ナタリー PowerPush - □□□

新作の秘密を耳で読む!? 前代未聞のフィールドRECインタビュー

Twitterで人を集めて路上レコーディング

──「飽きる」ではTwitterで人を集めて録音されたりもしていましたね。それもこれで?

いとう これで録って。「飽きる」は急に康嗣が「ライブしてそれを録っちゃえば、それもフィールドレコーディングなんじゃないか」って言い出したんで、それで「それいい!」って。たまたまTwitterを全員やって盛り上がっていたから、もうTwitterで集めりゃいいじゃん、みたいな。それでTwitterで声かけて勝手に来てもらった。レコーダーを3人とも違う場所に置いておいて、終わったらすぐ康嗣んちにそのまま帰って、お互いのやつを全トラック聴いて、音的に一番これがいいねっていうのが選ばれた。それをさっくり使っただけでしょ?

三浦 そうですね。まんま。

いとう だから、これが楽器だよね。すごく大事な楽器で、これで記録した現実音を聞いて初めて、康嗣がそれに対するリアクションとしてメロディや世界を作っていくわけ。だから世界に対する劇伴ですよ。世界に対して伴奏するわけ。でもただ何となく音楽を付けましたっていうんじゃなくて、今僕が見ているこの世界の素晴らしさとは何だろうっていう意味に対して伴奏を付けたり、これってすごく悲しいことだよね、だけど本当のことなんだよなっていうことに伴奏を付けたりする。そこで今度は康嗣から世界に向かって語りかけるっていうか、要するに世界はチョップされてっちゃうわけだから世界が変わってっちゃう。そういうコミュニケーションの過程がこのアルバム。

──リスナーにも、世界の音と、このアルバムの音とのコミュニケーションがあるんでしょうね。

いとう 全員が違う環境で、違う世界の中で聴くわけで、そのときに今みたいな音がしたときはすごくラッキー。とってもいい音楽をその人は聴いたわけじゃないですか。そのことを今回のアルバムはすごく表現できていると思うんですよね。

(今度は廃品回収車がBGMと売り文句を流しながら通り過ぎる。やけに大きなスピーカー音声)

いとう またいい音。アコギなんだよこれ。なんでそこにそのギターを合わせてるんだっていう。作った人の気持ちが何かあるんだろうけど。普段はこういうの聞き過ごしてるよね。

三浦 そうですね。そういうものにどんどん耳を傾けていきたくなりますよね。

インタビュー写真

いとう 僕はこのアルバムがほぼ完成しかかってるときに、ベランダ園芸やってるから夜中にうちのベランダに出たんだよ。そしたら、14階くらいなんだけど秋の虫は不思議なもんで土から卵がかえっててリーリー鳴いてるわけよ。そこを遠くで自転車みたいのがキッて鳴ったり車がブオーとか鳴って、「なんか今日すごいいい音してるなー」と思ったらさ、レコーディングもう終わってるのにまた録音しちゃって。したらね、15分くらい切れないんだよね、そのライブが良くて。そういう偶然に出会えることの喜びをこのレコーディングで知ったっていうのはすごく大きい。僕らのアルバムを聴いてくれた人もさ、さっきみたいな外で鳴っている音が実は音楽になっているんだっていうことに気付くっていう意味では、これはもう強力にいいメディスンですよ。薬ですよ。

三浦 それと同時に、このアルバムは例えば「やさしくわかるジョン・ケージ」みたいな、そういう入り口にもなる。そういうガイドでもある。

いとう 現代音楽へのね。とってもポップな、現代音楽への、しかも一番洗練された入り口。

三浦 入門みたいな機能を果たす奥行きもあるのに、でもすごいキャッチーみたいなのがなんだかいいなあって。単体で終わらないで、ほかの作品につながる可能性がある。それに「つながって」っていう歌詞が今回すごい多いんです。

いとう そういうのって文学だと「間テクスト性」っていうんだけどさ、つまり「間音楽性」があるんじゃないの? 僕らの音楽が、現実との間に立ったり、歴史上の人たちとの間に立ったり、未来に誰かとてもいいものを作るであろう人たちとの間に立ったりしているっていう。

三浦 そうですね。「わかんないものをやろうとする傾向がある」ってさっき言ったんですが、それもやっぱりたぶん「つなげる」っていう意識がすごく強くあるんだと思うんですよね。今の自分にわからないことをとりあえず作るっていう。今自分が好きって信じてるものも「本当か?」って逆のことやってみるとか、そういうのがつながる結果になると信じたいみたいなところはあるんですけどね。

いとう 勇気を持って一歩二歩前に出てみるっていうね。まあ、やってみたらできないかもしんないけどね(笑)。

10歩先を行く、常識を覆すライブ

──今後ライブをやっていくと思うんですが、そこでも何かCDとは違った見せ方がされるんですか?

