やりたいことを盛り込んだ「Balmy Life」
──今作の中で一番新しい曲はどれですか?
内田 「Balmy Life」です。
──最後のピースとして意識したことはありますか?
内田 我々はアルバムを作るときは何も考えていないので、制作が進むにつれて帳尻を合わせるというか、だんだんと「ケリつけなければいけないんじゃないか?」という雰囲気が漂ってくるんです(笑)。で、それが制作への影響としてはかなりオモロいと思っていて。
──その時点でできあがってる曲との兼ね合いで曲を書いていくということですね。
内田 「risk」のMV会議のときに監督の新保(拓人)さんが提案してくれた企画が「共通の思想を持っている人たちがコミューンを自分たちで作って、そこで生活する様を映し出したもの」みたいな内容だったんですよ。それがカッコよすぎて、「『risk』のMVで使う話は一旦流してもらって、この企画のための曲書きます」と伝えて作ったのが「Balmy Life」なんです。最後にアルバムの帳尻を合わせなきゃいけないという空気と、MVの企画に当てられるものにするという、2つの縛りプレイがあったんですよ。
──なるほど(笑)。
内田 なおかつアルバムの先行シングルになることも意識して書かなきゃいけなくて。それでアルバムの制作後半に10曲くらいバーッと書いて、みんなにデモを送ったらこの曲で即決でした。
──デモを受け取った皆さんとしては何が決め手だったんですか?
関 10曲同時にもらったのではなく、最初にまず5曲くらい聴かせてもらったんですけど「リード曲にするなら、もうちょっとパンチのある曲がいいな」と思っていたんですよね。それであとから送ってもらったデモの中にあったのが「Balmy Life」で、圧倒的にパンチ力がありますし、MVの画ともマッチするところが想像できた。なおかつ自分たちのやりたいプレイも盛り込めるし、ほかのアルバム収録曲にはないエッセンスも入っていたので、票を入れたらみんなこれだった、というくらい即決でしたね。
──結果として「Balmy Life」は、ご自身でも手応えを感じていますか?
内田 めちゃくちゃやりたいことを盛り込みましたし、「LENS」の中で一番好きな曲です。これまでリード曲は時間が経ってから好きになることが多かったんですけど、「Balmy Life」はレコーディングのときからめちゃくちゃテンション上がっちゃって。ドラムを録っているときから爆上がりみたいな曲でした。
コピーしてもらえるフレーズを
──ドラムのフレーズはすぐ浮かびました?
益田 いや、これが一番難しかったです。Aメロとフックのところで乗り方が違うんですよね。ヒップホップ的なノリもあればメロディアスな感じもあって、そこの調整で苦戦しました。当日叩きながらメンバーと相談して作っていって。
内田 難しいハネ感というか、ガチハネするのではなくフラットに聴かせるところもあって。全体を通して聴くとノッてないところもあるんですけど、いわばそこを美徳としている曲なので、その印象を崩さない音を作ることはすごくこだわりました。
益田 みんな大変だったよね。ドラムが仕上がってから、この曲はこういうノリなんだってわかったと思う。
──じゃあそれまでは定まってなかったんですね?
関 もうその日にできあがったみたいな曲です。
長谷部 なのでプリプロの段階、オンラインでやり取りしているときはみんな独自の解釈をしていて(笑)。ドラムができてから、いかにそれに合わせたプレイをするかっていう発想でした。
──上モノは不思議な音ですね。
長谷部 イントロはギターとボーカルだけで始まるので、そこの音作りはめちゃくちゃこだわっています。
内田 だいたいの曲はイントロがよければいいので。
長谷部 イントロだけでどれだけ人を惹き込めるかを考えていった曲ですし、この曲はコピーしてもらえるフレーズを作ることも意識していていました。
──やっぱりギタリストとしては、コピーされるのはうれしいですよね。
長谷部 そうですね。僕も音楽を始めたときにいろんなフレーズをコピーしていたので、今度はコピーされる側になりたいです。
内田 関さんのフレーズはめちゃめちゃコピーされるのに、お前あんまりないもんね。
──あ、そうなんですか?
長谷部 Kroiはベースカバーはよくあるんですけど、ギターはあまりなくて……。なので今回はリリース後、どういうリアクションがあるのか楽しみなんです。
──これでコピーされなかったら大変ですね。
関 センスを疑われるな(笑)。
千葉 今、このインタビューを通して全国のギタリストに睨みを利かせています(笑)。
日常に溶け込むカオス
──歌詞で言うと「混乱から逃れる術どこ?」というフレーズが印象的でした。「この時代をどう生きるか?」という問いのような解釈もできるように思いますが、どういうモチーフから書いていきましたか?
