絡み合う人間関係を音楽で描けたら
コトリンゴ で、私が気になっているのはそのあとのことです。
片渕 それはまだこれからですよ! がんばります!
──“そのあと”とは、すずさんの右手がテルちゃんの口紅でリンさんの生涯を描く、クラウドファンディングのクレジットの部分でしょうか。
コトリンゴ そうです。すごく楽しみにしています。「たんぽぽ」のあとにどうなるのか、どんな気持ちにさせてくれるのか。ここでは新たに書き下ろした新曲「私の居場所」が使われます。「右手の歌」「たんぽぽ」に続いてまた歌ものはどうかなと思ったんですけど、監督さんが「湧き上がる思いが出てくる感じで歌を入れてほしい」とおっしゃって。それでがっつり全編歌ではなく、最後に少し入れました。リンさんのテーマも入れています。
──リンさんのテーマとは?
コトリンゴ 「リンさん」という曲のフレーズを使って「りんどうのひみつ」と「私の居場所」を作ったんです。今回はすずさんと晴美さんのテーマを使って「試験栽培」を作ったり、テーマをたくさん引用していますね。お話の中でいろんな人間関係が絡み合うので、それを音楽でも表現できたらと思ってやらせていただきました。ちなみにリンさんもすずさんと同じようにモヤモヤした気持ちはあったんですかね?
片渕 それはまだわからない。これはすずさん側の映画なので、リンさんや周作さんの心の中まで覗けていないんです。それはリンさんもどう思っているのか、そこは観てくれる人に委ねたいですね。
昭和の日本にある楽器で
──サウンドトラックのジャケットもかわいいですね。すずさんとリンさんが二葉館の前に座って一緒に“あいすくりいむ”を食べています。このデザインの案はコトリンゴさんから?
コトリンゴ はい。ジャケットは前回と同じく、監督補佐の浦谷千恵さんが描いてくださったんです。すずさんとリンさんのお話がキーになってくるので、2人が今の女の子たちみたいに甘いものを食べながらおしゃべりしているのはどうですかと提案させていただいて。お花も周りに飛んでいてすごくかわいらしいジャケットに仕上げてくださいました。
──コトリンゴさんは過去にも劇伴を手がけていますが、この作品ならではの面白みはありましたか?
コトリンゴ こだわらなくてもいいかと思ったんですけど、2016年に作ったときは昭和時代の日本にある楽器での音作りを考えました。例えばエレキギターはあったかもしれないけれど、あまりポピュラーじゃないものだったからアコースティックギターの音色にしようとか。
──コトリンゴさんの作る劇伴はあまりその作品の時代に鳴っていた音とのズレがないものが多い?
コトリンゴ うーん、結局できあがっちゃうと気にならなかったりもするんですけど、私が好きな劇伴はそういうものが多いので。例えばソフィア・コッポラの「マリー・アントワネット」って、中世のお話なのに現代の流行りの音楽を合わせていて最初はすごく違和感があったんです。観ているとそれもだんだんはまってきて面白かったんですが、「この世界の片隅に」はもちろんそういう感じではなかったので。
──片渕監督からの楽曲に対するリクエストはどんなものだったんですか?
コトリンゴ 劇伴はすずさんの心の中の音楽だから、いわゆる映画音楽のように豪華なストリングスを入れたりはせずピアノでこじんまりしたものがいいとお話をいただきました。もしオーケストラを入れるならオープニングとエンディングだけがいいと。大まかなオーダーはいただきましたが、過去に一度お仕事をご一緒していることもあって信頼していただけて、コアな部分は自由に作らせてもらいました。
自分の居場所を探している人に観てほしい
──では最後に「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」をこれから観る方へメッセージをお願いします。
のん 新作の映画として観られるものになっているので、前作を観た方もまだ観たことがない方にも、いろんな方に観ていただきたいです。すずさんの感情がダイレクトに伝わる映画になっていて、変化があったときにコトリンゴさんの曲が流れたり、コトリンゴさんの声が聞こえてくると、ウワーッと気持ちが湧き上がってきます。その心がザワザワする感じが心地いいです。映像も音楽も全部含めて皆さんにこの作品の魅力を味わってもらいたいです。
片渕 ただぼーっと生きているように見えたすずさんが、今回の映画では「自分は今ここにいていい人なのか」と悩んでいたことが明らかになります。現代でもそういう思いを抱えている方が多いと思うので、そんなお気持ちの方にぜひ観てもらいたい。すずさんもちゃんとした答えは出せないままなのかもしれませんし、でもひょっとしたらすずさんと皆さんが思っていることが一致するかもしれない。遠い時代に思える戦争の頃も、同じように自分の居場所を探していた人がいて、その人がどんな道を進んだのかぜひ劇場に観に来てもらえるとありがたいなと思います。
コトリンゴ 私が知っている戦争マンガってあまり恋模様に突っ込んで描かれているものがなくて。でも「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、戦時下でもいろんな恋模様があったんだと知ることができて、すごく衝撃的でしたし、ドキドキしました。原作が好きな方はきっと2016年版もご覧になっていると思うのですが、今回もぜひ観に来ていただきたいです。特に女性には刺さる部分も多いと思います。
公演情報
- コトリンゴ&クリバス from アルゼンチン JAPAN tour 2020
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- 2020年2月23日(日・祝)東京都 豊洲シビックセンターホール(きさらぎ reunion)
- 2020年2月28日(金)愛知県 三楽座
- 2020年2月29日(土)岡山県 蔭凉寺
- 2020年3月1日(日)島根県 松江 興雲閣
- 2020年3月4日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA(やよい reunion)
- コトリンゴ Otemachi One Opening Event 小鳥観察 kotringo Best 発売記念ライブ
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- 2020年5月17日(日)大手町三井ホール