスト写真を撮ってみました。

──ライブ写真以外でセツコさんのビジュアルが表に出ることがこれまでほとんどなかったので驚きました。

セツコ 空白ごっこというグループには私とkoyoriさんとはりーさんの3人がいて、全員が曲を作るから聴き手によってグループのイメージが違くて。激しいギターロックをイメージする人もいれば、ちょっとおしゃれな横揺れの曲を思い浮かべる人もいるし、ノスタルジックな曲を推してくれる人もいる。「ラストストロウ」という新曲はこれまでリリースしてきたどの曲とも違う新たな広がりを持った曲だと感じていたから、アーティスト写真はこれまで皆さんが抱いてきた空白ごっこのイメージを壊さないようにしつつ、繊細でありながらも凛としたイメージのものにしたかった。初めてのアーティスト写真だし、自分が表現したいことをスタイリストさんやカメラマンさんに相談しながら、こだわって撮っていただきました。

針原 アーティスト写真の撮影に関してはセツコさんやカメラマンさん、衣装さんにけっこうお任せして撮ってもらいました。もちろんテストショットとかを見せてもらって、ある程度の要望を伝えてはいましたが、本人の希望で撮るのが一番だと感じていましたから。

セツコ

セツコ

混ざり合わない死生観を砂粒で表す

──「ラストストロウ」のジャケットアートワークに使用されているサンドアートのようなビジュアルは、セツコさんが手がけたと伺いました。

セツコ はい。「プラチナエンド」のエンディングテーマとしてリリースする楽曲だったので、作品の軸にある“絶対に混ざり合わない死生観”みたいなものをビジュアルでも表現してみたくて。そこで思い付いたのが砂粒だったんです。砂粒って遠くから見ると色が混ざって見えるけど、近付いて見ると粒と粒同士は絶対に混ざり合っていない。最初はこのアイデアをデジタルで表現してもらおうと思ったけど、せっかくだから自分でやっちゃえと思って、スタッフさんと一緒に粗めの砂粒を集めて自分でザーって(笑)。

──まさに自分でイチから作った作品なんですね。

セツコ そうです。

──活動初期の頃のセツコさんには“プロデュースされる側”といった印象がありましたが、そのイメージがどんどん変わっている印象があります。今ではむしろ空白ごっこのイメージを引っ張る人間になっているというか。

針原 空白ごっこをスタートした頃からセツコさんの趣向を取り入れるようにはしていました。ただ最初はまだ右も左もわからないような状態だったから、僕ら大人がフォローする必要があっただけで。1年前くらいに配信した「運命開花」のジャケットからセツコさんに任せられるものが増えていって、今作のアートワークは完全にセツコさん主導で作ってもらいました。彼女、そもそも絵がうまいんですよ。

──これまでのインタビューでは、セツコさんのボーカルや作詞の才能について語られることが多かったのですが、ビジュアルに関するセンスも兼ね備えているとは驚きです。

針原 表現したいことが明確に彼女の中にあるんですよ。それを自分でやってみようという時期が2021年にあって、最近ではアーティスト写真を撮ったときのように自分の表現を誰かに依頼して作ることが増えてきて、プロデューサー的な考えもできるようになってきている気がします。

ボカロPとしてではなく、空白ごっことしての曲作り

──「ラストストロウ」の作曲クレジットに「空白ごっこ」と書かれているのが意外でした。これまでは3人のうちどなたかの名前が入るのが通例であり、今回のようにユニット名をクレジットに載せたのは初めてじゃないですか?

針原 クレジットに「作曲:空白ごっこ」と載るのは初めてですが、実際には前作の「天」くらいから、僕が作曲だけどkoyoriくんに編曲を詰めてもらっていたり、全員で1曲に関わる機会が増えていたんですよね。今回はせっかくテレビにクレジットが載るなら、みんなを示すものにしたいよね、みたいな思いもあって(笑)。

koyori アレンジに関しては編曲を担ってくれているエディくん含めて相互に触れたりする機会はあったけど、メロディ作りから全員が触れているのは初めてだったんじゃないかな?

