K:ream「TerminaL」インタビュー|正反対の2人が考える死生や永遠の意味 (2/2)

大きなピースを担う「Live」

──先ほど、内川さんは昨日と今日で言っていることが違うというお話がありましたけど、アルバムを聴くと、そういう面はやはり強く感じるんですよね。例えば、歌詞で“生きる”ということを表現するにしても、「君の目に浮かぶ 永遠を生きていたい」(「Blue」)、「生きよ」(「colors」)、「ともに生きてみよう」(「終わりなき世界」)、「確かに生きている」(「Live」)……一部抜粋しただけでも、曲によって描かれ方が本当に多様なんですよね。

内川 そこはやっぱり、死生観について自分が常に考えているからだと思いますね。「向き合っている」というほどカッコいいものでもないんですけど、ずっと考えている。だから、気まぐれのように歌詞に出てくるし、出し方が曲によって変わっていく。

──アルバムの1曲目の「Live」はどういった意味を持つ曲ですか?

内川 このアルバムを総括するような曲ですね。アルバムの入り口であり、オチを言っているような曲だと思う。別に狙って書き始めたわけじゃないんだけど、「TerminaL」で一番デカいピースを担っている曲じゃないですかね。最初に書いた詞が曲の壮大なイメージに合わなくて。それで、歌詞を10回くらい書き直して完成しました。

内川祐(Vo, Piano)

内川祐(Vo, Piano)

──「Live」の歌詞には「永遠に」というフレーズが何度か出てきますけど、そもそもK:reamの曲の中には“永遠”という言葉が出てくることが多いですよね。それを聴くたびに、僕はOasisの「Live Forever」を思い出すんです。

内川 僕も思い出します(笑)。

──僕は10代の頃から今までOasisの「Live Forever」を何度も聴いていますけど、「You and I are gonna live forever」という、あのフレーズが歌われたことの意味って、最終的にはよくわからないなと思っていて。

内川 うん、よくわからないです。

──K:reamが「永遠」を歌うとき、そこにどんなニュアンスを込めているんですか?

内川 僕は、“永遠”ってめちゃくちゃ紙一重だと思うんですよ。「この時間が永遠に続けばいいのに」っていう、幸せなものとして“永遠”を嘱望する状態もあるのかもしれないけど、でも実際のところ、生きていると、そんな状態ってほとんどないじゃないですか。僕にとって“永遠”は、どちらかというと苦痛なんですよね。“永遠”と“生きる”が掛け合わさると、それは自分にとってかなり絶望的なものに感じる。映画のエンドロールに、なかなかたどり着かないイメージというか……。

──なるほど。

内川 「死ぬのが怖いから、仕方なく生きていくしかない」という状態になる。“永遠”って時の長さは関係ないと思うんですよ。命尽きるまでの時間は、それがどれほどの長さであれ、当事者にとっては永遠にも感じられるものだと思う。で、「Live」に関して言うと、この曲で「永遠に」と歌ったのは、呪いにも近い感覚ですね。生きている限り、自分はこうやって生きていくしかないんだっていう……書き手としては、そんなイメージです。もちろん、そこまでネガティブなことを伝えたいわけでもないですし、聴いている人がどう捉えてくれてもいいんですけど。

──鶴田さんは“永遠”についてどう思いますか?

鶴田 僕にとって“永遠”は、感じることもできないし、見ることもできない、一個人が手に入れることのできないものであり、だからこそ夢やロマンに通じるものだと思います。手に入れられないからこそ自分のものにしたいと思うし、いろんなものがつながっていって、それが結果的に“永遠”になったらいいなと思うし。今回のアルバムでは、「seed」の中に僕にとっての“永遠”への欲求が込められていると思いますね。自分たちは1つの“種”でしかないけど、他者と生きていくしかないこの世の中で、いろんなつながりを通して、自分1人では手に入れられない“永遠”を、結果的にでも獲得したい……そういう夢のような思いを馳せて作ったのが「seed」なんです。

