ナタリー PowerPush - □□□

新作の秘密を耳で読む!? 前代未聞のフィールドRECインタビュー

「フィールドレコーディング・オーケストラ」という発明

──今回は今までの□□□のアルバムの中でもとりわけコンセプチュアルな作品になりましたが、「フィールドレコーディング・オーケストラ」というアイデアはどうやって思いついたのでしょうか?

いとう 「まず今までの□□□がやってきたことっていうのは何なんだろう」ってシゲと康嗣と僕で喋った。

三浦 前々作が「ブレイクビーツ・ミュージカルだ」ってせいこうさんが言って……。

いとう 次に「サンプリング・オペラだ」って言ったのか。「TONIGHT」の「TONIGHT」っていう表題曲はもう、いろんな人の声が入ってきて、サンプリングしたオペラみたいになっている。で、「ブレイクビーツ・ミュージカル、サンプリング・オペラって来たら、今度はフィールドレコーディング・オーケストラなんじゃないか」みたいな、何か論理的にやってたらパッと直感的に浮かんだわけですよ。何からサンプリングしてもいいわけだから、レコードに限らなくていいんじゃないのってことになった。じゃあフィールドレコーディングでオーケストラを作る、実音でオーケストレーションができたら、そんなすごいことはないみたいな話になった。

──なるほど。じゃあ□□□の今までの音楽性を踏まえて考え出されたんですね。

いとう うん。今までがこうだってことは、次はこれがあるんじゃね? っていう。それでその場で、こういうコンセプトで「everyday is a symphony」っていうタイトルでいったらすごくいいものができるんじゃないか? みたいなことを僕が言ったら「そうだそうだ!」みたいなことになって「よし、飲もう!」みたいな(笑)。

三浦 そのときは飲んでないですよ。

いとう そうか? 俺んち来たんじゃなかったっけその後。だってチーズフォンデュやったのは?

三浦 チーズフォンデュは新年会ですよ、あれ。

いとう そうだ。新年会のときはもう3人ともチーズフォンデュの模様をEDIROL(ローランド社製のポータブルレコーダー)で録ってたわ。「あけましておめでとうございます」って言ってシゲと康嗣が俺んちに来て、ドア開けたら中から俺が録ってるし外からも2人が狙ってるわけよ。あれ面白かったよね。なんか銃の突きつけあいみたいなさ。

三浦 そう。そして新年会でせいこうさんちに行くまでに録ってた音が「TOKYO」っていう曲の電車の音ですよ。年末ダイヤの。

──ああいう生活音をサンプリングしてループにするとか、アルバム冒頭のサウンドコラージュとかもそうですけど、サンプラーの使い方としてプリミティブな快楽がありますよね。

いとう そうですね。でも、その具体音でメロディ作ってっちゃうっていうような再構成はされてこなかったんじゃないかな。それを再構成するってことがポップさにつながっていくっていう感じもあるんだよね。それは僕がコンセプトとして言ったわけじゃなくて、康嗣の発明なんだけれども。

三浦康嗣の、ヒップホップの初期衝動

──□□□はヒップホップ色を強める前からも、ヒップホップに対して興味や愛情みたいなものがずっとあったのでしょうか。例えば「□□□」や「ファンファーレ」の頃とかであっても。

インタビュー写真

三浦 すごいありましたよ。小学校5年生から中学卒業までニューヨークに住んでたんですね。小5のときとかだとLLクールJとかそのへんとかどんぴしゃなタイミングだったので普通にヒップホップすごい好きだったし、日本に戻ってきたらちょうど「さんピンCAMP」ばりばりのときでヒップホップが面白くなってて。だからヒップホップは一番好きなんですけど、好きなものほどあまりやらないようにしようっていう発想がすごくあったんですね。それで、いわゆるコンポーズ、作曲をしてみようと思って1stとか2ndアルバムを作ったんです。作って「なんかもう、普通にいわゆる作曲、コンポーズって飽きたな」と思ってきたから、レーベルがcommmonsになって1番目の「GOLDEN LOVE」から、もう一度トラックメイキングっていうかサンプリングありきのものを作ってみようかなと思ったんですよね。

──サンプリングありきだから、当然歌だけでなくラップも乗せようと思ったわけですか?

