ナタリー PowerPush - □□□
新作の秘密を耳で読む!? 前代未聞のフィールドRECインタビュー
中村有志 a.k.a ファンキー・キングの怪演
──以前に環ROYさんとコラボした「宝くじ」のリメイク曲「有志の宝くじ」は中村有志さんがフィーチャーされていますね。かつて中村さんがファンキー・キング名義で楽曲を出されていたことへのオマージュでしょうか。
いとう その流れにありますね。僕は最初、環くんたちとやったやつを聴いてなくて、カラオケだけ聴いたんですよね。そんでもう幸福の絶頂みたいな音楽だったので、そんときにもう、これ有志さんが「当たった~!」って言ったらもう最高に面白いと思って。「とにかく1回録ってみてくれ、こんな感じになると思う」って言って、1回僕バージョンでも録ってあるんですよ実は。康嗣なんかはすごく満足してくれて「もうこれで十分じゃないですか」とか言ってるんだけれども、「いや、有志さんのはもっとすごい! こんなんじゃない!」と(笑)。
三浦 うち来て録ったんですよ。苦情が来ないか本当にヒヤヒヤもんでしたけどね。宝くじに人生賭けてるって言ってました。毎回買い続けてるって。宝くじが大好きなんだって(笑)。
いとう そう。だから「もし当たったら」と思わせたらあの人の右に出る者はいないという。「当たった!」とか大声で叫んで泣いたり笑ったりしてるんだもんね。あの宝くじに対する情熱と、あとはその演技に賭ける異常な、なんていうのかな、計算を一切しないで全部出すっていう性格が、あのきれいなキラキラのトラックの中に乗ったときのイメージはもう僕の中にあったんですよ。そしたらそれ以上のものが上がってきましたね。あれ好きなんだよなあ。いや、いい演技なんだよねー。泣いてるかと思ったら笑い出してる、かと思ったら狂っちゃうんだよね。
三浦 素晴らしいですよね。
いとう いい演技なんだよなー。すごくシアトリカルというか、演劇的な音楽というのをあれが象徴してるんじゃないかな。今回のアルバムを。
──「有志の宝くじ」もある意味そうですが、今回のアルバムは全体としてエモーショナルな歌唱が前に出ていますね。いとうさんは□□□の歌詞や歌についてどうお考えでしたか。
いとう 一番すごく伝わるようになってきたのが「TONIGHT」なんですよね。あれで康嗣が世界観っていうものをすごく作ろうとし始めた。それまではたぶん歌詞というよりも、音楽があってそれぞれの音にこの言葉が乗っていたらいいなっていう感じだった。世界を描くというより点描みたいなことをやってたと思うんだよね。それがもう少し3Dになって意味を持ってきたのが「TONIGHT」なんですけど、それは自分で言うのもなんだけど、やっぱりその前にやったシングルの、僕が歌詞を書いた「惑星のシェルター」っていう曲あたりから康嗣の歌がすごく良くなってるんですよ。あれは僕が「気持ちを込めて歌ってほしいな」みたいなことを言って歌詞を渡しているから。歌入れにずいぶんかかったって言ってたもんね。
三浦 そうですね。大変でした。
いとう その後になる今回のアルバムは、例えばラフを聴くと「あ、歌い方変えたな」とかっていうのがある。ここは臭くなりすぎたからやめたんだなとか、ここ感情伝わってないから歌い直したんだなとかっていうのを、盛んに直してるんですよ。バックトラックだけじゃなくて。それは今までの□□□には多分なかったんじゃないかなと僕は思ってるんですけどね。
三浦 そうですね。歌に関しては今回は本当にやり直したりとかしましたね。うまいへたというより「こうあるべきじゃないだろう」という感じで。
インタビュー中にヘリコプター来襲!
──しかし例えば「TONIGHT」には歌う前から切実な歌詞が付けられていたわけですけど、その切実さっていうのは歌詞を書く時点で三浦さんの思いとしてあったんですか。
三浦 どうなんですかね。あの曲に関しては、半分、本当に降りてきたっていう感じはあったんですよね。100%メッセージとして俺はこれを伝えなきゃいけないんだっていうほどではないですけど、物語的にはしたいと思ってました。小さいときに野球場に行ったときのワクワク感と、ちょっと前にフェスとかに行ったときのワクワクする感じみたいなのを重ね合わせようかなと思ったんです。でもちょっと違うなと思ってたら、なんか「死んでみた」っていう感じとか、三途の川を行進してるイメージとかいう、全体の流れが浮かんだんです。そういうことは歌詞を作るときには滅多にないんですけど。
──なるほど。じゃあ今回のアルバムでそういう「降りてくる」感じというのはあまりなかったのでしょうか?
