KREVA|何度も繰り返す希望と絶望のループ それでも思考止めず今日も進む

KREVAが約2年ぶりとなるニューアルバム「LOOP END / LOOP START」をリリースした。

「クレバの日」である“9月08日”にサプライズリリースされた本作には、今年6月開催のBillboard Liveツアーで初披露された「Finally」を筆頭とした新曲6曲とインタールード4曲に、「変えられるのは未来だけ」「Fall in Love Again feat. 三浦大知」「素敵な時を重ねましょう feat. SONOMI(Album Mix)」「タンポポ feat. ZORN」の既発曲4曲を加えた計14曲を収録。独創的なメロディ、リリック、トラックメイクによって、コロナ禍を生きる自身とリスナーの日常を鮮やかに描き出している。

KREVAはなぜこのコロナ禍の中でも音楽的な成長を果たすことができたのか。自粛を強いられ続ける日々をどう捉えているのか。そしてどんな未来を思い描いているのか。そのすべてを聞いた。

取材・文 / 内田正樹撮影 / 須田卓馬

1週間に1曲のペースで作り続けた

──この「LOOP END / LOOP START」は“クレバの日”にサプライズリリースされました。どのような経緯でリリースが決まったのでしょうか?

レーベルからの提案で、俺からではなかったですね。俺はコロナ禍以降に作った曲をリリースするなら「塊で出したい」とずっと言っていたんです。「変えられるのは未来だけ」の先行リリースも、スタッフの提案を受けて「それがいいなら」という感じで。とにかく俺としてはなるべく一塊にして届けたいとずっと思っていました。

KREVA

──音楽ナタリーでは昨年12月の「Fall in Love Again」のリリース時もインタビューを行っています(参照:KREVA「Fall in Love Again feat. 三浦大知」インタビュー)。その際、「素敵な時を重ねましょう」や「タンポポ」についてはお話を伺いましたが、そのほかの収録曲はすべてここ最近に制作されたのでしょうか?

そうですね。2019年から作り貯めていたトラックもあったけど、主に今年の1月から作っていたトラックに言葉を乗せ出したのが2月だったかな。この状況について、なんらかのテーマを立てて語ろうとすると、どうしても本質からズレてしまうというか、看板を立てることで逆に違った意味に聞こえてしまうという気がしたんです。だから、あまりテーマを決め込まずに、ともかくトラックを毎日作って、声入りの曲をどんどんどんどん作りました。誰にも頼まれていないのに、1週間に1曲という目標を勝手にノルマにして。「よ ゆ う」という曲では1人で小芝居までして自分で録って編集までして、ほとんど奇人ですよね(笑)。でも今ってそれすら肯定されちゃう状況なわけで。

──なるほど。“クレバの日”の夜に行われた配信「クレバの日~皆(みんな)In the House~」をリアルタイムで視聴していたんですが、6000人で始まった視聴者数がすぐに1万人を超えたのを見たKREVAさんが「俺ってこんなだったっけ?」と言っていて(笑)。

俺の想定だと1500人くらいで始まって、それが3000人くらいまで伸びればいいかなくらいの気持ちだったんで、俺こんなだったかな?って。そこの感覚は、家にこもりすぎてズレちゃったみたい(笑)。

ステイホームや自粛期間の「LOOP END」になればという思い

──個人的な感想ですが、「やっとあえたな…」という歌い出しから、ようやくステージに立てた心境が歌われる「Finally」を聴いたとき、比喩で言う「泣けた」じゃなくてマジで泣けてきました。

ありがとうございます(笑)。

──この曲は今年6月に約1年半ぶりの有観客公演として行われた「KREVA in Billboard Live Tour 2021」で初披露されました(参照:KREVAが1年半ぶりにファンと再会、ノーディスタンスの精神で見せた全力のパフォーマンス)。

