音楽でしか埋められない気持ちがあったんじゃないか
──最初に作ったという「健康」については?
昔、FM OSAKAにむちゃくちゃ面白いDJの方がいらして、その方が言っていた「40過ぎたら健康の話しかしないから!」という言葉が、ずっと耳に残っていたんです。実際、自分が40歳を迎えて、同じジムに通っている年上の大人たちの会話を聞いていると、マジで健康の話しかしていないんですよね(笑)。自分の中では「結局やっぱり最後は健康」というリリックは、「究極の真理を言ってやった」と思っていて。ただ、なぜこんなにもスーパークールなトラックを当てたのかは、自分でもちょっと謎ですけど(笑)。
──今作のトラックは、極めて最小限の音数で構成されていますね。前作よりもさらに引き算ベースの構造と言うか。
そうですね。ラップって結局かなり音数が少なくても、それこそドラムだけでも成立しちゃうんですよね。言いたいことを早く歌いたい分、ある程度仕上がった時点で作り込むことを止めているから、必然的にシンプルになったし、より言葉が際立って響くような構造になりましたね。
──最後の「百人一瞬」は改めての宣誓といった開かれたモードの曲ですが、今回はある意味KREVAがKREVAの陰の部分とがっつり向き合った作品だと思います。その行為はKREVAに何をもたらしましたか?
普段から陰の部分が多いのは自覚していたので、ことさら驚きはなかったですね。「そうか、やっぱそうだよな、なるほど」みたいな。でも、この暗い作品群を形にしたら、次は明るいやつでも作るんじゃないのかな?ぐらいの気持ちはありますね。今回についてはさっきもお話しした通り、誰かに聴かせることはもとより、なんなら俺自身が聴き直すことすら想定せずに作っていた。でもスタッフが聴いて「これ、リリースしようよ」と言ってくれたのでパッケージにすることにした。それは結果的に、自分にとって救われたことだったのかもしれない。結局のところ、音楽でしか埋められない気持ちが、自分の中にあったんじゃないかと思っています。それに気付けたことが、もしかしたら一番よかったのかもしれないなって。
──後年キャリアを振り返ったとき、重要なポイントとなる1枚かもしれないと感じました。
なるほど。自分の好きなものは狭いけど、それでいいし、それでも音楽を続けていいんだ、と確認することができたわけなので、確かに自分の中では大きいかもしれない。人に聴いてもらう音楽という意味においては、これまでの自分にはなかった楽曲群だったし、特に自分の周囲のクリエイターから「響いた」と言ってもらえて、すごくうれしいですね。
狭くてもやりたいことを貫くことが1つの正解なのかも
──音楽に対するモチベーションは戻りましたか?
ある程度は戻せたんじゃないかな。ただその間もいろいろと宿題があったんで、結局はあまり手を止めてもいられなかったんですけどね。まあ勉強しながら楽しくやれています。
──KREVAさんは基本的にはワーカホリックですが、課題の物量の多さや納期へのプレッシャー、またはツアーやライブも含めたワーキングタイムによる拘束から、自分で自分の首を絞めてしまうと感じるような局面はないのですか?
直前になって焦るようなことを除けば、それだけはまったくないんですよ。自分は音楽の何もかもについて精通しているタイプのアーティストじゃないという自覚があるので、そこを物量をこなすことでカバーしたいという思いが常にあるからです。だからこそ、ワーカホリックな状態を自覚的に途切らせることがなかったというのも、正直なところです。
──そのうえで、KREVAさんはこれまで取材の中で「ヒットを狙いたい」「もっと売れたい」と明言してきました。ですがサブスクリプションをはじめとする今日的な音楽シーンの背景を踏まえると、それこそKREVAさんがソロデビューした当時と比べたら、ご自身の中でのヒットに対する考え方も変わってきたのではないですか?
確かに変わりましたね。ヒップホップが世界で一番聴かれている音楽になってるけど、その中においてもっとも独自の発展をしている日本の音楽シーンの中で「俺が狙うヒットって何なんだ?」と考え続けてはいますけど。昔は誰もが売れていると納得できるようなヒット曲がたくさんあった。でも今はそれがない。だったら、今は狭くてもやりたいことを貫くことが、自分にとっての1つの正解なんじゃないのかなって、まさに今ここで話しながら思いましたね(笑)。
──そうした一方で、冒頭でも話題に挙がった活動中のKICK THE CAN CREWは、KREVAさんの中でどういう存在として機能しているのでしょうか?
これは変なふうに捉えてほしくないけれど、KICKについては誤解を恐れずに言うと、ファンやスタッフのみんなが喜んでくれたら俺はそれでいいという気持ちが一番なんですよ。もちろん曲は俺が作っているんですけど、そこに俺個人のエゴみたいないものはほとんどない。流れに任せていこうという気持ちが強いんです。
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岡村ちゃんを受け止めるなら3人がかりのほうがいいかも
- KREVA「存在感」
- 2018年8月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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初回限定盤 [CD+DVD]
2484円 / VIZL-1414 -
通常盤 [CD]
1620円 / VICL-65035
- CD収録曲
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- INTRO
- 存在感
- 俺の好きは狭い
- 健康
- 百人一瞬
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 存在感(Music Video)
- 存在感(Music Video Making)
- KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」
- 2018年8月29日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
初回限定盤 [2CD]
2160円 / VIZL-1420 -
通常盤 [CD]
1080円 / VICL-37422
- 収録曲
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- 住所 feat. 岡村靖幸
- Keep It Up
- 住所 feat. 岡村靖幸 (Inst.)
- Keep It Up (Inst.)
- 初回限定盤BONUS CD収録内容
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- 全員集合
- 千%
- 今もSing-along
- SummerSpot
- なんでもないDays
- 完全チェンジTHEワールド
- また戻っておいで
- また波を見てる
- I Hope You Miss Me a Little
- タコアゲ
- ライブ情報
KREVA「908 FESTIVAL 2018」 -
- 2018年8月31日(金)東京都 日本武道館出演者 KREVA / 三浦大知 / 絢香 / JQ from Nulbarich / 尾崎裕哉 / 高畑充希
- KICK THE CAN CREW「現地集合~武道館ワンマンライブ~」
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- 2018年9月1日(土)東京都 日本武道館
- クレバの日 スペシャルライブ ~大阪編~
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- 2018年9月8日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- KREVA(クレバ)
- 1976年生まれ、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録する。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、MIYAVI、鈴木雅之らメジャーアーティストとのコラボも多数。2011年より音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当した。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても高い評価を受けている。2016年にビクターエンタテインメント内のレーベルSPEEDSTAR RECORDSに移籍し、2017年2月に4年ぶりとなるオリジナルアルバム「嘘と煩悩」を発表。2018年8月に5曲入りの新作「存在感」をリリースする。