音楽ナタリー Power Push - KREVA
言葉を削って濾して尖らせて生まれた「嘘と煩悩」
KREVAが7枚目のアルバム「嘘と煩悩」をリリースした。4年ぶり、SPEEDSTAR RECORDS移籍後初のフルアルバムとなる本作。人間の普遍的な業をテーマに、アルバム全体を通してより深みを増したリリックと研ぎ澄まされたサウンドが響いており、改めてほかの追随を許さないKREVA独自のスタンスが明確に打ち立てられている。
今回のインタビューでは、本作の制作秘話から今現在自身が思う理想のヒップホップ像までを、KREVA本人にじっくりと語ってもらった。また特集の後半ではTwitterで募集した質問への回答も掲載しているので、インタビューと合わせて楽しんでほしい。
取材・文 / 内田正樹
インタビュー
「嘘と煩悩」はとっておきのカードだった
──レーベル移籍後、初のフルアルバムですね。
音楽業界の人たちがみんな口々に「いやあ、いい移籍だねえ!」とか「あそこはいいレーベルだから」とか好意的な感想ばかり言ってくるんで、それがちょっと怖いぐらいで。「スピードスター、お金でも配ってんのかな?」って(笑)。
──移籍による変化を実際に体感するような機会はありましたか?
まだなくて、移籍のタイミングで自分からいろいろと環境を変えてみたので、今はその結果について1つひとつ確認をしている最中ですね。周りのスタッフも変わったし、ジャケットのデザインも初めて女性の方に頼んで、スタイリストさんやヘアメイクさんも新しい人とやってみたので、まだ変化の途中にいるような気分です。
──昨年40歳を迎え、移籍をして4年ぶりのフルアルバム。どんな方向性になるのか興味深く思いながら聴いたのですが、いざ蓋を開けてみると、いつも以上にストイックかつ濃厚な仕上がりだと感じました。
確かに“濃さ”はすごく意識しましたね。
──映画「マルコヴィッチの穴」じゃないですけど、KREVAさんの頭の中を覗いているような感じで。これは最初から計算していたものですか?
いや、もともとは5曲目の「FRESH MODE」のような淡いトーンの曲がたくさん入っているアルバムになればいいな、ぐらいの気持ちで作っていたんです。これくらいのトーンのトラックがあと何曲かあって、それが全体を支配していて、マックスの盛り上がりが3曲目の「居場所」みたいな感じのアルバムを想定していました。でも結局こんな濃い仕上がりになっちゃって(笑)。
──1曲目「嘘と煩悩」からの2曲目「神の領域」というこの流れは圧巻ですね。
ありがとうございます。
──「嘘と煩悩」の「嘘800 煩悩108 合計908 908は無くならない」というリリック、ものすごいですね。これはよく思い付いたなあと。
思い付いたのはもう4~5年前で、もしかしたらそれよりも前だったんです。だけど「これ使うの、今じゃないな」という思いがずっとあった。つまり、いつか使おうと思っていた“とっておきのカード”みたいなアイデアだった。それが時間が経つにしたがって、ふと「嘘と煩悩」とずっと繰り返している声が聞こえてきて。やがて曲のノリまで聞こえてきて、ようやく形にすることができました。
「新人クレバ」とは違う“1stアルバム”
──「嘘と煩悩」のリリックが象徴的ですが、このアルバムは改めてKREVA自身がKREVAたるゆえんであり、存在意義を再設定した1枚だという印象を受けました。
今言われて気が付きましたけど、それはあったと思います。まずタイトルに表れていると思うし。俺、それまでKICK THE CAN CREWでやってたくせに、ソロの1stアルバムが「新人クレバ」で(笑)。2ndアルバムが「愛・自分博」、次が「よろしくお願いします」という「なんだそれ?」な感じのタイトルを付けていたんですけど、ここしばらくはそういうタイトルを付けていなかったんですね。「心臓」「GO」「SPACE」とシンプルなものばかりで。でも今回はずっと温めてきた「嘘と煩悩」しかないだろ?と即決だったんです。
──言い過ぎかもしれないけど“2度目の1stアルバム”という側面もあるのかなと。
確かに。ただ「新人クレバ」の頃は、「KICK THE CAN CREWに対するカウンターを打とう」みたいな気持ちが強かったと思うんです。売れていたKICKを「俺、1人でもいけるから」みたいな気持ちでわざわざ辞めて。それでいて「普通に考えたら辞めないだろ?」と言ってくる人たちに対してではなく、むしろ当時KICKをまだ聴いてもいなかった何千万の人たちに向かってパンチを打ちたいと思っていた。でも今回は、ともかくライブへ来てくれるファンの耳にどう聞こえるかをかなり意識して作ったので。2015年に回った47都道府県ツアーの経験も大きかったし、同じ“1stアルバム”でも意識の矛先は「新人クレバ」のときとはまったく違うと思いますね。
──ハードな高速ラップやスイートなバラードなどKREVAというアーティストの広く知られた強みも生かしつつ、トラック面では前々作「GO」と前作「SPACE」で試みた実験的なアプローチが血肉となっていますね。
まさしく。あの2枚を作ったおかげでトラックを作るスキルが上がったなって自分でも思います。1人でできることも増えたし、それに加えて人に頼むことも上手にできるようになった。ピアノを入れたりベースを入れたりというジャッジも昔よりうまくできるようになったので、そこは成長したのかなって。
──そしてミックスも含めて、これまでよりも言葉を太く前に立たせるサウンドになった気がします。