内田 リリックにはMVのプロットの世界観を盛り込みました。自分なりに宗教の論文を読んだりして、世の中での宗教の役割を考えてリリックを書いたんです。ただ、あんまり直接的な表現をするのはエグいので、日常に溶け込ませた形で「もしかしたらこうかもよ?」という俺なりの視点を入れていて。
──「踊れ踊れ」というフレーズは、どういうイメージを描写したものなんですか?
内田 逃げ場があるって、すごくいいなと思うんですよ。音楽も疲れたときに聴いたり、腹が立ったときに聴くことで救いになったりするじゃないですか。なのでこの曲では“Balmy Life”という空想の場所を作りたかった。この曲のテーマを簡単に説明すると、混乱に混乱を重ねるこの世界で新しい境地にたどり着いてしまった人間の様みたいなもの……でも、それはすごく憐れなもので、その逃げ場所はそんなに強いものではない、儚いものなんですよっていうストーリーですかね。
──アルバムを通して、リリックは全体的に内省的ですよね。
内田 もともと暗い歌詞が多いんですよ。最近作る曲は対外的な動きを失っているときにできた曲なので、自分の内側を見つめすぎているというか、考えすぎているリリックになっています。ただ、俺はそれも気に入っているというか。考え過ぎてわけわかんなくなっている感じが、今の世の中に合っているような気がするんです。カオスな方が浸透していくというか、そういう曲の方が日常に溶け込みやすいんじゃないかなって。
Kroiは変容し続ける
──「NewDay」は明るく開けた感じがありますね。
益田 この曲はモータウンみたいなサウンドにしたいって話してたよね?
内田 うん。あと個人的には、いなたい音楽から影響を受けたUKソウルを俺が強くするみたいな曲にしたかった。
──強くする?
内田 UKソウルって、おしゃれじゃないですか。おしゃれでユルッとしたところがいい部分だと思うんですけど、それをまた強くしてみようみたいな。
──今ある音楽を別のサウンドに書き換えたり、あるいは影響を受けた過去の音源を今のテイストで味付けするのは、Kroiが一貫して持っているアティテュードですよね。
内田 そこは千葉さんがコントロールしてくれているんですよ。俺が作るデモは陰気な感じなんですけど、そこに今っぽさだったり、あるいは煌びやな感じをミックスで付け加えてくれて。
──リリックの内向性についての話もありましたが、一方で音楽は開かれたものになっていくのは内田さんの美学としてあるものですか?
内田 そうですね、そこでバランスを取っているんだと思います。人っていきすぎるとよくないから、自分の足りないところを作品で補っていくということですかね。
関 怜央が「Kroiにパーティ感はあるけど、盛大なパーティではない」ってよく言ってるんですけど、それは内々の仲いいやつとのパーティ感なんですよね。楽曲の盛り上がりに対して、内向的な自分たちがいることは、そういうところにも現れていると思います。
内田 身近でありたいんじゃないですかね。たぶん今は身近に感じられるパーティ感が必要というか、それが俺たちが表現したいものなんだと思います。
──それはなぜでしょう?
内田 アーティストって、これまではかなり遠い存在だったじゃないですか。でも、今はエンタメをやるにしても距離が近い人が増えてきているし、そういうところで新しいバンド像を提示したい。俺らの音楽を初期から聴いてくれている人でも、進化は嫌うじゃないですか。
──変わってほしくない、みたいな?
内田 そうです。「私の好きなKroiどこ行っちゃったの?」って。俺らが目指しているのは進化したことを称賛できる世界なんです。だって、それができない関係だと両方にとって苦じゃないですか。だから表現者として、一歩前に進んだことをみんなで歓喜するようなことが俺の目指しているところですね。
──なるほど。
内田 で、表現と言っても作品だけじゃないと思うんです。こういうインタビューの中でも自ずと自分たちの表現をやっていると思うので、我々は変容し続けるバンドであるということをちゃんと提示したいです。そうやって進化しなければいけないという枷を付けることで、新たな作品が生まれたり、面白いことをやれるんじゃないかなと考えています。
ライブ情報
- Kroi Major 1st Album「LENS」リリース記念全国ツアー「凹凸」
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- 2021年7月4日(日)北海道 PLANT
- 2021年7月10日(土)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
- 2021年7月11日(日)千葉県 千葉LOOK
- 2021年7月16日(金)大阪府 BananaHall
- 2021年7月18日(日)愛知県 SPADE BOX
- 2021年7月30日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2021年8月1日(日)京都府 KYOTO MUSE
- 2021年8月6日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2021年8月27日(金)東京都 LIQUIDROOM ※追加公演