2時間でパッキングしてロサンゼルスへ
──「I wanted to do」の次に2番目に書いたのはどの曲ですか?
1曲目の「Ambitious map」です。この曲はミュージックビデオにもなっていますね。
──ということは「Ambitious map」がリードトラック的な位置付けなんでしょうか? それとも曲名にアルバムタイトルの「emotion」が入っている「Piece of emotion」?
すごくわがままな話をさせてもらうと、このアルバムは「全曲リードです」と言えるくらい自信を持ってお届けしていて。強いて言うならミュージックビデオとしてのリード曲が「Ambitious map」で、アルバムのタイトルトラックが「Piece of emotion」という、二本柱みたいな感じで私の中では位置付けているんです。で、「Ambitious map」は先ほども言ったように、2017年にロサンゼルスで1人旅をしたときの歌ですね。突然休みが6日間できたので、2時間でパッキングして、同時に飛行機のチケットとESTAをとって、その日のうちにロサンゼルスに飛ぶっていう(笑)。
──すごい行動力ですね(笑)。歌詞は「ルーティンな毎日」に象徴される予定調和的なものからの脱出ないし逸脱がテーマになっていると思ったのですが、本当に日本から飛び出していたとは。
飛び出してみた結果わかった世界と言うか、「飛び出してよかった!」という思いが詰まっています。なので新曲6曲の中では自分の色が濃い歌詞になってはいるんですけど、2番目に書いた歌詞ということもあり、自分を客観視するのに少し苦労しまして。
──客観視というのは?
例えば「I wanted to do」は曲の主人公と自分との間に距離があったからこそ、景色が浮かびやすかったんです。でもやっぱり自分のことって自分ではなかなかわからないし、特に自分の悪い部分は見落としがちじゃないですか。そういう一面もあえて拾いつつ、ディレクターさんから「これだと優しすぎるんじゃ?」とか「ここは逆に強気すぎない?」みたいなアドバイスをいただいて、なんとか書き上げました。
大抵のことは小一時間でできる女
──「Ambitious map」の「はみ出してみること 遠回りすること 躊躇わずにいこう」という歌詞から、寿さんがロサンゼルスでどのような旅をされたのかが伝わってきます。
旅って正解がないものだと思ってるんですよ。特にロサンゼルス旅行は事前に何も決めずに行ったので、友達に友達をひたすら紹介してもらっていろんな人に会う旅になったんです。無理やり旅の目的を挙げるとすれば、私は現地でダンスレッスンを受けたかったんですけど、それはあまりにも英語がしゃべれなくて断念しまして(笑)。
──ははは(笑)。
そういう旅を「面白いね」と言う人もいれば、「6日もあったのにもったいない」と言う人もいる。でも人と会うことに時間を費やしたことも、ダンスレッスンを受けられずにしょんぼりしたことも私にとっては等しく貴重な経験なんですよね。必ずしもプラン通りに行動することがいい旅につながるとは限らないし、何が正しい道かはわからないなって、そのとき強く思ったんです。
──「Ambitious map」は曲調も攻めてますよね。イントロからボ・ディドリー・ビートを思わせる強靭なリズムに耳を奪われます。
2015年の「black hole」あたりから「新しい“寿ロック”を作ろう」とみんなで模索しながら、その都度納得のいくものを作ってきたんですけど、この「Ambitious map」は集大成的な1曲になったんじゃないかなと。これをお客さんがどれだけ面白がってくれるかは正直一か八かの賭けではあるんですけど、ただ1つ言えるのは絶対にライブでは盛り上がるし、何も考えずに体を動かしてくれれば正解な曲だということ。その楽しさを、ミュージックビデオでも皆さんにお伝えしたかったんです。今回映像では“好奇心がチャレンジをさせる”というテーマで、私がカラーガード(フラッグ演技)とダブルダッチとドラムとフリースタイルバスケに挑戦しています。実はほぼ当日の練習だけで、1日で全部の振り付けを覚えて撮影したんですよ。覚えたそばから忘れていくようなスタイルだったんですけど、監督さんから“大抵のことは小一時間でできる女”という称号をいただきまして(笑)。そんな私の挑戦を、応援しながら見てもらえたらうれしいです。
がんばれ受験生!
