ナタリー PowerPush - □□□
新作の秘密を耳で読む!? 前代未聞のフィールドRECインタビュー
説明不要のマルチクリエイター、いとうせいこうが□□□に加入するという衝撃的なニュースが伝えられたのは2009年夏。3人体制となった□□□は日常の音をサンプリングして楽曲に仕上げた文句なしの傑作アルバム「everyday is a symphony」を完成させ、12月2日に発売する。
この驚異的なアルバムはどうやって作られたのか? そもそもいとう加入の経緯は? そして、いとうにも□□□にも縁の深いヒップホップについて。ナタリーでは数々の質問を三浦康嗣といとうせいこうの2人に直接投げかけることにした。
ところがインタビューを開始する段になって三浦が取り出したのは1台の音声レコーダー。彼らが提案したのは、インタビューの模様を録音して□□□自身が楽曲を作り、記事と共にアップするという前代未聞のフィールドレコーディング・インタビューだったのだ。インタビュー記事と楽曲の両方から、□□□が繰り出す次の一手を探ってみよう。
取材・文/さやわか インタビュー撮影/中西求
□□□から、フィールドレコーディング・インタビューの提案
三浦 このインタビューを録音して、今回のアルバムみたいな感じで音楽にしてインタビュー記事と一緒にアップして読みながら聴くみたいな感じのを作りたいんですけど。一緒に上げていただくことってできますか。
──あ、大丈夫ですよ、もちろん。
いとう テキストを読みながら曲をお楽しみくださいってことだよね。インタビュー風景が音楽になりましたという。
──僕が記事にしたものと、三浦さんが曲にしたもので、意味合いが全く変わっていたほうが逆に面白そうですね。僕が「こう読ませよう」と思った部分の意味付けが食い違っていたり、言葉を削ったり書き足した部分が音のほうにはなかったりするほうが面白そうです。
いとう インタビューは意味を作るけど、楽曲は意味というよりもフレーズを作るっていう。
三浦 こういうことをやるのが今回のアルバムっぽい。多分誰もやったことないと思うんですよ。ミュージシャンが自らインタビューを録音して公開するって。
「ちょっと□□□俺も入れてくんねーか」
──では、いとうさんが□□□に加入された経緯から伺いたいのですが。
いとう 2007年の春から2008年にかけて僕がスペースシャワーTVっていうCS局で「音知連」っていう番組を持ってて、控え室にいるときにモニターからオンエアが流れていたんです。そこに「GOLDEN KING」をやっている□□□が出てて、「毎週かかるけどなんか気になるんだよなあ、ていうかこういう音、俺好きなんだよな」って気になって気になって仕方がなくて。それで番組に来てもらったときに□□□が「ラップ1曲やりませんか」ってその場で頼んできて、僕がアルバム曲で参加することになったり、その後のシングルでも歌詞を書いたりしていたんです。そうこうしていたら□□□がシゲと康嗣の2人組になって「TONIGHT」ってアルバムを出して、康嗣から「できあがった報告も兼ねて飲みたい」みたいな話をされて、なんで俺に報告してるのかもよくわからないけど(笑)、まあ俺も半分もう身内みたいな気分になってたから2人で酒飲んでいたんです。そのときに僕が「ちょっと□□□俺も入れてくんねーか」って言ったんですよね。
──しかし身内感があったとしても、自分が参加したいと申し出るというのはまた特別な考えがあったんでしょうか?
いとう そう。まあ身内感を感じるバンドはいろいろあるんですけど、「□□□でだったら自分が考えてきたこととか、ほかのミュージシャンではできないことができるんじゃないか」っていう激しい予感みたいなものがあった。まあ単純に言って役に立てると思ったっていうのかな。これはすんげえ新しいことが一緒になったらできると。それで康嗣に持ちかけてみたんです。そしたら「ていうかもう入ってくださいよ」「あ、いいの?」「ていうかもうそうです」みたいな話になった。
──「役に立てる」と思ったのはどのあたりだったのでしょうか。
いとう 加入させてくれっていう話をする直前に俺、□□□がUNITでやったときのライブ見てたんだよね。そんときにMCがたいへん心許なかった(笑)。俺が入ればそこ埋められる。まず第一に俺のMCがあればあそこは完璧に埋まる、と。
三浦 別のインタビューで「せいこうさん、なんで入ったんですか」って聞かれて「たぶん、なんかもどかしかったんじゃないですか」って答えましたね。「なんかこいつら、まあ面白いものを作ってるわりに全然プレゼン下手で何やってるんだ。歯がゆくて見てらんねー。うわーイライラするわ。俺がいたらこうやるのに」みたいな感じがあったんじゃないですかね。
いとう あった。もどかしかった。確かにそう。□□□がやってるレベルのことを人に伝えることがもっと必要なのに、そこんところがなんかもどかしいな、っていう思いがありましたよ僕は。見てて。上手に言えればすごくいいものがみんなに伝わるのにもったいないな、っていう。「MCタイムだけでもいいから俺を出してくれればいいのに」みたいな。
2ツッコミ1ボケでいこう
──それで、自分が加入すればいい、と。
いとう 僕もきっと音楽的に役に立てる、というかお互いに自分たちを高めてすごく面白いものを作れるっていう編集者的な直感ですね。直感的に「俺が入れば何とかなる!」っていうのが浮かんじゃったんだよね。ミュージシャンじゃない俺が入ることは世間的にもおかしいしさ、そういう面白さって□□□っぽいかもって。飲みの席で浮かんだのか、もともと思ってて会いに行ったのかはもう忘れちゃったけど。
──三浦さんは加入の申し出を受けたときに迷わずOKしたんですか?