そこは結果的にそうなったという感じかな。エンジニアのカズオさん(G.M-KAZ)とのコミュニケーションがスムーズになってきたタイミングでレコーディングに入れたので、お互いにだいぶ練ることができた。それもあって、今までよりもより声をうまく真ん中に置いて、しかも濃く録ることができたと思います。
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- ニューアルバム「嘘と煩悩」 / 2017年2月1日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 煩悩盤(完全生産限定盤)[2CD+DVD] / 8541円 / VIZL-1908
- 嘘盤(初回限定盤)[CD+DVD] / 4221円 / VIZL-1909
- 通常盤 [CD] / 3141円 / VICL-64908
CD収録曲
- 嘘と煩悩
- 神の領域
- 居場所
- 想い出の向こう側 feat. AKLO
- FRESH MODE
- Sanzan feat. 増田有華
- ってかもう
- あえてそこ(攻め込む)
- タビカサナル
- もう逢いたくて
- 君に夢中(※ボーナストラック)
煩悩盤(完全生産限定盤)DVD収録内容
KREVA in Billboard Live
<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.08 2nd stage>
- 瞬間speechless
- 王者の休日
- 成功
- I Wanna Know You
- It's for you
- ビコーズ
- EGAO
- スタート
- 居場所
- アグレッシ部
- 音色
<Live at Billboard Live TOKYO 2016.9.09 2nd stage>
- Ma Cherie
- 居場所(Music Video)
- 嘘と煩悩(Music Video)
- 居場所(Making)
- 嘘と煩悩(Making)
嘘盤(初回限定盤)DVD収録内容
- 居場所(Music Video)
- 嘘と煩悩(Music Video)
- 居場所(Making)
- 嘘と煩悩(Making)
- 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (TOKYO)
- 908 FESTIVAL 2016 Opening Movie (OSAKA)
KREVA CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」
- 2017年2月3日(金)埼玉県 戸田市文化会館
- 2017年2月11日(土・祝)大阪府 オリックス劇場
- 2017年2月12日(日)大阪府 オリックス劇場
- 2017年2月23日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年2月24日(金)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年3月3日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2017年3月4日(土)宮城県 電力ホール
- 2017年3月10日(金)茨城県 ひたちなか市文化会館 大ホール
- 2017年3月20日(月・祝)福岡県 福岡市民会館 大ホール
- 2017年3月31日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
- 2017年4月2日(日)青森県 青森Quarter
- 2017年4月9日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2017年4月16日(日)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
- 2017年4月22日(土)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
- 2017年5月11日(木)群馬県 高崎club FLEEZ
- 2017年5月12日(金)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2017年5月20日(土)広島県 JMSアステールプラザ 中ホール
- 2017年5月21日(日)香川県 高松festhalle
- 2017年6月10日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2017年6月18日(日)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
KREVA(クレバ)
1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録する。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。2016年にビクターエンタテインメント内のレーベルSPEEDSTAR RECORDSに移籍。2017年2月に4年ぶりとなるオリジナルアルバム「嘘と煩悩」をリリースした。確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、MIYAVI、鈴木雅之らメジャーアーティストとのコラボも多数。2011年より音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても高い評価を受けている。