もしまた感染爆発が起きたら「またできないのかも?」という状況の中で、ほぼほぼライブが決まって、さらに作った曲をアルバムという塊で出すと決まったとき、自分の中で絶対に必要だと思った曲がこれでした。何しろこの期間、ずっと悔しい思いばかりしてきたし、ようやく「みんなに会える」と思ったとき、どの曲がハマるのかまったく検討がつかなかったから、だったら新たに作っちゃおうと。アルバムの1曲目だけど、意味合いとしてはステイホームや自粛期間の「LOOP END」になればという気持ちも頭にあったし。6月はライブのリハとレコーディングを並行で進めて、ライブのリハで完成したばかりの曲をバンドと鳴らしながら、どんなテンションで歌うのか決めました。

──ひさびさにステージに立ったときの感想は?

震えたっすね。想像以上に緊張した。初めての曲を“おろす”緊張感ももちろんあったけど……うん、なんとも言えない気持ちになりました。本当にここしばらくずっと曲を作っていて、特に今年に入ってからは自分がより成長しているという手応えも自分なりに感じていたんですけど、こうして「欲しい」と思った曲を狙い撃ちで作れるようになったのはかなり大きかったです。

インプットとアウトプット

──前回のインタビューで合宿ならぬ“独宿”という、自粛期間における自己スキルアップの話もありましたが、外出やコミュニケーションが制限されている中、インプットについてはどのようにされていたのですか? というのも今作のリリックは、歌詞の物語の状況設定こそコロナ禍を描いているし、ドキュメント感やジャーナル感もあれば、フィーチャリングアーティストもいるからダイアローグ感もあるし、KREVAさんのモノローグ感もある。つまりあらゆるアプローチのリリックが詰まっていて。

そうか。そうかもしれない。

──それでいて全体的には本当に何度もループで聴けるくらい聴きやすいし、すっと入ってくるんですよね。で、この言葉が正しいかどうかわからないけど、僕は個人的にKREVAさんの音楽やインタビューの発言から、毎回、幾度となく“正論”を感じていて。

ああ、うん(笑)。

──で、これは組織論にも当てはまると思うんですが、他者に対して常にブレずに正論を言える人って総じて孤高というか孤独というか。でも言わないわけにはいかないし、言い続けることも非常に大事なわけで。

ああ、なるほど。

──今はパンデミックという途方もない状況下ですが、ボーナストラックの「Paradigm」を一旦脇に置いて言えば、不思議とKREVAさんの正論から正論を論ずる者としての孤高なり孤独をあまり感じないというか。それは「共感」なのかもしれないけど、ともかくそこにこれまでとは違う気持ちよさが生まれている気がするんですよ。この質感なりアウトプットの秘密はどこにあるのかなと思って。

インプットとアウトプットで言うと今年の頭から3行日記を始めました。1日にあったことを1行から3行で書く日記。以前もたまに書いていたんだけど、今回は必ず毎日書くと決めて。

──本当に毎日欠かさず?

そう。余裕ですよ。あったことをただ3行で書くだけだし。あとは本をたくさん読みましたね。自分が昔言ったようなことと同じようなことを言っている記述を見つけたら、そこに向かって歌詞を書いてみたりとか。そもそも「アウトプットしたかったら普段からしていないとできないよ?」というのも何かの本に書いてあったから「なるほど」と思って実践してみたんです。そうやってインプットしたものを、自分のフィルターを通して、丁寧に曲としてアウトプットしていったという感じです。

──どんな本を読んでいたんですか?

ライフハックもの、エッセイ、自己啓発本みたいなものとかも。前に読んで響かなかった本をもう1回読んでみたり。俺の場合、コロナ禍前までのインプットは大半が飲みに行ったときとかにしていた人との会話からだったから、それがほぼなくなったのはかなりキツかったですね。本当にまったく飲みに行っていないし、誰かと会うとかもほとんどない。バンドメンバーの田中義人さんや熊井吾郎なんかとはLINEで音楽の話をしたり、連絡を取り合ってはいましたけど。本を読んでいく中で透けて見えてくる自分と向き合ったという点も聴き心地の変化につながったような気はします。