ナタリー PowerPush - KREVA

脳にスペース 心にスペース 余裕とスキマの傑作誕生

自分のリアルを突き詰めた先にあるもの

──今回のアルバムは会心のデキだと思うんですが、これは狙い通りという感じですか?

「心臓」(2009年9月発売)っていうアルバムのときは自分で「傑作を作るんだ」って言って、実際そういう感じで作ってたんですけど、今回はもっと素直に、音楽的にやりたいことをどんどんやっていったらこうなったっていう感じです。アルバムに1人もゲストがいないっていうのも初めてだったし。

──あ、そういえばそうですね。

自分の横にスペースを空けておこうって思って。普通は明るくて楽しいアルバムにしようって思ったらゲスト満載みたいになってくるじゃないですか。それこそセールス的にもゲストがいたほうがいいだろうし。でも1人でやるって決めて、新しいチャレンジができたのはよかったですね。

──確かに新鮮だし、作品全体からシンプルな印象を受けます。例えばタイトルひとつとってもソロの初期3作(「新人クレバ」「愛・自分博」「よろしくお願いします」)あたりは……。

うん、ひねってましたよね。

──そういうひねったアプローチはもう必要ない?

そうですね。そういうことだと思う。「SPACE」っていう言葉にいろんな意味があって、レイヤーっていうんですか? それが最初の歌詞で言ってる「入り口はミクロ その先はマクロ」っていうことなんですけど。

──どういうことですか?

マスに向けて大きく広げていける時代じゃないですからね。いわゆる一般層みたいなものがもうないじゃないですか。「これがみんなのリアリティ。どうですか? みんな共感してください」なんてやっても伝わらないし、サムいだけだから。そこでじゃあどうするかって言ったら、やっぱり自分が本当に知ってること、リアルなことをひたすら追求して、もっともっと絞り込んでフォーカスして、最後に針の先ぐらいになった点をチョンって突いたときに、その紙みたいなのにプスッて小さな穴が空いて、ちっちゃい「SPACE」の向こうに宇宙的な「SPACE」が見えるんじゃないかなって思ったんです。

──個人的なリアルを突き詰めていく?

うん、入り口はすごい小さいんだけど、突き詰めた向こうに無限の広がりがあって、そこでつながっていくっていう。

──万人受けを狙って大衆的なものを作っていてもダメだということですよね。

そうなんですよ。今それをやってもただのイメージっていうか、薄まっていく一方だと思うんですよね。それよりやっぱり濃いものを届けたいなと思って。

──ただのイメージというのは?

ほら、なんか「雨の中傘もささずに誰かを待ってる人」とか「横断歩道に子犬がいて救おうとしてパッて見たら車が来て一瞬止まる」みたいな(笑)。誰も見たことないけど知ってる世界ってあるじゃないですか。

──(笑)。確かにありますね。

なんかそういうふうになっちゃうのは嫌だなって。それよりもみんながそれぞれ持ってる面白いリアルがあるはずで。自分の場合はやっぱり音楽に打ち込んでる自分のことだったりして。それもあって今回自分のこと言ってるリリックが多いんですけど。

──そういうふうにKREVAさんが音楽に打ち込んでる姿には意味がありますよね。「君は大丈夫だよ」って言われるより、KREVAさんが「俺は大丈夫」って言ってる姿を見てるほうが……。

そうなんですよ。そうそう。もちろん「大丈夫だよ」っていう歌も必要だと思うし、欲しがってる人も絶対いると思うんです。だけど自分はそうじゃないもののほうに勇気づけられるっていうか。誰かに「がんばれ」って言われるより、ただがんばってる人がそこにいるほうが届く気がするんですよね。

ヒップホップの裏方が必要

──ところで今日はKREVAさんから見た今のヒップホップシーンの話もちょっと伺えたらと思ってるんですが。今のシーンは面白いですか?

うーん……。シーン全体はあんまり面白くはないと思います。だけどずば抜けて面白いものもありますね。それがあるからやっていける。あとヒップホップの現場にもう少し裏方が増えないとダメかなっていうのは思ってます。

──裏方っていうのは?

具体的に言えばエンジニアだったり、イベントをしっかり運営できる人だったり。やっぱりこの世界で生きていきたいってときにそっちのスペースが空いてる気がするんですよね。みんな行きたがらないけど、そこを早い段階で埋めておかないと、のちに大変なことになりそうな気がするんで。

──ラッパーやトラックメーカーだけじゃ成り立たない?

