Kroi「Small World」インタビュー|悩みを持つ人間の美しさ、狂気の素晴らしさ描く (2/2)

「Small World」はすべてが新しい

──ここからは新曲「Small World」について聞かせてください。

 この曲、益田が大好きなんですよ。本当は「nerd」に収録する予定だったんですけど、ほかの曲を録っていくうちに今回は外そうかという話になって。

──なんでそうなったんですか?

内田 「Juden」を録ったときに「元気な曲が続くとよくないね」みたいな話になったんですよ。

 うん。それで代わりに「おなじだと」を入れることにして。

内田 それもあって「nerd」はおしとやかな感じの作品になったのかなと。

千葉 今思うと入れてもよかった気がする(笑)。

──益田さんはこの曲がお気に入りとのことですが、具体的にどこが刺さったんですか?

益田 「Small World」はすべてが新しいんですよ。俺らが今出す曲として、自分たちの好きなものが詰まっているというか。国内では聴かないような表現がセクションごとに入っているので、サウンドとしても新鮮でした。Aメロでシンセの音に興奮して、Bメロのギターとベースのユニゾンで興奮して……。

益田英知(Dr)

益田英知(Dr)

 そもそもデモはいつ頃作ったんだっけ?

益田 去年の1月かな。

──じゃあ「LENS」(2021年発表のメジャー1stアルバム)を作っている頃ですか?

内田 ですね。「LENS」のリードを決めるタイミングで僕が提出したデモのうちの1つです。

──以前、ナタリーのインタビューで話していた例のやつですか? 提出したデモがメンバーからボツをくらって、内田さんが焦っていっぱい作り直したという(参照:Kroi「LENS」インタビュー)。

内田 あ、そうです(笑)。

千葉 そんなこともあったな(笑)。でも、最近レコーディングをするときは、そこからつまんでくることが多いので、そのとき出してもらった曲はわりと名曲ぞろいなんですよね。

──この曲は華がありますよね。ド頭はジャズからの影響を少し感じました。

内田 確かに。ド頭のド頭フレーズ。

千葉 ネオソウルとか、ジャズっぽいコード進行ですね。デモの段階でこれが入ってたんですよ。

内田 イントロに何かないと気持ち悪いんです(笑)。

──確かに内田さんらしい仕掛けかもしれないです。全体的にシンセとギターの上音が目立っている印象を受けました。

長谷部 ギターの音、一番デカい気がする。

千葉 うん。デカくした。

長谷部 前作からメインで使うギターをレスポールにしていて、歪みの音はマジでその影響が出てますね。頭のギターリフが大事なところだと思ったので、イントロには普段使わないエフェクトを入れてみたり、サウンドメイクはこだわっています。で、セクションごとにキャラクターが違う曲なので、それをどう同じストーリーにまとめるかも考えながら録っていました。

長谷部悠生(G)

長谷部悠生(G)

 あと、ベースが帯域的に下にいるので、上音に耳が行くのはそれもあるかもしれないです。

千葉 というか、そもそも普段弾かないベースを使っているもんね?

 テックの方が持って来てくださったベースをお借りしているので、今まで自分がレコーディングで使ってきたベースとはキャラクターが違いますね。今回弾いているのはWarwickというメーカーなんですけど、これまでのKroiのベースにはなかった音なんですよ。なのでほかの楽器では代え難いレンジ感で、独特の帯域の音が出せました。

──「nerd」に比べると音数が多い印象も受けましたが、それは意識的なんでしょうか?

千葉 気合いが入ってたんじゃないですか? 益田さんがすげー言うから(笑)。

──なるほど(笑)。

内田 「Small World」ほど出したときの反応が気になる曲はないですね。この曲を気に入ってくれるのは、「このくらい攻めててもいいよ」という寛容な人だと思うので、この曲を「好き」だと言ってくれる人間が僕は好きです(笑)。

益田 俺も好き。一緒に釣りに行きたいくらい。

「Small World」で描いた狂気の素晴らしさ

──内田さんはこの曲で意識したことはありますか?

内田 ハネのタイミングですかね。ベースのフレーズはめっちゃハネてたほうがカッコいいんですけど、ビートはハネてないほうがいいよねって話をプリプロの段階でしていて。益田さんのドラムには、絶妙なハネ感を出してもらいました。

長谷部 ただ、ギターはイーブンのほうがいいんだよね。

内田 そうそう。

千葉 アルペジオのシンセとか、上モノは全部イーブンでやっています。そのうえで、ベースとドラムはニュアンスが違うけど若干ハネているという、複雑な構造になっているんです。

内田 それで深みが増しましたね。

千葉 作っているときは「いけるのか?」と思ったんですけど、意外といけたので。そういうノウハウもこの曲で貯まりました。

──歌詞はわりとダイレクトと言いますか、現状に対する歯痒さと、裏返しにある期待を歌っているように思います。

内田 前にも1回こういう歌詞のタームがあったんですよね。「STRUCTURE DECK」(2021年1月発表の3rd EP)のときに、「嫌な日常から抜け出すために、どういう考え方をしたらいいのか?」という葛藤にフォーカスした楽曲を作っていたんですけど、それに1回飽きまして(笑)。そこから怪談とかを聴いて怖い歌詞を書き始める「LENS」の制作時期がきたんですけど、それにも飽きて、それでまたちょっと戻ってきた感覚です。