──8曲目の「Sun Shower」はド直球のロックナンバーですね。3曲目から7曲目までのダンスゾーンを抜けてからの1曲なので、余計にガツンときます。
“ザ・寿ロック”と言うか、皆さま的に安心して聴いていただける曲なんじゃないかなと思います。ただ、“寿ロック”の流れに沿いつつも、より突き抜けたものを目指しました。このアルバムが発売される1月は受験シーズンでもあるので、受験生をイメージして、自分の学生時代の気持ちを思い出しながら歌詞を書きましたね。あと実際に高校生の声優の諸星すみれちゃんに「今の高校生はどんなこと考えてるのかな?」って質問してヒントをもらったり。もちろん受験生に限らず、いろんなことをがんばっている人たちの願いが叶いますようにという思いを込めています。
──天気雨を「笑い泣き心模様」に重ね合わせたり、どこか負けん気の強さを感じます。曲調と相まって、転んでもすぐに立ち上がってまた駆け出していくような勢いがありますね。
ホントですか? 私映画を観ていてよく感動するシーンがあって、それは登場人物がひたすら走っているシーンなんですよ。一番好きなのが「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」でしんちゃんが東京タワーの階段を駆け上がるシーンなんですけど、あれはもう何度観ても泣いちゃって。言われてみれば、それに近いかもしれないですね。うれしいです。
──この「Sun Shower」から9曲目「black hole」、10曲目「“YES”」(「Bye Bye Blue」のカップリング曲)と続くロックナンバー3連発も痛快ですね。
畳みかけてみました(笑)。「black hole」は、文字通りブラックな美菜子を顕現させてくれた曲と言うか。2ndアルバムの「Tick」(2014年9月発売)で「ウレイボシ」というちょっとヒリヒリするような、たぶん“エモい”という形容がぴったりな楽曲を歌ってから、この路線も突き詰めてみたくなったんです。それが「black hole」、さらに「“YES”」へとつながりましたね。
──いずれもおっしゃる通りエモくてシリアスな楽曲です。
何かあったんでしょうね、私の中でも(笑)。なので、この2曲は続けて聴いてもらいたいですね。
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寿美菜子の宣言を書いた「Piece of emotion」
- 寿美菜子「emotion」
- 2018年1月17日発売 / ミュージックレイン
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初回限定盤 [CD+DVD]
3600円 / SMCL-524~5 -
通常盤 [CD]
3100円 / SMCL-526
- CD収録曲
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- Ambitious map
- ミリオンリトマス
- Bye Bye Blue
- LOVE JOY FUN
- アンブレラ・アンブレラ
- I wanted to do
- Candy Color Pop
- Sun Shower
- black hole
- “YES”
- タイムカプセル
- feel in my heart
- Another Wonderland
- Piece of emotion
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「Ambitious map」 Music Video
ライブ情報
- 「LAWSON presents 寿美菜子 Zepp Live Tour 2018“emotion”」
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- 2018年5月13日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2018年5月20日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年5月26日(土)大阪府 Zepp Namba
- 2018年6月3日(日)東京都 Zepp Tokyo
- 寿美菜子(コトブキミナコ)
- 1991年9月17日、兵庫県生まれの声優 / アーティスト。2009年にテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、琴吹紬を演じ注目を集め、2010年に同じミュージックレインに所属する豊崎愛生、高垣彩陽、戸松遥と共にユニット・スフィアを結成した。同年9月にシングル「Shiny+」でソロデビュー。2012年には1stアルバム「My stride」を携え、初のソロツアー「First Live Tour 2012 “Our stride”」を行った。その後もソロ、そしてスフィアとして幅広く音楽活動を行い、2018年1月に作詞に初挑戦した3thアルバム「emotion」をリリース。5月にライブハウスツアー「LAWSON presents 寿美菜子 Zepp Live Tour 2018“emotion”」をスタートさせる。