K:reamがメジャー1stアルバム「TerminaL」をリリースした。
「TerminaL」には代表曲「See The Light」や「seed」「Universe」といった新曲5曲を含む全16曲を収録。1枚を通じて絶望と希望、生と死などが描かれている。
音楽ナタリーではK:reamへ1年ぶりにインタビュー。内川祐(Vo, Piano)と鶴田龍之介(G, Vo)のやりとりを通じて、2人の確かな信頼関係やそれぞれの死生観が見えてきた。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 星野耕作
生々しいアルバム
──前回取材させていただいたのが2021年2月の配信作品「asymmetry」リリース時だったのですが(参照:K:ream「asymmetry」インタビュー)、あれから「hologram」「rhapsody」「changes」と配信作品を立て続けにリリースされていて、2021年はK:reamにとって、とにかく曲を作り続けた期間だったのではないかと推測します。そして、このたびリリースされるフルアルバム「TerminaL」には、その頃の濃密さがパッケージングされているなと。改めて、メジャーデビュー以降の1年間はお二人にとってどのような期間でしたか?
鶴田龍之介(G, Vo) もどかしい1年ではありました。バンドとしては、これからどんどんと勢いづけて進んでいきたかったけど、思うようにライブができず。結果として制作に向き合う時間が多くなったんですけど、そうすると、自ずと自分に向き合う時間が多くなるんですよね。そこで考え込んでしまうというか。正直、「充実した1年だった」とも「楽しかった」とも言えないです。とにかく、もどかしかった。でも、なぜ「もどかしい」と感じたかと言えば、先に進みたいからなんですよね。このアルバムに収録された曲が、「先に進みたい」「未来に向かいたい」という感覚のものが多いのは、そういう1年だったからなんじゃないかと思います。
──内川さんはどうですか?
内川祐(Vo, Piano) 大部分は鶴田さんと同じです。とにかく、しんどかった。「しんどい、もう嫌!」っていうくらい。でも、このアルバムを作り終えたときに、「もうこれ以上、周りのせいにするのは止めよう」とも思いました。もともと責任転嫁するタイプではないんですけど、今まで以上に周囲のせいにしなくなりましたね。あとは、この1年間を通してひたすら自分を掘って掘って掘り続けてきたぶん、この先は自分以外のことも歌っていきたいなとも思いました。
鶴田 もちろん、音楽に向き合う時間が多かったからこそ得たものもいっぱいある1年だったとは思います。サウンド面は特にそうで。バンドとして、自分が理想としていた大きな1歩は踏み出せなかったけど、アルバムに自信はあるし、「マジでクソみたいな1年でした」っていう感じでもない、ということは言っておきたいです(笑)。
──はい(笑)。
鶴田 でも、この1年で感じた葛藤も、「TerminaL」には生々しく閉じ込められていると思うので。この1年間の僕らのドキュメントのようなものというか。本当に、生々しいアルバムだなって思います。
内川 自分で聴き返してみても「なんて感情の起伏が激しいんだろう」と思います。曲によって全然違うことを言っていたりするし。でも、一貫性のないところが人間っぽいのかなとも思いますね。作り手の僕らから「こういうアルバムです」と断定するのも嫌なんですよね。それぞれの人が聴いて感じたことが、このアルバムの伝えたいことなんだと思うので。それもあって、「TerminaL」というタイトルがしっくりきたんです。いろんな人がいて、交差していく感じ。とにかく「聴く人に委ねたい」という気持ちから付けたタイトルでもあります。
鶴田 自分自身が、ターミナルの上で交差する人たちの中の1人なんだと思っています。
変化する内川、変わらない鶴田
──この1年間で、お互いに対する印象とか、関係性は変わりましたか?
鶴田 どうだろう……変化した部分があるとすれば、制作中に「ああしたい、こうしたい」といちいち確認し合わなくなりました。前はやりたいことやその時々の気持ちをすり合わせて作ることが多かったんですけど、この1年を経て、そういうコミュニケーションが減ったんですよね。お互いに信頼しているからこそ放任し合って、好き放題し合う関係のほうがうまくいく気がしますね。
──内川さんから見るとどうですか?
内川 今考えていたんですけど、「鶴田は出会ったときからずっと変わっていないし、この先も変わらないんだろうな」と、この1年で思いましたね。逆に、僕はこの先もどんどん変わっていくと思うんですよ。僕が変わっていくことを鶴田は容認しているし、鶴田が変わらないことを僕も許している。端から見るとお互いに興味がなさそうに見えるけど、決してそういうことでもなくて。変わらない人としゃべりたいなと僕は思うし、逆に鶴田は、僕としゃべっていて面白いんじゃないですかね(笑)。
──どうですか?(笑)
鶴田 うーん、まあ、面白いということにしておきます(笑)。内川は本当に、昨日と今日で言っていることが違うんですけど、そういう部分を、自分は面白がっているなとは思いますね。
すっぴんを好きになってほしい
──アルバムを聴いて、改めてK:reamは稀有な存在だなと思ったんです。歌とメロディがあって、歌詞の言葉自体はとてもわかりやすくて。余計な説明や装飾を必要としていない。「これだ!」という直球が投げられている。
鶴田 変なバンドだなって思いますね(笑)。この2人で曲を作ったら、結果的にこうなっちゃうなと思うんですけど。
内川 僕は、なんというか……「普通だな」って。最近、ここまで普通の感じで出しているミュージシャンってほかにいないと思うんですよ。昔とデフォルトが変わって、変であることが当たり前の今だから、平凡な僕らがむしろ変に見えているかもしれない。僕ら自身、どちらかといえば昔の音楽が好きなのも一因だとは思うんですけどね。僕らは自分たちを変だとは認識していないし、奇天烈なこともしていないんですけど、「自分たちが薄味だからこそ変なんじゃないか」と思ってしまうくらい、今、有線とかから流れてくるポップスって、味が濃いじゃないですか。
──わかります。スキル的な面でも、価値観的な面でも、とにかくインパクトを残して世の中を納得させなければ、という意識を持っているミュージシャンも多いと思うし、それが面白さにも、息苦しさにもつながっている時代だと思います。でも、だからこそK:reamの、余計なものをまとわずに自分たちの王道を行こうとするスタンスは稀有だなと思うんです。
内川 メジャーデビューする前は僕たちなりに「今っぽさを取り入れてみよう」という考えもあったけど、今回のアルバムはそんなことを取っ払ってもいて。単純に、できないことをやっても通用しないと思うし、自分の声と、曲と、鶴田がいるっていうこと……それだけでやっていける自信が、僕にはあるんですよね。なので、お化粧するんじゃなく、すっぴんを好きになってもらいたいなと思いました。僕の声を手放しで好きになってくれる人を増やすことができれば、最終的にはなんでもできるなとも思うし。それに、このスタンスでやっていたほうが、仮に売れている人たちと肩を並べたときに負けないと思うんですよ。
鶴田 特に今回のアルバムは、自分たちの内面に対して誠実に作った曲たちだから。だからこそ、余計な装飾は合わないし、必要なかったんだと思います。
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大きなピースを担う「Live」