──「結局は飽和する悩み」というラインは、すごくリアリティを感じました。

内田 悩んでいる人の美しさ、そのカッコよさみたいなものを表現したいと思いました。悩み抜いた結果、ちょっとおかしくなっちゃってるくらいの狂気の素晴らしさ、っていうんですかね。

──楽曲の雰囲気もカオスですよね。

内田 そう、そこから汲み取りました。デモではテキトーなことを歌っていたんです。でも改めてこの曲を作るとき、時間が経っていたから当時の感覚がわからなくなっちゃって。それで改めて書くときに一旦すげえ悩みました。楽曲の狂気性みたいなところから、自分の頭の中に登場人物を作り出して、そいつのストーリーを作っていった感じです。

──「ねぇある日世界は 裏返るんでしょ?」というフレーズで終わるのも象徴的です。裏返す、ひっくり返す、というのはよく内田さんが言っていることですよね。

内田 「自分がやれるのか?」という気持ちもあるんですよ。だから「誰かもう裏返してくんねーかな」と思っているような、絶望した主人公。そういうものを書いてみました。

──なるほど。

内田 そこはいつもと違うところで、普段は「こうしたほうがいいんじゃない?」と正解に寄っていく歌詞が多いんですけど、これはもう絶望感のあまり映画の世界に逃避してしまっているというか、そこまでおかしくなっている人の歌ですね。そして……今読んでみると歌詞が長い。

 それ、俺も思った。

──なんでそうなったんだと思います?

内田 やっぱり最初期よりも、歌詞が持つ力に気付いてきちゃっているので。それで書くものが変わってきたのかなと思います。

内田怜央(Vo)

内田怜央(Vo)

オリジナルへの憧憬

──昨年は活動をしていくうえでのフローができた1年だったという話でしたが、2022年はどういう年になりそうですか?

千葉 一旦はこのままの方向でいきたいです。

 そうだね。今のやり方の精度を上げたい。

千葉 余力は全然あるので今の流れで勉強しつつ、よりいいものを届けられたらなと思います。そして、来年あたりに崩したいですね。

 あと、ライブに関して言えば、4月から始まるツアーの会場がZepp DiverCity(TOKYO)やBIGCATで今までよりも圧倒的に大きい会場ですし、夏はフェスにもガンガン出ていきたいと思っているので、去年よりももっと拡散力の大きい動きをしていきたいです。

──音楽的に今興味を持っているものはありますか?

千葉 どうだろう? 個人個人の中で、目まぐるしく変わってそうですけどね。

──例えば?

千葉 ちょっと前はジャズを聴いていたんですけど、最近はファンクとか、ヒップホップ寄りのファンクをよく聴いています。

内田 自分は昭和歌謡じゃないですけど、シティポップみたいなものを聴いていますね。

千葉 この前聴かせてくれたのなんだっけ?

内田 佐藤奈々子さんって人。佐野元春さんとかとやっている方です。

──歌謡曲に耳が行っているのは、歌詞の大切さに気付いたということにも関係してくるんですか?

内田 いや、日本語の響きに食らっているわけではないと思います。歌謡曲って意外と歌詞をブチ捨てている曲とかもある気がするんですよね(笑)。で、そういうロックな部分というか、「音楽だけで勝負したるぜ」みたいな姿勢もいいですし、同時にものすごい歌詞もある。その2つを満遍なく楽しめる音楽なのかなと思います。

──なるほど。

内田 あと、やっぱり独特なんですよね。当時のソウルとかファンクをやりたい感じがありつつも、まったく同じものではないというか。ビートのサウンドも、ベースのサウンドも、歌い回しも独自のものになっているので、そこのカッコよさに着目しています。

──オリジナルなものへの憧憬?

内田 そうですね。例えばカレーライスとか、間違ってできちゃったものが好きなんですよ。間違ってできたものだとしても、もう誰もカレーライスを間違いだとは思っていないというか。そういう結果的に正解になることって素敵だなと思いますし、自分でもそんな音楽を作れたらなと思います。

──漠然とした質問ですが、Kroiのバンドとしてのゴールはなんだと思いますか?

千葉 長く続けること?

内田 俺はカッコいいじいちゃんになりたい。

千葉 そうだね。

 それこそ「Dig the Deep」でも、韻シストさんとか在日さんとか、長いキャリアの中で自分たちのやりたい音楽をやっている先輩を目の当たりにしたのは刺激的でしたね。自分たちの音楽をずっと続けて、そこにちゃんとお客さんがついてきてくれる。そういうところに憧れを感じたので、自分たちもそんなバンドになりたいです。

Kroi

Kroi

ライブ情報

Kroi Live Tour 2022 "Survive"

  • 2022年4月23日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2022年5月25日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

Kroi(クロイ)

R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなど、あらゆる音楽ジャンルからの影響を昇華した音楽性を提示する5人組バンド。2018年2月にInstagramを通じて結成し、同年10月に1stシングル「Suck a Lemmon」をリリースする。2019年夏には「SUMMER SONIC 2019」に出演。同年12月に2ndシングル「Fire Brain」をリリースし、2020年5月に5曲入りの音源「hub」を発売した。2021年1月に6曲入りの音源「STRUCTURE DECK」をリリース。6月にはポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャー1stアルバム「LENS」を発表した。2022年3月に配信シングル「Small World」をリリース。4月からは東阪ライブ「Kroi Live Tour 2022 "Survive"」を開催する。