三浦 そうですね。「ラップもやってもいいかな」というか、「やったことないからやってみようかな」っていう。全部勉強なんですよね、だから。1stも「普通の曲とか作ったことないから作ってみようかな」っていうことだったし。今思うと全部そうで、いまだに勉強ですね。フィールドレコーディングも、「じゃあ、やったらどうなるんだろう」っていう。「こういうことをやりたいからこういうふうに作る」って作ったことは、たぶんないですね。それだと何か作ったって気があんまりしないんです。その感じって人に説明してもあんまりわかってもらえなくて、特にミュージシャンだとそういう人は全然いないんですけど。

「なんとかっぽいの」を作っても曲ができた感じがしない

──では「GOLDEN LOVE」以降のサンプリングの手法は今回のアルバムにも引き継がれているのでしょうか。

三浦 いや、「GOLDEN LOVE」「TONIGHT」でやったサンプリングに対しては、自分の中でもう今できることは相当やりきっちゃった感があったんです。だから今回はエディットとかチョップとかプログラミングの上ではすごい簡単なことしかやってないですね。今までのほうが全然、もう何倍もめんどくさいことやってきた。でも伝わらないじゃないですか、そんなの。細かいことやっても。俺は面白いんだけど、たぶんあの「GOLDEN LOVE」とかのトラックを本当にちゃんとわかって評価してくれたのってFantastic Plastic Machineの田中(知之)さんぐらいですよ。田中さんとかめちゃくちゃなことやるじゃないですか。チョップでも「超めんどくさいことやってるな」って思うんですけど、あれぐらいの人じゃなきゃたぶん「GOLDEN LOVE」で俺がやってることの意味ってたぶんわかんない。

インタビュー写真

いとう 職人の世界だね。

三浦 そう、職人の世界なんですよ完全に。で、理解されないことに対して拗ねてた時期もあったんですけど、「そりゃわかんねえよな」って思うようになってきたんです。それは俺が悪いって。だから今回フィールドレコーディングの何がいいかって、構造を最初に提示できるんですよ。例えば電車だったら電車の発車のベルとか「東京です」っていうアナウンスとか、先にネタを見せられるじゃないですか。で、みんなが知ってるネタだから、そこで電車のベルがチョップされるだけでみんな「わ、面白い」ってなるわけですよ。

いとう そうだね。元ネタが想像しやすいってことでしょ。

三浦 そうそう。だから構造がわかる。電車のベルがあって、それがいきなりチョップされて、それにメロディがついて曲になるんだっていう。やってることは大したことないんですけど(笑)。

──でもサンプリングの楽しさみたいなものを一番伝えるやり方ではありますよね。

三浦 そうですね。大げさに言うとエデュテインメントというか。教育とエンタテインメント。

いとう ああ、KRS-Oneでしょ。

三浦 そうそう。最近だとKREVAの1人武道館ライブとかもね。

ニューアルバム『everyday is a symphony』 / 2009年12月2日発売 / 3000円(税込) / commons / RZCM-46305

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CD収録曲
  1. Everyday
  2. Good Morning!
  3. Tokyo
  4. 卒業
  5. ヒップホップの初期衝動
  6. 有志の宝くじ
  7. 温泉
  8. moonlight lovers
  9. 夢中
  10. 花見
  11. Re:Re:Re:
  12. 飽きる
  13. 00:00:00
  14. everyday is a symphony

natalie interview music をダウンロードする (9.4MB)

everyday is a symphony 御披露目会

日程:2009年12月5日(土)
場所:東京・代官山UNIT
時間:18:00 OPEN / 19:00 START
出演:□□□(三浦康嗣、村田シゲ、いとうせいこう)
ゲスト:オータコージ(曽我部恵一BAND)/中村有志
演出:伊藤ガビン

全席自由 前売3150円(ドリンク代別)

問い合わせ:
ホットスタッフ・プロモーション
03-5720-9999
http://www.red-hot.ne.jp/

□□□(くちろろ)

三浦康嗣と南波一海の2人によるブレイクビーツユニットとして1998年結成。2004年の1stアルバム「□□□」で高い評価を獲得した後、2005年に2ndアルバム「ファンファーレ」を発表。歌もの、ヒップホップ、ソウル、ハウス、テクノ、音響など幅広い要素を取り入れ、実験的でありながら誰もが楽しめる独自のサウンドで一躍ポップシーンの第一線に躍り出る。2007年にはcommmonsレーベルに移籍しシングル「GOLDEN KING」でメジャーデビュー。同年末に村田シゲが新メンバーに加わり、2008年5月に南波一海が脱退。5thアルバム「TONIGHT」のリリースを経て、2009年7月にいとうせいこうが正式メンバーとして加入。3人による新編成で2009年12月、6thアルバム「everyday is a symphony」をリリース。