三浦 今回は、もう逆にフィールドレコーディングに引っ張られて作りましたね。最初に曲があった訳じゃなくて、最初にあるのは素材で、例えば卒業式の合唱であったり電車の音だったりっていうのがあったので。
いとう 「それ面白いね、"卒業"で一個できたらいいね」っていう感じでね。
三浦 そうそう。何も考えてないわけです。とりあえずあるものを何かわかんないけど触っていっていくうちにこうなって、それで卒業式がなぜかああいうバラードっていうか何かちょっとフォークっぽい曲になっちゃったりとか。それは全然、最初からああいう曲があったわけじゃない。
──なるほど。それで、歌詞もそれに沿わせるように書いたわけですね。ただ今回はそこで現れた歌詞を歌うときに感情をしっかり込めていったというわけですか。
三浦 そうですね。せいこうさんがやっぱり、そういう意味ではものすごくうまいから。うまいというか、すごくできてるから、それを端で見てるとじゃあ自分もちょっともっとがんばんなきゃなって思ったところがある。
いとう 「こんな感じなんだけどさ」って言って、やってみせたりするわけですよ、スタジオに行って。それがラップであってもね、僕が「ヒップホップの初期衝動」の特に2ヴァース目とかで回想に入るところなんかは、やっぱり本当にそこで説得して「こうだったんだよ!」って伝えたい気持ちのフロウがあるはずなんですよ。それを康嗣とかが聴いてくれて「ああ、そういうふうにやればいいのか」みたいな感じになってくれて、さらに康嗣がそれをやることによって、例えば「Re:Re:Re:」のとき既にそうだったんだけど、シゲが女子高生みたいな演技をし始めて。「他には誰が来るぅ?」ってシゲのキャラじゃないもんね。他の人の芝居までそういうふうになっていくなら、ならこっちはもっとやったっていいんじゃないか?っていう感じで、お互いの引き出しを開けあって、今までのボーカルやラップではなかった、気持ちの幅と声の幅みたいなものが曲の中に入っていった。
(建物の上空でヘリコプターが飛ぶ音がして、インタビューが中断するほどうるさくなる)
いとう これはいい音。
三浦 ビートいただきました。
いとう ビートいただきました。ありがとうございました。
──わははは。アルバムのときもこういう感じで録っていたんですか?
三浦 三人ともみんなこれ(ローランドEDIROL R-09)を持ってて。なぜか色違いで。
──色違いで! カッコいいですね。
いとう 赤と黒と白。
三浦 色はたまたま分かれたんですよね。
CD収録曲
- Everyday
- Good Morning!
- Tokyo
- 卒業
- 海
- ヒップホップの初期衝動
- 有志の宝くじ
- 温泉
- moonlight lovers
- 夢中
- 花見
- Re:Re:Re:
- 飽きる
- 00:00:00
- everyday is a symphony
everyday is a symphony 御披露目会
日程:2009年12月5日(土)
場所:東京・代官山UNIT
時間:18:00 OPEN / 19:00 START
出演:□□□(三浦康嗣、村田シゲ、いとうせいこう)
ゲスト:オータコージ(曽我部恵一BAND)/中村有志
演出:伊藤ガビン
全席自由 前売3150円(ドリンク代別)
問い合わせ:
ホットスタッフ・プロモーション
03-5720-9999
http://www.red-hot.ne.jp/
□□□(くちろろ)
三浦康嗣と南波一海の2人によるブレイクビーツユニットとして1998年結成。2004年の1stアルバム「□□□」で高い評価を獲得した後、2005年に2ndアルバム「ファンファーレ」を発表。歌もの、ヒップホップ、ソウル、ハウス、テクノ、音響など幅広い要素を取り入れ、実験的でありながら誰もが楽しめる独自のサウンドで一躍ポップシーンの第一線に躍り出る。2007年にはcommmonsレーベルに移籍しシングル「GOLDEN KING」でメジャーデビュー。同年末に村田シゲが新メンバーに加わり、2008年5月に南波一海が脱退。5thアルバム「TONIGHT」のリリースを経て、2009年7月にいとうせいこうが正式メンバーとして加入。3人による新編成で2009年12月、6thアルバム「everyday is a symphony」をリリース。