KREVA|いつかみんなで歌える日が来ることを願って──希望を力強くラップした2020年の記録

PUNPEE、ZORN、tofubeatsとのコラボ、配信ライブ、そのすべてが詰まった強さ

──「どんなに辛くても死んじゃダメ」というリリックが殊更に強く響きました。

KREVA

うちの事務所の社長は、昔から事ある毎に、ときには冗談めかしながら「死ぬのはナシね」と言い続けてきた人で。今回は特にその言葉を噛みしめましたね。すべて投げ出してしまいたくなるような気持ちになっても「本当に死ぬのだけはナシ」って改めて強く感じました。最初からずっと韻を踏んでいくとして、セオリーとしては1発目に「Fall in Love Again」と言ってそこから置いていくのか、最後に「Fall in Love Again」と言うかのいずれかになると思うんだけど、これはどう考えても1行目の歌詞だなと。内容的には「素敵な時を重ねましょう feat. SONOMI」にも通じるものですね。

──なるほど。

ただ、この曲が持つ強さの理由は、ZORNとやってPUNPEEとやってtofubeatsとやって、配信ライブもやって、そのすべてが詰まってのこの強さという感じですね。大ちゃんが最初にこの歌詞を知ったときにはPUNPEEとの曲(「夢追人 feat. KREVA」)もすでにリリースされていたから、大ちゃんも「強いラップ、いいですね」という感じになってくれたんだと思います。フィーチャリングで呼んでもらえた曲でのラップは、ラップすることに集中できるから、韻もしっかり踏むし、ものすごく力強いラップになるんです。その力強さをそのまま自分名義の曲に、しかも“feat. 三浦大知”で落とし込んだのがこの曲です。「一緒にこの困難を乗り越えて」という優しい曲調になりがちな時期だけど、そうじゃなくて、フィーチャリングのラップで見せたような強さのあるラップにしようと最初から意識して書いたリリックでしたね。

──7月にはPUNPEEの新作収録の「夢追人 feat. KREVA」、8月にはZORNのシングル「One Mic feat. KREVA」、9月にはtofubeatsのリミックス作品収録の「RUN REMIX(feat. KREVA & VaVa)」とフィーチャリングの活動が続きましたね。一連のコラボから得られた収穫とは?

ヒップホップドリームが1つ叶った感じでした。デビューしてから25年、KREVAで16年ぐらいやってきて、こうして彼らに呼んでもらえて、おまけにみんなリスペクトしてくれていて、もうありがたみしかなかった。しかもそれが3連発で、こんなタイミングなのに活発に動けたんだから、逆ヒップホップドリームですよ。うれしかったです。今まで種を蒔いてきたという意識もあまりなかったけど、自分の曲がちゃんと届いていたんだと感じられました。「タンポポ feat. ZORN」の歌詞じゃないですけど、この先、仮に俺が枯れたとしても、俺が飛ばした綿毛から芽が出て、そこに俺を感じてもらえたらうれしいと思えたし。ほかのジャンルだったらそうはあり得ない話なんじゃないかとも思いました。

──ある意味、マイク1本だけで向かえるというフットワークからしてもそう言えますね。

しかも自分名義の活動では、舞台も演目も全部自分で決めて設定も決めて台詞も書くわけだけど、例えばPUNPEEだったら「力強く行ってほしい。KREVAらしい王者感が欲しい」と舞台を用意してくれる。それが3つも続いて評判もよかったんだから言うことないですよね。「908 FESTIVAL 2020 ONLINE」もそうで、石川さゆりさんとZORNが同じステージに立つって、考えたらちょっと意味がわからないけど、さゆりさんも俺をアルバム(「粋~Iki~」)の曲(「家事と喧嘩は江戸の華 feat. KREVA, MIYAVI」)にフィーチャリングに呼んでくれた1人だったわけだし。

──どんな相手のどんな舞台と演目でもスムーズに臨めましたか?

臨めましたね。俺からすれば対戦ではなく、「最高の味方のとこに来た!」という感じだから、やらせてもらえるのは楽しさしかないです。ZORNもPUNPEEもかなり細かく直していくタイプなんですけど、それも見ていてすごく勉強になりました。直していけばいくほどよくなっていく様子を見ていたら、自分も曲を直すことに躊躇がなくなった。「タンポポ feat. ZORN」もZORNの韻の密度に合わせて書き直しています。この経験は後にV6に提供する楽曲「クリア」(V6の25周年配信ライブ「V6 For the 25th anniversary」のファンクラブ会員限定映像でのみ披露)の制作で生きましたね。今までだと「出したものがもう自分の正解」という感じだったけど、「こういう思いを汲み取ってほしい」みたいな追加修正のリクエストもためらわずに受け入れられるようになって。

ラップの面白さを伝えるための試み

──ZORNとは「タンポポ feat. ZORN」の構造について2人で1時間ぐらい語り合うという対談コンテンツをYouTube公式チャンネルで配信しましたね。「完全1人ツアー」が機材中心のレクチャーだった(参照:即興トラックメイキングに早口完全攻略講座!KREVA完全1人ツアー福岡で終幕)のに対して、この回のトークはとことんリリックとライムに特化していて。

こういう言い方もなんですけど、ライミングの構造をきちんと論評できる人って、日本のどのメディアにもほとんどいないのが現状だと思うんです。

──それは個人的にも耳が痛いです。

でも、それはある意味仕方がないことでもあって。なぜなら演者側からスキルの共有をほとんどしてこなかったから。プロじゃないけど技術論を完全に理解したうえで批評している人もいることはいるんだけど、サッカー解説者みたいな感じで決してプレイヤーではないんですよね。グラウンドに来たらプレイはできない。それにラップは技術論プラス、シンプルなうまさも大事なので。ZORNとはそこも完全に意見が合致しているところです。地元が隣だったっていうのもすごく大きいけど、こんなに話の合う奴もいないってくらい話が合う(笑)。そこで2人で「ちゃんと理解されるためにも、もっと言っていこう」と話してやってみました。しかもタダですからね。それで「マニアックだよ」と言うならもう観なきゃいいのにと思います(笑)。

──誰も言ってませんよ(笑)。むしろかなり目から鱗が落ちたし、もっと聞きたかった。それにそもそもタレやレシピを無料で公開したからといって、誰もがすぐに名店を開けるわけじゃないし。

そうそう。だからどこかにごはんを食べに行って漬物を出されたとしても、それがコンビニで買って袋から出したものなのか、無農薬で育てた野菜を自家製のぬか床で漬けたものなのか、みんな案外すぐにはわからないじゃないですか。冷めたコーヒーとアイスコーヒーぐらいの違いがあるにも関わらず。料理の味も「どういう思いでそのメニューを出したのか」というストーリー込みで提供されたら、より際立つと思うんです。「俺らはこれだけこだわりを持って作っているんだぞ」と改めて細かく言っていくのは、曲を多角的に楽んでもらうためにも必要だなと思って。ラップの面白さを伝えるためにも、こうした試みは今後もどんどんやっていきたいです。