ナタリー PowerPush - 近藤晃央
異色の「NARUTO」テーマ曲 濃密な2013年を振り返る
ダークファンタジーの王道
──アレンジは前作「あい」に引き続き出羽良彰氏が担当されていますが、音数の多い、華やかな仕上がりになりましたね。
アレンジに関して僕が出羽さんにオーダーしたことはほとんどなくて。今回はPVも含め「タイトルと曲を聴けば、誰もが見えてくる世界観」というのを共通言語にしていたんですが……それは言うならば多くの人が昔からいろんなファンタジーを見てきた中で、「ダークファンタジーで描きたいことはこれだろうな」というもの。その認識を自然と共有できていたから、いい意味で「この歌詞とメロディがあったらやっぱりこうなるよね」というものになったのかなと思います。
──まさにダークファンタジーの王道?
そうですね。このフレーズにはこの楽器が鳴っててほしいとか、そういうものが僕の考えていたものと共通してました。だから意外性があったというよりはブラッシュアップされて戻ってきた感じ。さっき言った「ブレーメンの音楽隊」のような、舞踏会的なピアノソロも気に入ってます。
──ここで冒頭の「アニメの製作サイドが意図したこと」に触れたいのですが、そういう色の濃い楽曲だからこそのインパクトを狙ったという部分もあるんですかね?
あくまで推測ですが、アニメのタイミングとしても転機というか、今クールの内容が今までとは圧倒的に異なるものだったので。楽曲面でも今までとは違うテイストにトライしたのかなっていう印象を僕は受けました。
──公式YouTubeチャンネルで話題となっているPVも、まさに先ほどの「共通言語」が具現化されたアニメーションで、監督は2ndシングル「テテ」でもタッグを組んだ谷篤氏ですね。
谷さんはもともとティム・バートンが好きで映像を始めたという人なので、もう全面的にお任せしました。楽曲の根本のメッセージ性をわかりやすく画にしてくださってると思います。
──アニメ中にインサートされる近藤さんの歌唱シーンも素敵でしたよ。
谷さん曰く、僕はブラックナイトタウンを仕切ってる人もしくは舞踏会の支配人……みたいなイメージだそうで。ちょっとすました感じに映ってるのは、そういう理由ですね(笑)。
クリスマスは幸せな人たちを眺めてる側だった
──カップリングの「わたしはサンタクロース」は近藤さんにとって初のクリスマスソングですが、これはいつ頃作られた曲ですか?
今年の夏で、「ブラックナイトタウン」のレコーディング直後ですね。カップリングはいつもリード曲ができるくらいにバランスを見て作るんですが、今回はファンタジーに対するファンタジーというところで。「わたしはサンタクロース」のほうが少し日常的なイメージなんですが、「ブラックナイトタウン」の最初のヒントがサンタだったから、ちゃんとサンタらしい曲も書こうかなって。
──自分にとって大切な誰かがサンタクロース、という心温まるナンバーですよね。
さすがにもう僕はサンタを信じてないですが(笑)、子供たちに「サンタはいるよ」って言うのは間違ってないと思うんです。だって、サンタはお父さんやお母さんだから。この歌詞では「サンタが持って来てくれるプレゼントはサンタからの贈り物じゃなく、君を思ってる大切な人がサンタに預けたプレゼントなんだよ」っていうロマンチックな考え方ができたらいいなと思ってて。サンタクロースは配達人に近い感覚ですね。
──美しいクリスマスの装飾で彩られたようなサウンドも秀逸でした。
「クリスマスっぽく」っていうのはもちろんベースにありつつ、これはずっとアコギがリズムを刻んでて、ドラムがないんです。アレンジしてくれた江口(亮)さんはクリスマス生まれということもあってか(笑)、細部までいろいろこだわってくれました。
──近藤さんにとって、クリスマスはどんな季節?
雰囲気は好きですけど、あまりいい思い出はなくて。どちらかというとカフェでバイトをしながら、幸せな人たちを眺めてる側でした(笑)。でもそのときの目線も2番の歌詞にちゃんと入ってて、素敵なものを見て喜ぶ誰かがいて、その人を見てまた誰かが笑って……っていう幸せの連鎖みたいな。クリスマスってだいたい満席なんですけど、コース料理だとそこまで忙しく店内を回ることはなくて。お客さんを見る余裕もけっこうあったので、「この2人は実はカップルじゃないかも」とか変な想像もたまにしてましたね(笑)。
22曲を世に出した濃厚な2013年
──最後に2013年の振り返りも。どんな1年でしたか?
今年は6月と9月にツアーを回って、シングル3枚、アルバム1枚を出して。楽曲の数でいうと22曲も世に出すことができて、本当に濃い1年だったと思いますね。でもシビアな目で見ると、コンスタントにリリースしてきたぶん、見つめ直しができなかった部分も多いのかなって。それはこれからの課題かなと思ってます。
──ツアー中は並行して曲作りもしてましたか?
そうですね。9月に出した「あい」というシングルが、まさしくツアー中に作ってました。
──そういう時期のバランスはうまく取れるようになってきました?
どうなんでしょう。うまくできるようになったというのは結果論な気もしますし、第一、その途中は何度もギブアップしたくなるので(笑)。
──来年の抱負はありますか?
特別に何かが変わるというのはそんなに考えてなくて。ただ、例年と同じようなことをするよりは、常に自分の中でちょっとした新しいことをやっていけたらって感じですね。その積み重ねが重要なのかなと思ってます。
収録曲
- ブラックナイトタウン
- わたしはサンタクロース
- ブラックナイトタウン-instrumental-
- わたしはサンタクロース-instrumental-
近藤晃央(こんどうあきひさ)
愛知県刈谷市出身の男性シンガーソングライター。中学生時代にギターを始め、ライブハウスや音楽関係の会社で働いた後、23歳のときにアーティストとして活動することを決意し退社。2009年より楽曲制作に専念し、東京や地元の愛知県を中心にストリートライブを開始。以来着実に活動の範囲を拡大し、2012年には愛知県の学生たちとコラボレーションしたフリーライブイベント「UTAPHICA」を主催し、「ap bank fes’12 Fund for Japan」にも出演する。9月にはシングル「フルール」でメジャーデビューを果たす。2013年6月には1stフルアルバム「ゆえん」を発表。同年9月に4thシングル「あい」、11月に5thシングル「ブラックナイトタウン」を発表した。