K:ream

K:ream

この1年で感じた希望を抱く大切さ

──内川さんと鶴田さんの間で、“永遠”に対しての解釈に違いがありますよね。

鶴田 そう思います。そこが僕らの特徴で、“永遠”というひと言をとっても解釈が全然違う。でも、別々の方向を向いたものが同じアルバムの中にあるのが面白いなと思います。それが「TerminaL」というタイトルになった理由でもあると思う。

──このアルバムが、「Live」で始まり「re:birth」で終わるという、どこか繰り返しや循環を意識させる曲順になっていることにも、“永遠”というモチーフに通じるなと思うんです。

内川 そうですね。僕からすると、なるべく嘘のない表現にしようとするとこういう流れになる。だって、誰にも自分の最終回なんてわからないから。例えば、ラブコメなんかを観ていると、付き合って終わり、という流れになるじゃないですか(笑)。そんなこと現実にはないですよね。本当に大変なのはその先で。だから僕は、最終回でスパッと終わらないような創作物が好きなんです。続けていくことが一番大事だし、大変なことだから。

──鶴田さんには、そこに対してはもうちょっと違う感覚がありますか?

鶴田 そうですね……僕にとっては、どうやって希望を持つかが大事というか。この1年は特に「未来に希望がないと生きていけないな」と感じたんです。でも、その前提にあるのって「世の中って絶望的じゃん」という感覚でもあって。人と人が生きていくことって、結局は絶望とか矛盾は避けられないと思うんですよ。でも、その難しさのうえで生きていくしかない。だから僕は、希望を持ちたいと思うんですよね。僕が書いた曲だと、「Universe」にそういう願いが表れていると思います。僕は希望というものをこのバンドを通して探し続けていきたい。それが自分にとって、K:reamというバンドのテーマでもあります。でもまあ、内川は希望という言葉が嫌いらしいので(笑)。

内川 そう(笑)。

──(笑)。

内川 僕に「Universe」の歌詞はわからない(笑)。でも、こういう曲が増えていったら面白いなと思う。必ずしも自分が思っていることだけを歌う必要はないし。でも、僕が理解できないことを歌うときにはちゃんと、「この気持ち、僕にはわからないんだよね」ということを伝えたいなと思いました。ロックバンドである以上は、ちゃんと筋を通したいなって。真摯でいたいし、正直でいたいと思います。

──お話を聞いていると、内川さんのほうが案外、現実主義者なんだろうなという感じもしますね。鶴田さんは理想主義的な人というか。

鶴田 そうかも。内川はリアリストなんですよね。僕は夢想家というか、夢想を糧に生きているくらいの人間なんですけど、内川はすごく現実的だと思う。

内川 自分が味わったこととか感じたことしか、僕は信用できないんですよ(笑)。感じられないことを表現することが、とにかく苦手なんです。

「老人と海」から受けたインスピレーション

──鶴田さんが作詞作曲された「Anchor」はどのようなモチーフで作られたんですか?

鶴田 「Anchor」は、「老人と海」(アーネスト・ヘミングウェイの代表作)という小説を読んで、それを自分の人生に当てはめたんです。最終的に希望を示す方向に向いているけど、明るい歌ではないんですよね。だからこそ、「TerminaL」というアルバムの中にこの曲があることが、僕としては気に入っています。全員が全員、前に進めるわけじゃないし、ターミナルの中で、動けずに止まっている人もいるだろうし。この曲は僕が初めて自分で作詞した曲なんですよ。

鶴田龍之介(G, Vo)

鶴田龍之介(G, Vo)

内川 これ、いい曲だよね。僕が作詞を手伝ったというのもあるんですけど、この曲は「Universe」と違ってスッと入ってきました。この曲のシチュエーションが好きなんですよね。喪失感というか、なんというか……僕はすごく悲しい曲だと思っていて、そこがいいなと思いました。歌詞を見ながら聴いてほしい。この曲こそ、僕の理想とする“最終回”という気がする。僕はどこかで、この曲のようなロケーションに焦がれている気がするんですよ。すべてをやり尽くして、ボロボロの船の上で過去を思い返すことぐらいしかやることがない……そんな状況に焦がれている。

鶴田 まあ、「老人と海」ってそこまで絶望的な作品でもないんですけど(笑)。さっき自分のことを夢想家と言いましたけど、何かにたどり着きたいという感覚を持って、自分は生きていると思うんですよね。そもそも目指す場所に到着できるかわからないし、たどり着いたらどうなるのかわからないにも関わらず。でも、目的地を目指そうとする行為自体が素晴らしいことだと信じているし、その過程で、笑い合っていきたい、称え合っていきたいと思う。そういう曲ですね、「Anchor」は。

内川 「Anchor」に関しても、僕と鶴田の解釈は違うっていうことですね(笑)。

生きていた証となる曲

──最初に鶴田さんは今回のアルバムを「ドキュメント」とおっしゃいましたけど、ドキュメントのように音楽を作ることは何をもたらすと思いますか?

