Kroi「Unspoiled」インタビュー|バンドの集大成と進化見せるメジャー3rdアルバム完成

1月に行われた初の東京・日本武道館ワンマンライブ「Kroi Live at 日本武道館」をソールドアウトで終え、3月に初出演したアメリカ・テキサス州オースティンの複合イベント「SXSW」では技巧派バンドぶりを遺憾なく発揮して海外の音楽ファンを踊らせたKroi。音楽番組への出演などメディア露出の機会も格段に増え、この1年で彼らの存在を認知したというリスナーも少なくないだろう。

注目度高まる中でリリースされたメジャー3rdアルバム「Unspoiled」には、テレビアニメ「アンダーニンジャ」のオープニングテーマ「Hyper」や、テレビアニメ「ぶっちぎり?!」オープニングテーマ「Sesame」、スターオリジナルシリーズ「SAND LAND: THE SERIES」のオープニングテーマ「Water Carrier」など、Kroiのリスナーの間ではすでに馴染みのあるタイアップ曲を多数収録。書き下ろしの新曲を前半に持ってくる大胆な構成や、バンドの新機軸を感じさせるようなサウンドからは、彼らがたびたび口にする「リスナーを驚かせたい」という強い意思が見て取れる。

このインタビューではメンバーに「Unspoiled」に込めたこだわりや、バンドの規模が急速に拡大する中でも忘れず大切にしていることなどについて語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / TAGAWA YUTARO(CEKAI)
スタイリング / Minoru Sugaharaヘアメイク / Chika Ueno

アルバムは2年に一度の発表会

──「Unspoiled」を聴いて、冒頭からシングル曲とは違う新しいKroiの表情が見えてくるような、鮮烈で冒険心に満ちた素晴らしいアルバムだと感じました。まずは本作を完成させた今のお気持ちを1人ずつ聞かせてください。

関将典(B) この3カ月くらいで仕上げた作品なんですけど、その間に今までにない経験をたくさんしたんです(※インタビューは5月下旬に実施)。アメリカに行って「SXSW」に出演したり、テレビ出演の多い月があったり、何より年始には日本武道館でのライブもあった。そういうこれまでの活動にはなかったことに取り組みながらの制作だったので、正直「ちゃんと作品と向き合えているのか?」と思う場面もありました。でも、いざアルバムが完成してみると真摯に向き合って作り切ることができたんだと実感しました。

Kroi

Kroi

長谷部悠生(G) 関さんが言うように、バンドの状況が「telegraph」(2022年7月発表のメジャー2ndアルバム)を作った頃とはだいぶ変わったんですよね。曲を作って、リリースして、ツアーをして……という、いつもの活動の間にテレビ出演であったり、武道館ワンマンであったり、デカいトピックがたくさんあった。特に最近はタイアップをたくさんやらせてもらって、それをシングルとしてリリースしたことも大きかったです。タイアップ曲はKroiを知らない人たちに俺らの音楽を聴いてもらうチャンスでもあるから、そこに向けた曲の作り方にはなるんですよね。だからシングル曲はシングル曲で挑戦したこともあるし、新曲でかなり自由に好きなことをやれた感じもあるし、「Unspoiled」はそういうのがうまいバランスで混ざり合ったアルバムになったんじゃないかと思います。

益田英知(Dr) カレンダーを確認したら、武道館が終わってから1週間後にアルバムのドラムレコーディングが入ってますね。それまではアレンジやプリプロもやっていない状態だったし、武道館までは気持ちを外に向けて活動していたので、レコーディングが始まっても最初の頃はあまり身が入っていない状態でした。ただ、2週に1回レコーディングをして、その間にプリプロやアレンジをやるというハイペースな作業をやりながらアルバム用の曲を1、2曲くらい録ったタイミングで、関がPDFで資料を作ってきてくれたんです。その資料には「Unspoiled」というタイトルや、ジャケットのイメージが載っていて。制作ペースは相変わらず急ピッチでしたけど、頭の片隅に常に「Unspoiled」という言葉がある状態で作業ができたから、1つのテーマに向き合う感覚でレコーディングができたのはよかったですね。