いとう 10歩前に出てるよな!! 今の頭の中では。出すぎだね。下手したら舞台から落ちちゃうような。ライブはとにかく観たほうがいいと思う。音楽やる人は、音楽界の人は「ああ、こういう常識から自由になるということをなぜ我々は思いつかなかったんだ」っていうことだらけ。

三浦 フフフフ。すごいよくわかります。

いとう やってみるけど……どうなんだろうな。大きく言ったはいいけど(笑)。でもそういうイメージだろ? そういうイメージでやりたいんだよね俺たちは。

──常にそのわからないものに向かって進もうという感じがあるんでしょうね。

いとう 「こうしたらこうするもの」とかいう常識は全部一回やめようやっていうところから始まってるからね。

三浦 だから今回******ですもんね。

いとう 言っちゃダメだって!(笑)

三浦 あ、そっかそっかそっか(笑)。

いとう まあとんでもないと思う。とんでもないけど別に奇をてらってとんでもないわけじゃないから。原理的にものを考えていくとこうなるなっていう。

□□□が牽引する10年代

──今回のアルバム以降もそういうふうに原理的に音楽について考えつつリリースを続けていくのでしょうか。

いとう 次がやばい。2年後ぐらいじゃないの、あれ。

三浦 え、******ですか? 1年後じゃないですか?

いとう だからなんで言うんだよ!! 言うなって言ってるんだよ!(笑) 今回のアルバムは今できる最高のことをやったと思うんだけど、さっきの康嗣の話じゃないけど、さらにそれを次につなげることも僕らは射程に置きながらこれをやってるから、そういう意味で□□□をよろしくお願いしますっていうことですね。

──90年代を終わらせたバンドとしてデビューした□□□が、このアルバムでゼロ年代を終わらせて次の10年代を開始するのなら、すごい楽しみですね。

三浦 そう言ってもらえるとうれしいですね。このアルバムも、発売日が2009年12月2日ですしね。うまくゼロ年代の終わりにリリースされることになって。

いとう それはお前の作業が遅れたからだろ! いい加減にしろ!(笑)

三浦 あ、それいいツッコミ。

いとう いいツッコミじゃねえよ!

インタビュー写真

ニューアルバム『everyday is a symphony』 / 2009年12月2日発売 / 3000円(税込) / commons / RZCM-46305

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CD収録曲
  1. Everyday
  2. Good Morning!
  3. Tokyo
  4. 卒業
  5. ヒップホップの初期衝動
  6. 有志の宝くじ
  7. 温泉
  8. moonlight lovers
  9. 夢中
  10. 花見
  11. Re:Re:Re:
  12. 飽きる
  13. 00:00:00
  14. everyday is a symphony

natalie interview music をダウンロードする (9.4MB)

everyday is a symphony 御披露目会

日程:2009年12月5日(土)
場所:東京・代官山UNIT
時間:18:00 OPEN / 19:00 START
出演:□□□(三浦康嗣、村田シゲ、いとうせいこう)
ゲスト:オータコージ(曽我部恵一BAND)/中村有志
演出:伊藤ガビン

全席自由 前売3150円(ドリンク代別)

問い合わせ:
ホットスタッフ・プロモーション
03-5720-9999
http://www.red-hot.ne.jp/

□□□(くちろろ)

三浦康嗣と南波一海の2人によるブレイクビーツユニットとして1998年結成。2004年の1stアルバム「□□□」で高い評価を獲得した後、2005年に2ndアルバム「ファンファーレ」を発表。歌もの、ヒップホップ、ソウル、ハウス、テクノ、音響など幅広い要素を取り入れ、実験的でありながら誰もが楽しめる独自のサウンドで一躍ポップシーンの第一線に躍り出る。2007年にはcommmonsレーベルに移籍しシングル「GOLDEN KING」でメジャーデビュー。同年末に村田シゲが新メンバーに加わり、2008年5月に南波一海が脱退。5thアルバム「TONIGHT」のリリースを経て、2009年7月にいとうせいこうが正式メンバーとして加入。3人による新編成で2009年12月、6thアルバム「everyday is a symphony」をリリース。