内川 うーん……このアルバムができたときに、感動はしましたけど、思ったより達成感はなかったんですよね。ただ、「もっといい曲を書きたいな」と思いました。「いい曲とはどういうものなのか」ということも、よくわからないんですけど。このアルバムに後悔ややり残したことがあるわけではないんですけど、でも「もう一皮むけたいな」と思いましたね。

──そう思った理由はどこにあるんだと思います?

内川 「この曲を書けたから死んでもいいや」と思えるような曲に、自分は出会いたいんだと思うんですよ。でも、まだそれはできていない。だからこそ、この先は旅ですよね。

──なるほど。

内川 「死んでもいいや」と思えるくらいの曲で自分は何を歌っているか、想像もつかないんですけどね。内容がまったくない歌かもしれないし、「生きたい」とか「死にたい」とか悩み抜いた歌なのかもしれないし……まったくわからない。でも、そこに対しての欲求が今、すごく出てきているんです。そんな曲を書いて、自分が生きていた証を残したい。

──変な話ですけど、50年後とか100年後とかに生きている人に、自分の作った音楽を聴いてもらいたいと思いますか?

内川 それ、めちゃくちゃ思います。曲って腐らないんですよ、物質じゃないから。それが素敵なところだと思うんですよね。だからこそ、曲にして残したい気持ちがあるし、曲にして残したい瞬間があるし。

──鶴田さんもそう思いますか?

鶴田 そうですね。さっきの“永遠”の話じゃないですけど、「もし自分が永遠を作り出せるとしたら、これだ」という行為が、僕にとっては音楽を作ることなので。50年後とか100年後の人が聴いてくれていたらいいなと思う。

内川 もしそれが本当になったら、今自分の身の周りに起こっていることでも、報われることがたくさんあるなと思います。たまに思うんですけど、100年後にK:reamが聴かれているかどうかって、誰にもわからないじゃないですか。今はK:reamってまだまだな存在だと思うし、それを痛感して挫けそうな夜もたくさんあるんですけど、でも、もしも100年後に誰かがK:reamの音楽を聴いてくれているのだとしたら、その現場に自分は立ち合えないけど、今この瞬間に夢は叶っているんだなって思うんですよね。「僕は偉大なミュージシャンなんだ」と思える。それが思い込みなのか真実なのかは、誰にもわからない。でも、すべてのクリエイターがきっとそんなことを思いながら毎日生きているんじゃないかと思います。だから僕は、今日を全力で生きていたいし、今この瞬間を少しでも、自らを愛せる自分でいたいし、まともなやつでいたいなと思います。“今”の繰り返しが“永遠”だと思うので。

K:ream

K:ream

ツアー情報

K:ream One Man Tour "TerminaL"

  • 2022年5月7日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年5月13日(金)大阪府 Music Club JANUS
  • 2022年5月20日(金)福岡県 LIVEHOUSE OP's
  • 2022年5月28日(土)東京都 UNIT

プロフィール

K:ream(クリーム)

内川祐(Vo, Piano)と鶴田龍之介(G, Vo)の2人からなるロックバンド。2018年4月に結成し、愛知・名古屋を拠点に活動を展開。2020年10月に自身のレーベル「K:trad records」を設立し、11月には愛知・Zepp Nagoyaでのワンマンライブを成功に収める。2021年2月にユニバーサルシグマより4曲入り作品「asymmetry」でメジャーデビュー。2022年2月にはメジャー1stアルバム「TerminaL」を発表し、5月に初の全国ワンマンツアー「K:ream One Man Tour "TerminaL"」を開催する。