KREVA|いつかみんなで歌える日が来ることを願って──希望を力強くラップした2020年の記録

無限の引き出しを持つZORN

──YouTubeでも語られていましたが、KREVAさんは「無限の引き出し」「詩人」とZORNさんを絶賛しています。改めて、KREVAさんから見たZORNさんの特性についてお話しいただけますか?

まず韻の密度が圧倒的。数と言うよりも密度ですね。例えば「イチ・ニー・サン・シー、ニー・ニー・サン・シー、サン・ニー・サン・シー、ヨン・ニー・サン・シー……」と延々と続くうちのシーで踏むのが普通の韻だとしたら、ニーとシーで踏んでくる。これだけでまず倍ですよね。しかも場合によってはイチとサンでも踏んで、なんならさらに「イチ・ニー・サン・シー」と「ニー・ニー・サン・シー」がまったく同じとか、それぐらい密度が濃いんです。とんでもないレベルですよ。加えて日本語が破綻していなくて無理がない。ストリートのワードと「アカチャンホンポ」とか「アンパンマン」みたいな日常生活で目にするような子育てワードをつなげて一気にラップ界にエントリーさせたマッチングのセンスも発明級です。

──こうして聞いていると、それこそ佐野元春の「ザ・ソングライターズ」(NHK教育テレビのトーク番組)のように、KREVAとさまざまなラッパーがライムについてとことん対談し合うようなコンテンツも観てみたくなりますが。

それは成立しないでしょうね。ラッパーと言ってもスタイルもさまざまだし、韻を踏んでいなくてもカッコいいラップもたくさんあるから。俺らほど韻にこだわっている人ってごくわずかで、そのうえで自分が心底リスペクトしているメンバーをそろえるのは難しいと思います。しかも俺みたいにビートも作りながらその話題を話せる人材となると、さらに限られますから。パッと思い付くのがZORNとAKLOぐらい。でもAKLOのこだわりと俺とZORNのこだわりもまた種類が違う感じだと思う。

──なるほど。ちなみにKREVAさん自身としては、近年譜面も書けるようになったそうですが、それはラップのスキルになんらかの影響を及ぼしましたか?

関係ないですね。そもそもラップは楽譜化が無理っていうか、楽譜化してもまったく違うものになると思います。ただ同じ音がダダダダダと続くだけですからね。譜面はライブのリハーサルでバンドとのやり取りを目で追うための記号というか。Google翻訳を使って海外でコミュニケーションを取るのと同じで、「あるのに使わない手はないだろう」という感じです。むしろ音楽知識もない状態から独学でできるのがラップのエネルギー。YouTubeでは「こんな俺でもできるんだよ?」というのも伝えたい。逆にあのリズム感の塊みたいな三浦大知でも「ラップはできない」と言う。それがすべてを物語っていると思います。俺が楽曲を提供した香取慎吾くんやV6の皆さんのように、たくさん人前で歌ってきていても、すぐにできるわけではないのがラップの面白さだと思います。

この2曲は2020年の記録として

──過去の音楽ナタリーの特集でもリスナーの層についてお話を聞きましたが(参照:KREVA「成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~」インタビュー)、例えばKREVAのファンはヒップホップそのものに精通しているリスナーばかりではないというか、むしろそうじゃないリスナーの方がファンとしては多いと思うんです。

そう思います。

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──ZORN、PUNPEE、tofubeatsとのコラボを経て、そのあたりについてはどう捉えていますか?

例えば先日のZORNとのYouTubeの視聴者は、男女比9:1でほとんど男性だった(笑)。その1の女性がみんなコメント欄に書き込んでくれる熱心なファンのみなさんという感じだったみたいで。まあこのフィーチャリングの流れでいくとわかる感じもするけど、ライブはそんな感じでもないですね。

──確かにそうですね。

特にファンの皆さんに合わせようという意識もなければ、もっとヒップホップそのものに付いているリスナーが来てほしいという意識もあまりないです。どんな形であれ、まずは聴いてくれればそれでいいというのが正直な気持ちです。仮に俺をヒップホップのラッパーとして認識せず、ちょっとジャンルの外の奴だと思って見ているヒップホップのリスナーが、PUNPEEの現場でもZORNの現場でもtofubeatsの現場でもその全員が集まる現場でもいいけど、そこで改めて俺を認識してくれたらかなり面白いとも思うし。コロナ明けか、まあ完全に明ける前だったとしても、とにかくパフォーマンスになれば圧倒的なものを見せる自信はあるので。その機会が楽しみですね。

──日本武道館なのか横浜アリーナなのかわかりませんが、「タンポポ」、そして「Fall in Love Again」がお客さんと一緒に歌われる日が待ち遠しいです。

今は無理に明るいことを言う必要もないと思うし、モチベーションも目標も特にいらないと思っていて。自分のイズムをより広く伝えるための期間だと思って、とにかく1つひとつを必死にやっていきたいと思ってます。ただ、理想は抱いてもいいと思うので、それをこの状況でどうやって叶えていくか。欲を言えば「Fall in Love Again」は条件付きじゃなく、万全なライブ環境になってから歌いたいですね。

──ああ。

2人でその話題を話したとき、大ちゃんが「ステージに出たら、その時点でもう号泣してるかもしれませんね」と言って、俺は「歌い出し、俺じゃなくてよかった」って思いました(笑)。いつの日か、ちゃんとした環境でこの曲をみんなで歌いたいですね……実は当初、「Fall in Love Again」ってCDリリースのプランはなかったんです。でもこの曲と「タンポポ」の2曲はパッケージにしておく価値があると思って、2020年の記録として残しておきたかったので、俺から提案させてもらいました。何年かあとに「本当にいい曲」とシンプルにジャッジされて、「そういえば2020年の曲か」と思ってもらえる日が来るのが今の俺の理想です。

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