音楽ナタリー Power Push - KREVA

言葉を削って濾して尖らせて生まれた「嘘と煩悩」

自分に対して言えないことを人になんて言えない

──裏を返せば前作からの4年のブランクは、リリックを濾して尖らせるために必要な時間だった?

そうですね。4年の間で「全然歌詞書けないな」ってしょっちゅう言っていたような気がするし。言いたいことがあるのに、そこまでたどり着けなくて、どれだけ言葉を削れば、剥がせばいいんだろうかと何度となく思いました。削る、剥がす、濾す、尖らせるという作業に相当な手間と時間をかけました。人に聴かせる、聴かせないは関係なく作り続けているので、トラックは常にいくらでもあるんですけどね……例えば「居場所」は、大阪のホテルの部屋で、なんだか急に正しい書き順のきれいな字を書きたくなって(笑)。ノートを開いて、とにかく思っていることを歌詞ともつかない感じでどんどん書いていったんです。そうやってノート3ページ分ぐらいワーッと書いたやつを編集してできた歌詞なんです。で、あとでそのノートを見返したら、各ページ、絶対に「その手動かせ」という言葉は書いてあった。つまり俺自身、「もうとりあえずやれ、手を動かせ」と自分に思っていたんだなって。

──つまりリスナーに放ちつつ、自分に向かって歌った歌でもある?

2016年12月31日に大阪・インテックス大阪5号館で行なわれた「908 FESTIVAL SPECIAL!!『カウントダウン大阪 2016/2017』」の様子。(Photo by curly_mads)

まさしく。自分に対して言えないことを人になんて言えないよなっていうのはありましたね。しかも本当に自分を削って言葉を生み出しているから、削り方も考えないとフレッシュに聴かせられない。そういう意味で、新しい削り方を見つけるのはすごく難しい。つらいというよりも難しい。それこそ「黙ることはできないんだろう」じゃないですけど、辞めたいとかではないんです。ただキャリアを重ねれば重ねるほど、自分で満足できる、伝えたい核心に迫る削り方を見つけるのが大変になってきているとは感じていますね。かと思えば6曲目の「Sanzan」は、メロディが出てきたと同時に歌詞が一緒にバーンと浮かんだんです。自分でも「降ってくるってこういうことか」って怖くなったぐらいに。でも、そんな降ってきたような言葉をそれだけで届けちゃダメだと思い直して、ものすごい時間をかけてさらに言葉を掘り下げて完成させました。

今は誰かを推すよりも、俺がもっと売れたい

──「Sanzan」では KREVAの新しい音楽劇「最高はひとつじゃない2016 SAKURA」で共演した増田有華さんが、そして「想い出の向こう側」では、やはり2014年に客演したAKLOがフィーチャーされています。

有華ちゃんは歌ができたとき彼女の声が一緒に聞こえてきたのでお願いしました。「くればいいのに」の(草野)マサムネさんのときと同じですね。彼女は素晴らしい表現力の持ち主で歌もラップも本当にいいし、自分と感覚が似ていると思えるポイントも多いんです。AKLOについては、この歌は自分が最初にラップしたくなくて、じゃあ誰かな?と考えてすぐに浮かんだのが彼だった。楽器として、自分の声じゃない声から始めたいという発想ですね。音を作ってるときに、「ここはギターのソロが入るだろ?」って思う感覚というか。

──例えばAKLOは共演する以前から好きなニューカマーとしてインタビューのたびに推していましたよね。昨年は同じように機会がある毎にKREVAさんが推してきた三浦大知、KOHH、SKY-HIといった面々がオーバーグラウンドに浮上してきた感がありましたが、最近の新たな推しは?

うーん……今は誰かを推すよりも、俺がもっと売れたいなっていう気持ちのほうが強くなってきたかもしれない。彼らの人気が出てきたのはすごくうれしいけど、それ以上に、「そこ、俺じゃダメですか?」って言いたい気持ちが出てきましたね。再スタートの時期だからなのかもしれないけれど。

──なるほど。それにしても本作では「嘘と煩悩」で始まってボーナストラックの「君に夢中」で終わるという流れも含めて、曲順がすごく効いていますね。

最初も最後も煩悩絡みというね(笑)。今回は1曲1曲をしっかり濃く作ることばかり考えていたんで、アルバム全体のまとまりとか、ほかのことに頭が回らなかったんですよ。だから自分で曲順も決められなくて、悔しいけれどディレクターのCHIHARUからの提案を採用しました(笑)。でも自分を削ったからこそ、ここまでの作品に仕上がったんだと思っています。

みんなと濃く深くつながりたいんだ

──まだ客観的に見られない時期でしょうけれど、“嘘と煩悩”って、いわば人間の“業”ですよね。それだけ濾して削って出てきた今回のアルバムの歌詞を見返すと、どういう感想が浮かんできますか?

徹底的に削って濾した分だけ、俺の表層すらも削って、俺の中の人間的な部分が出たアルバムになったと思います。あとは濾す作業の中で俺の中に染み込んだのか、まだライブでやる前なのに、いつも以上に歌詞が自分の中に入っている感じがありますね。自分としては、もっとポップにできるならしたいくらいなんです。でも今の俺だとならない。いつか自分を研ぎ澄ますだけ研ぎ澄ました結果として、むちゃくちゃポップなものに着地してみたいですね。

──もしかしたらそのむちゃくちゃポップなものに達するまでの壁の1つが“記名性”なのかなと思うんです。これまでインタビューの場で、何人かのベテランクラスの方々から、「自分と気付かれずに『いい曲だな』と思われるのが理想だ」という発言を聞いたことがありました。KREVAさんの音楽をヒップホップというジャンルにはめ込むかどうかはさて置き、ヒップホップにはレペゼンやセルフボースティングとか、どこにどう自分の記名を置くかを重要視する傾向がありますよね。