針原 確かにそうかもね。

セツコ 私は作詞という役目を任されていたので、はりーさんとkoyoriさんが作った曲の土台と自分の歌詞を合わせるメロディをちゃんと考えなくちゃいけなくて、2人の大先生に相談しながらメロディ作りにも噛ませてもらいました。

針原 僕自身は今回の曲作りがすごく特別な作り方だったという気持ちはないんだけど、こうやって振り返ってみると確かにいつもと違ったアプローチだったのかもしれないね。

──基本的にボカロPの方は、曲作りのすべてを1人でやるクリエイターが多いように思うんです。はりーさんやkoyoriさんのようにボカロPとして大成された作家同士がしっかり手を組んで1曲に取り組むというのは、当時の活動を知っているファンからしたらちょっと意外なことなんじゃないかと。

koyori なるほどなあ。確かに空白ごっこの活動初期の頃は、個人の意識が強かったんですよね。僕もそうだったし、曲ごとに僕が作るか、はりーさんが作るかみたいな区分けがされているような感覚があった。でも「開花」の制作あたりから、アレンジを一緒にやるような作業分担の扉が開いてきた感じかな。

針原 koyoriくんに理解があるから、僕としてはやりにくいところはないんですよ。僕は編曲のエディくんと一緒にいることが多いのですが、強いて言うならDTMのソフトシンセなどの音色が違うからアレンジの途中段階での音のやり取りに、多少お互い気を遣っているくらいかな。それぞれ違う環境で音楽を作ってきたから。

koyori 最初は作業を分担することに慣れていなかったから戸惑うこともあったけど、今では「これをはりーさんたちに委ねたらこうなるだろうな」みたいなイメージができるようになってきて。空白ごっこが始まってから僕の中の意識が変わったのは間違いなくて、ボカロP時代にこんなことできなかっただろうな。

針原 1つ言えるのは、僕もkoyoriくんもボカロPのバックボーンというのを空白ごっこにそんなに持ち込んでいないんですよ。空白ごっことしての活動はチャレンジの連続だから、これまでの活動と地続きという感じは全然なくて。

koyori そうですね。もちろんボカロPとして培ってきたものはあるけど、これまでの活動をかいつまんで出している感覚はまったくなくて。空白ごっことして初心を忘れずに曲作りができている感じですね。メロディの作り方とか、ギターフレーズに表れる持ち味みたいなものがあると思うんですけど、それを繰り返し使わず、極力自分がやったことのない音を突き詰めていく意識はありますね。

セツコ

セツコ

──実際の曲作りはどのように進めたんですか?

koyori サウンドの根底となる部分は、はりーさんが作ったんですよ。そこから僕がアレンジしたり、セツコさんがメロディを考えたりして。

針原 僕とエディくんのタッグでバラードを作るのが得意というのもあって、曲の土台作りはこちらサイドからだったね。でも僕の持ち味を発揮するというより、「koyoriくんだったらこうするかな」みたいなことを考えていた気がします。意識したのは壮大になりすぎないことかな。例えば空白ごっこの曲は長くて4分くらいで、だいたい2、3分の曲が多い。でもいろんな楽器を盛り込んでバラードを壮大に作ってしまうと4分半とか5分の曲になってしまうから、そうはしたくなくて。あくまで空白ごっこらしい、ソリッドさのあることをやりたかったので、アレンジャーのエディくんを悩ませました。最後のサビの構成は最高の発明だったと思います。

koyori 転調はするけどオケが抜けてシンプルになる構成なんですよ。だからアウトロも潔く終わらせられて。

針原 エディくんとアウトロが長いパターンも試したんですが、空白ごっこの曲としてはこれが正解かなと思っています。

2022年2月18日更新