ナタリー PowerPush - KREVA
脱サンプリングで新境地 ミニアルバム「OASYS」完成
もはやヒップホップの枠組みを越え、1人の音楽家として“道なき道”を歩んでいるといっても過言ではないKREVA。ポップミュージックの先進性と普遍性さえも兼ね備えた最高傑作「心臓」から1年を経て、いよいよ新作をリリースする。その名も「OASYS」というキャリア初のミニアルバムだ。新たなフェイズの幕開けとなる本作からは、どんな音と言葉が聴こえてくるのか?
また、すでに報じられているとおり、この夏KREVAは腰椎椎間板性急性腰痛症の発症により活動を一時休止していたが、このたび復帰。新作の話と併せて、復帰第一声としてこのインタビューをお届けしたい。
取材・文/三宅正一
休んでるときに電子書籍で読んだカフカが面白かった
──まずは、復帰おめでとうございます。
ありがとう。まだ完璧じゃないんだけどね。8割5分くらいかな。
──時間をかけて治していくという感じなんですか?
うん、休むしかないって感じなんだよね。お医者さんに「どうすれば全快するんですか?」って聞いたら「休むしかないよ」って言われて。痛めてる椎間板って、弾力のあるショック吸収剤のような役割を担っているんだけど、それがつぶれちゃってるような状態だから。すげえ使い続けたスポンジが乾いているような感じで、元に戻るのを待つしかないというか。
──長年の蓄積で悪化したんですか?
そうだね。もともとそんなに腰が強くなくて。ギックリ腰みたいな症状はこれまでも何回かあったんだけど、今回はまったく動けなくなっちゃって。
──休んでるあいだはどんなことを考えてましたか?
痛くてね、考え事もできない(苦笑)。ずっと横向きでしか寝れないから、何もできないしね。できる範囲でトラック作りもやりたいとは思ったけど、座ることもできないから。やっぱりビートは腰が入ってないとダメだね。でも、痛みが和らぎはじめたときに読書はした。iPadの電子書籍でカフカを読んだら面白かった。休むときはちゃんと休まなきゃなって思ったね。昨日亀田(誠治)さんと一緒だったんだけど、急病報道直後にメールをくれて。「責任を感じているだろうけど、じっくり休むのも大事だよ」って。うれしいよね。ちゃんと休むことも覚えようって思った。
──ぜひそうしてください。宝ですからね、あなたは。
何の? 日本の?(笑)
──そう。
はい、ありがとうございます(笑)。
みんなもう同じようなラブソングでおなかいっぱいでしょ
──じゃあ、新作「OASYS」の話にいきましょう。初のミニアルバムになるんですけど、これはどういう経緯で?
前からミニアルバムを出したいとは言っていて。いま時代的にシングル出してもどうかなっていうのもあるしね。ライブのことを見据えたら、2、3曲増えるより、ある程度まとめて増えたほうがいいというのもあるしね。
──了解です。まず、1年前にリリースした「心臓」は自他ともに認める最高傑作で。個人的にもずっと聴かせてもらっているんですけど。
ありがとう。
──酔っぱらうと、誰かに電話したくなるみたいな感じで聴きたくなる(笑)。
ああ、それいいね(笑)。間違いない。
──KREVAさんの中で1年経った今「心臓」はどんなふうに存在しているんですか?
クリエイターの人にすごく評判がいいんだよね。もちろん、そうじゃない人にも喜んでもらえていたらうれしいけど。自分にとってもある日聴いて「やっぱり作ってよかったな」って思えるアルバムがやっとできたなって思う。ああいうアルバムはこの先そうそう出てこないっていうくらいやり切った感があるね。
──詳しく言うと?
サウンドの質感とかムード的にも2009年でギリギリだったって思う。ラブソング満載でいけたのもギリギリだったと思うし。それは、世の中のタイミングもあいまってかわからないけど。「心臓」はテーマとしてラブソングとデッカい愛を共存させた内容だったけど、みんなもうラブストーリーやラブソングにおなかいっぱいになってるでしょ。世の中には「この人はいつも同じこと歌ってるな」「ちょっと気持ち悪いな」って思うような歌があふれていて、多くの人が「もういいよ」ってなってると思う。もちろん「心臓」の曲はそういうものとはまったく違う性質をもったラブソングだという自負はあるけど、そういう音楽とははっきり区別していきたいから。だからいま「心臓」みたいな曲を作れって言われても無理、っていう。
メロディを作れることが自分の武器だと改めて自覚した
──そこからこの「OASYS」にどんな感じで向かっていったんですか?
いつもながら過程はあまり覚えてないんだけど、サンプリングじゃないなっていう考えはあったね。
──うん、まず脱サンプリングが「OASYS」の特色としてありますよね。
「心臓」でストックしていた(サンプリングの)ネタを一気に出したから。「OASYS」は、シンセサイザーだよね。"OASYS"というタイトルも俺が今使ってるシンセの機種名(KORG社製)から取ったんだけど。
──今のKREVAさんにとって、シンセってどんな楽器なんですか?
まだ勉強してるって感じなんだけど、だいぶわかってきた。“鳴らし方”っていうのかな。最近のシンセサイザーは、楽器が弾けない人にとってホントに親切な機能がついていて。ただ、その機能を上手に、カッコよく使うのが難しくて。例えばボタンを押すと全自動で料理を作ってくれる機能があったとして、それがジャストフィットで自分の味になるかっていったら微妙じゃん?
──そうですね。
それを、自分なりに理解することで、ここをこうすると醤油の量を調節できるとか、自分好みの味にコントロールできるようになってくるんだよね。そこで感じたのは、俺はメロディを作れるんだなっていうことで。SONOMIもそうなんだけど、無理やり作るんじゃなくて、自然に作れる。例えばコードが同じでも出てくるメロディはその度に違うから、それは自分の武器だなって今さら自覚してる(笑)。「みんなもそうなのかな?」って思ってたんだけど、どうやらそうじゃないみたいだから。メロディも今まではサンプリングに導かれることが多かったんだけど、今はシンセを弾きながら自分で肉付けしていく。それが楽しい。肉付けというのは、言い換えれば自分の中から出てきたメロディに花を添えてあげるような感覚でもあって。そうなってくると、コードはシンプルなものでよくて。何が重要になってくるかというと、やっぱりビートがいかにカッコいいかなんだよね。それに尽きる。
──KREVAさんの方法論の核はずっとそこですよね。今作はシンセの音色によって、メロディアスだったり、スペイシーだったり、柔らかい音像がフィーチャーされているけど、そのぶんビートの躍動感も際立っているというか。
うん。いくらメロディがいい音楽があったとしても、たいていビートがダサいから。その考えは根付かせたいけどね。わかってるフリしてたいしたことないやつが多いから、俺ががんばって根付かせたいと思うよ。
KREVA(くれば)
1976年生まれ、東京都江戸川区出身。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2005年には自身のレーベル「くレーベル」を立ち上げ、シンガーSONOMIのプロデュースなども手がける。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバムチャート1位を記録。同アルバムのリリースツアー最終日では初の日本武道館公演も成功に収める。その確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子らメジャーなアーティストとのコラボも多数。ラッパーとしてのみならずビートメイカー、リミキサーとしても内外から高い評価を受けている。