わかります。でも今の話を聞いていて思ったのは、仮に話をヒップホップに絞って語るのならば、歌っている奴は自分のことばかり歌っているのに、例えばリスナーが郊外のイオンモールに車で向かってる最中に曲がかかって、駐車場に着いた瞬間、キーッと車を停めて「これ、絶対に俺のことを歌った歌だ!」「これ、私のことを歌ってる」って思ってしまうような。そういう記名性と普遍性を兼ね備えた歌が、もっとも痛快なヒップホップだと俺は思うんですよ。

──ああ、なるほど。

2016年12月31日に大阪・インテックス大阪5号館で行なわれた「908 FESTIVAL SPECIAL!!『カウントダウン大阪 2016/2017』」の様子。(Photo by curly_mads)

だからこそ人間レベルで俺の話をして、徹底的に掘り下げて、どんどん言葉を削ったり剥がしたりして、その本質がリスナーにぶつかれば「KREVAの歌は俺の歌なんだ!」「私の歌なんだ」と思ってくれる奴が増えるかもしれない。というか、増えてほしいんですよ。リスナーの顔が見えてきたというのは、そういう意味でもあるんです。たぶんそのイオンモールにいる奴らは、意外とキレイに車を停めるタイプの奴なんです。ハンドルをギャッと切って荒っぽく停めるタイプじゃないんだろうなあって気付いたんですよ(笑)。“ふわっとした音楽ファン”みたいな人たちもどんどん目減りしていると思うので、顔の見える人たちとより濃く深いつながりを持ちたいんですよ。

──ほかに再スタートを切るKREVAさんが今見据えている理想や目標があれば聞かせて下さい。

去年、Billboard Live TOKYOで初めてやったファンクラブ限定ライブがすごく楽しかったので、小さなハコで1週間とか1カ月限定のライブなんかやれたらいいですね。濃いものを大人数に伝えることは難しいから、距離を縮めて、回数を重ねることで届けてみたい。もちろん大バコやアウェーな場にも常に出ていく態勢は整えつつ、むしろそういう場に出ていったときに、わざわざKREVAを応援してくれる人をもっと増やすために、みんなと濃く深くつながりたいんだと言っても過言ではないですね。

──再スタート早々、やっつけがいのある課題が山積みですね。

いやまったく。でも次はうっすいアルバム作りますよ(笑)。

──えっ? 何ですか急に。

もうペラッペラな薄いやつね。「青春」とか「バレンタインデー」とかリリックに出てくるようなアルバムを作ります。俺、こう見えて前振り上手なんで。

──なんですかそれ(笑)。もしかして新作タイトルが「嘘と煩悩」だから最後に嘘付いて締めようとしてません?

あはははは(笑)。ありがとうございました。

ニューアルバム「嘘と煩悩」 / 2017年2月1日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
煩悩盤(完全生産限定盤)[2CD+DVD] / 8541円 / VIZL-1908
嘘盤(初回限定盤)[CD+DVD] / 4221円 / VIZL-1909
通常盤 [CD] / 3141円 / VICL-64908
CD収録曲
  1. 嘘と煩悩
  2. 神の領域
  3. 居場所
  4. 想い出の向こう側 feat. AKLO
  5. FRESH MODE
  6. Sanzan feat. 増田有華
  1. ってかもう
  2. あえてそこ(攻め込む)
  3. タビカサナル
  4. もう逢いたくて
  5. 君に夢中(※ボーナストラック)
煩悩盤(完全生産限定盤)DVD収録内容
KREVA in Billboard Live

<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.08 2nd stage>

  1. 瞬間speechless
  2. 王者の休日
  3. 成功
  4. I Wanna Know You
  5. It's for you
  6. ビコーズ
  1. EGAO
  2. スタート
  3. 居場所
  4. アグレッシ部
  5. 音色

<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.09 2nd stage>

  • Ma Cherie
  • 居場所(Music Video)
  • 嘘と煩悩(Music Video)
  • 居場所(Making)
  • 嘘と煩悩(Making)
嘘盤(初回限定盤)DVD収録内容
  • 居場所(Music Video)
  • 嘘と煩悩(Music Video)
  • 居場所(Making)
  • 嘘と煩悩(Making)
  • 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (TOKYO)
  • 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (OSAKA)
KREVA CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」
  • 2017年2月3日(金)埼玉県 戸田市文化会館
  • 2017年2月11日(土・祝)大阪府 オリックス劇場
  • 2017年2月12日(日)大阪府 オリックス劇場
  • 2017年2月23日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2017年2月24日(金)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
  • 2017年3月3日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2017年3月4日(土)宮城県 電力ホール
  • 2017年3月10日(金)茨城県 ひたちなか市文化会館 大ホール
  • 2017年3月20日(月・祝)福岡県 福岡市民会館 大ホール
  • 2017年3月31日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2017年4月2日(日)青森県 青森Quarter
  • 2017年4月9日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2017年4月16日(日)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2017年4月22日(土)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2017年5月11日(木)群馬県 高崎club FLEEZ
  • 2017年5月12日(金)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2017年5月20日(土)広島県 JMSアステールプラザ 中ホール
  • 2017年5月21日(日)香川県 高松festhalle
  • 2017年6月10日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2017年6月18日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
KREVA(クレバ)

1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録する。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。2016年にビクターエンタテインメント内のレーベルSPEEDSTAR RECORDSに移籍。2017年2月に4年ぶりとなるオリジナルアルバム「嘘と煩悩」をリリースした。確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、MIYAVI、鈴木雅之らメジャーアーティストとのコラボも多数。2011年より音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても高い評価を受けている。