5人とか10人ぐらいの地元のクルーとかで、集まると1人ぐらいラップ下手なやつとかDJ下手なやつとかいるんですよ。そういうやつは早い段階からマネージャー業をしっかりやったほうがいい。そいつ自身も「マネージャーになってメンバー操るの楽しいな」くらいの気持ちで。

──なるほど。

あとエンジニアとかも必要ですよね。今は誰でも音をアップできる時代だからこそ、ちゃんとミックスされたもののほうがよさが伝わると思うんです。「あいつらって内容はともかく音いいよね」とか、そういう方向もあっていいと思うんですよね。あとはラップをちゃんとジャッジしてディレクションできるやつもほとんどいない。そういうやつらが増えたらもっと面白くなるのかなと思います。

──やっぱりKREVAさんは自分のことだけじゃなく、シーンの動向についても目を配ってるんですね。

いや、でもそんな、シーン全体のためにみたいなのは正直ないですよ。自分が楽しんで結果よくなればいいなと思ってるだけで。ただみんな状況や形はどうにせよ、いろんな音楽をこれからも俺に届けてほしいなっていう気持ちはあるんで。場所を少しでも提供したいなっていう感じですかね。

──そこからKREVAさんを脅かすような存在が出てくると、さらに面白くなりそうですね。

そうですね。自分みたいなやつが出てくるようになったら、自分は現場の切り込み役みたいなのをとっととやめたいんですけどね(笑)。それでその中から面白いと思えるやつらをちゃんとまとめて、「PROPS」じゃないけど、積極的にステージに立たせていく。それが大事な気がするんですよね。

年末にもう1枚アルバムを出したい

──アルバムが完成したばかりで恐縮ですが、KREVAさんの今年の展望も聞かせてもらえますか?

えっとね、まずこれが2月に出て。すでに「これが2013年ベストだ」って何人かに言われてるんですけど、だけど1月とか2月に出た作品が年間ベストアルバムとかに選ばれることってまあないんですよ。だから年末ぐらいにもう1枚アルバム出したいなって思って。

──えっ?

で、なんかそのアルバムはそんなによくなくても、それが出たことによってこのアルバムが思い出されて1位になるみたいな。

──あはは(笑)。

1位&10位みたいなの狙っていこうかなと(笑)。年に2枚ってやったことないし、まあアリかなって思うんですけど。あと6月からソロデビュー10年目に突入するんで。

──2014年6月で丸10年ですもんね。

うん、だから10周年に向けて成長したいですね。もっともっと成長しないといけないと思うし、できるなっていうのもすごい感じてるんで。

──まだまだ成長の余地はありそうですか?

ぜんぜんある。それこそこのアルバム作ってる間も本当に成長できたと思うし。今までで一番多くスタジオに入っていろんな曲作りまくって見えてきたこともあるし。まだまだいけるって思ってますよ。

──そしたらまた誰も追いつけなくなりますけど(笑)。

あはは(笑)。だから追いつくとか追いつけないとかじゃない、そういう存在がいいのかなって思ってるんですよね。

ニューアルバム「SPACE」 / 2013年2月27日発売 / ポニーキャニオン
「初回限定盤」[CD+DVD] / 3300円 / PCCA-06909
「通常盤」[CD] / 2800円 / PCCA-06910
「完全限定生産盤」[CD+DVD+グッズ] / 6908円 / PCCA-06908
CD収録曲
  1. space4space 1
  2. SPACE
  3. Feel It In The Air
  4. ma cherie
  5. 王者の休日
  6. space4space 2
  7. 俺は Do It Like This
  8. 調理場
  9. 言ってなカッタカナ?
  10. OH YEAH
  11. space4space 3
  12. Space Dancer
  13. Link
  14. space4space 4
  15. Na Na Na
完全限定生産盤 / 初回限定盤DVD収録内容
  • ビデオクリップ「OH YEAH」「Na Na Na」「王者の休日」(color ver. / monochrome ver.)
  • メイキング映像「王者の休日」「SPACE」
  • トレーラー「908 FESTIVAL」
KREVA(くれば)

1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催する。2011年にはヒップホップ音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。2012年9月には埼玉・さいたまスーパーアリーナで「908 FESTIVAL」と題した大型イベントを主催し大成功に収める。その確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、坂本美雨らメジャーなアーティストとのコラボも多数。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても内外から高い評価を受けている。2013年2月に6thフルアルバム「SPACE」をリリース。3月29日から全国ツアー20カ所22公演開催。