千葉大樹(Key) 僕はアルバムは2年に一度の発表会だと思っていて。この発表会を無事に迎えられたことにまずはホッとしています。制作が始まると、考える間もなく手を動かし続けなければならないので、とにかく一生懸命やっていたという感じで、何を意識していたというわけでもないんです。ただ、これまでにリリースした作品と比べてできることが増えていて、そういう部分で成長を感じて安心しました。今までやってないタイプの曲も入っているので、あとは聴いた人にお任せします。とにかく一旦、ここまでがんばりました。

内田怜央(Vo) アルバム、ずっと作りたかったんですよ。やっと作れるってタイミングで今回はタイアップ曲をたくさん入れることになって。既発曲がたくさんある中で、自分たちのやりたいことをどのくらいのバランスで出すか、というのはかなり意識しました。あとは……千葉さんの「アルバムは発表会」って言葉、いいですね(笑)。

千葉 ありがとうございます(笑)。

内田 気に入りました(笑)。まさに、アルバムは発表会なんですよ。自分たちが今やりたい音楽を制作を通して確認できたし、課題も見えたし、このアルバムが世に出ることでまた成長できる気がします。

──関さんがアルバムタイトルを提案する際に資料を作られたというのは以前インタビューで拝見しましたが、そこにはすでにジャケットのイメージもあったんですね。

 そうですね。「Unspoiled」には“腐っていない”とか“ダメじゃない”“損なわれていない”という意味があるんですけど、最初はフレッシュな果物や食品、そこに音楽にまつわるものが雑多に混ざっているようなイメージを作っていたんです。ほかのタイトル案に、英語のつづりを忘れてしまったんですけど“防腐剤”という意味合いの言葉もあって。そういった意味を踏まえて、今回はRakさんという俺らがめちゃくちゃ尊敬しているアートディレクターの方がいいものに仕上げてくださいました。アルバムタイトルに込めた思いはジャケットにも反映されていると思います。

売れる曲を作って売れても気持ちよくない

──武道館ワンマンを終えてすぐにアルバム制作に取りかかったそうですが、当時はその後のバンドの展望やビジョンについてどのように考えていましたか?

内田 武道館が終わって、より「売れてえなあ」と思ったんですよ。というか、武道館でライブをやっている最中から「これ次が大変だな」という感覚でした。武道館ってバンドにとって1つのゴール的なところがあるじゃないですか。そこからさらに上に行くのって大きな壁だと思うんです。その壁を破れるような音楽を作らなきゃいけないんだなと。ただ、売れる曲を作って売れても気持ちよくないから、自分たちがやりたいことを周りのバランスを見ながらしっかりとやっていく。俺は革命を起こすのが目標なので、そこのバランス感覚はより鋭くしていかなきゃなとは思いましたね。

内田怜央(Vo)

内田怜央(Vo)

──武道館ワンマン後に「売れたい」と思ったのはご自身としては意外でしたか? それとも自然に湧き出た感情だった?

内田 自然な感じだったと思います。これまでもライブハウスのキャパを更新するような、バンドの節目のタイミングには「次は何すんだろう?」って考えるんです。ワクワクしすぎちゃって、考えが次にいっちゃう。武道館ではインディーズ時代の記憶がフラッシュバックしたりもしたけど、ライブの後半にはもう「次はどうしよう?」と考えていたので。

──内田さんは常々「革命を起こしたい」とおっしゃっていますが、改めてそれはなぜなのだと思いますか?

内田 学生時代に自分が好きなアーティストの話をできる相手があまりいなかったからじゃないですかね。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)やファンクが好きで「みんなとこういう音楽の話をできればもっと楽しいのにな」と思っていた。その頃の自分とか、今の若い子で自分みたいなやつらを救うためにやっている……というか。日本のメジャーシーンに俺が好きだったような音楽が増えたらいいのになと思うんです。自分たちがやりたいことは忘れず、ちゃんと聴いてもらえるような曲を作る、それをただひたすらにやっている感じですね。

──曲作りに関しては、どういったモチベーションで取り組んでいました?

内田 落ち着いた曲をやりたいというのはありました。ここ最近ライブで強い曲ばかりできちゃっている感じがあったんですよ。新しい曲が増えていく中で、このままだとセトリのバランスが悪くなるかもなとは考えていて。だからローテンポでもしっかりと聴き応えがあって、ライブ映えしそうな曲を作りたかった。1曲目の「Stellar」なんかはそれを形にした曲で、ライブでどうなるかはまだわからないけど、反応が楽しみなんですよね。