三浦 もともと□□□は不特定多数のメンバーで始めていたので、人が増えるにも、下手したら減ることに対しても抵抗がなかったんです。大学のときからずーっと遊びながらやってたようなものに初めて「入りたい」って言ってもらえたんで、ごく自然に「あ、入りたいんだったらぜひぜひお願いします」ぐらいな感じで。でも一応、今のレコード会社がいわゆるメジャーレーベルでちゃんと契約してたりするから、そういうのがちょっと大変だなっていうのは一応頭に浮かんだんですけど……まあ、あんまり考えてなかったですね。
いとう 考えてないんだ(笑)。俺は考えてたけどな。まあでも、それは康嗣の考えることじゃないしな。
──「MCが心許ない」というのは自分として実感はあったのでしょうか。
三浦 いや実際、心許なかったですよ。UNITのときとか。たぶんメジャーに行ってから、あらゆる意味で自分の中のモードが変わって、より学者っぽくなっちゃったんで。たぶんインディーの頃のほうがもうちょっと……。
いとう ハジけてた?
三浦 ハジけてるっていうかね、インディーの枠内で「こういうふうにしといたらいいんだろうな」ぐらいのことを、もうちょっとやってたような気がするんですよね。でもインディーの頃は何も考えずダラッと、ひどいこととかもポロポロ言ってたんですよね、今思い出すと。そういうのあんまり良くないなと思って。誰かを傷つけたり、なんか波風を立てるような発言っていうのはできるだけ抑えなきゃって。それは自分のダメなところだって考えていくと、何を喋ればいいかわからなくなっちゃって。
いとう シゲもすごくいいツッコミの才能持ってるんですよ。でも、何となく康嗣に遠慮して突っ込みきってないし。だから俺は「これはダブルツッコミ1ボケでいけるんじゃないか」って思ったんだよね。
三浦 2MC1DJみたいな。
いとう そうそう。「2ツッコミ1ボケでいけば、もうこれはMCタイムも面白い!」と。お互いのキャラも立つと。で、音楽は良くなるに決まってんだから、そういう強力なバンドになるぞ、という読みがあったわけ。
CD収録曲
- Everyday
- Good Morning!
- Tokyo
- 卒業
- 海
- ヒップホップの初期衝動
- 有志の宝くじ
- 温泉
- moonlight lovers
- 夢中
- 花見
- Re:Re:Re:
- 飽きる
- 00:00:00
- everyday is a symphony
everyday is a symphony 御披露目会
日程:2009年12月5日(土)
場所:東京・代官山UNIT
時間:18:00 OPEN / 19:00 START
出演:□□□(三浦康嗣、村田シゲ、いとうせいこう)
ゲスト:オータコージ(曽我部恵一BAND)/中村有志
演出:伊藤ガビン
全席自由 前売3150円(ドリンク代別)
問い合わせ:
ホットスタッフ・プロモーション
03-5720-9999
http://www.red-hot.ne.jp/
□□□(くちろろ)
三浦康嗣と南波一海の2人によるブレイクビーツユニットとして1998年結成。2004年の1stアルバム「□□□」で高い評価を獲得した後、2005年に2ndアルバム「ファンファーレ」を発表。歌もの、ヒップホップ、ソウル、ハウス、テクノ、音響など幅広い要素を取り入れ、実験的でありながら誰もが楽しめる独自のサウンドで一躍ポップシーンの第一線に躍り出る。2007年にはcommmonsレーベルに移籍しシングル「GOLDEN KING」でメジャーデビュー。同年末に村田シゲが新メンバーに加わり、2008年5月に南波一海が脱退。5thアルバム「TONIGHT」のリリースを経て、2009年7月にいとうせいこうが正式メンバーとして加入。3人による新編成で2009年12月、6thアルバム「everyday is a symphony」をリリース。