ナタリー PowerPush - 近藤晃央
異色の「NARUTO」テーマ曲 濃密な2013年を振り返る
シンガーソングライターの近藤晃央が、ニューシングル「ブラックナイトタウン」をリリースした。今作は、アニメ「NARUTO -ナルト- 疾風伝」のエンディングテーマという大型タイアップが付いた1曲。オンエアスタートと同時に多くのNARUTOファンからも好評を得た、エモーショナルなロックチューンだ。
今回のインタビューでは、楽曲の制作秘話はもちろん、デビュー2年目を迎えた2013年の総括もじっくり語ってもらった。
取材・文 / 川倉由起子 撮影 / 小坂茂雄
この曲は選ばれないだろうと思っていた
──「ブラックナイトタウン」は、「NARUTO -ナルト- 疾風伝」のテーマ曲として書き下ろしたものなんですか?
いや、これは2年前くらいに作った曲で。デビュー前からちょくちょくライブでも歌ってました。今回はタイアップのお話をいただいて、この曲を含む何曲かを提案したんですが、実は「ブラックナイトタウン」を入れたのはちょっとした遊び心だったというか。世界観は「NARUTO」とリンクした部分もあるけどサウンド的にはちょっと違うかなと思っていたので、選ばれることはないと予想していたんです。
──でも、まさかのその曲が選ばれたと。
はい。ビックリしましたが、これは何か意図するものがあるんだろうと思いましたね。
──その“意図”は曲の話を進めながら紐解いていければと思うのですが、まず、今作のようなダークファンタジー系スウィングロックは近藤さんの中でかなり異質ですよね。楽曲全体を通して、どこかミステリアスで毒っ気のある、例えるならティム・バートン監督のような作風だと思いました。
そうですね。ティム・バートン監督の作品は僕も好きなので、少なからず影響を受けてる部分もあると思います。あと、そこにプラスしてインスパイアを受けたのは「ブレーメンの音楽隊」。ダークファンタジーではないですが、あれは物語の中で鳴ってる音が聞こえてくるような絵本だなと思っていて。だったら僕は、音楽をやっている者として、逆に画が浮かぶような音楽にしたいと思ったんです。聴いた人の中にシチュエーションが浮かぶ言葉選びも意識しながら作りました。
──メロディに関してはいかがですか?
マイナーコードの曲はほかにもわりとあるんですが、こういうテンポ感やサビでリズムが変わるっていうのは珍しいかも。展開もすごく速いし、自分の中では音楽理論を一切無視した(笑)、遊び心の詰まった曲になりましたね。
「孤独」は存在するようでしないもの
──歌詞は作った当時のままですか?
はい、そのままです。そもそも当時これを書いたのは「サンタクロースはクリスマスシーズン以外のとき何をしてるんだろう? いわゆる人から求められていない時期って意外と飲んだくれてたり荒んでるんじゃないかな?」ってふと思ったことがきっかけなんです(笑)。本当に夢のない、どうでもいいことなんですけど(笑)。でもそんなところから、求められてない人間たち同士が集まって、もし孤独や心の闇を共鳴し合う場所があったら……というイメージが広がっていって。それをファンタジーとして描きたいなと思いました。
──「孤独や心の闇を共鳴し合う場所」というのは、タイトルの「ブラックナイトタウン」のことですよね。
はい。でも僕が思うに、孤独という気持ちは存在するようでしないものなのかなって。孤独だと感じるってことは「孤独じゃないとき」という比較対象を知ってるからであって、だとすると闇でしか生きたことのない人間は自分が今闇にいることを自覚できるわけがないんですよね。
──ええ。
もっと言うと、「光」という存在を知らない限り、自分が闇にいるってことには気付けないはず。だから今もし闇の中にいても、そのマイナス同士が寄り添えばそれは孤独ではないのかなって。「自分は1人だ」とか「いつも孤独を感じている」という人がいても、そう考えてるのは1人じゃないですよね。その人たちが共感し合えばきっとプラスのエネルギーにも変わると思うし、闇と闇が寄り添えばイコール光になるんじゃないかなって。
──なるほど。ちなみに近藤さんは「孤独」に対してどんなイメージを持っていますか?
僕の「孤独」は……誰かと一緒にいたときの温もりみたいな感じですかね。温もりだけが残っている状態や、いいときを思い出すのが孤独なのかなって。でも不思議なことに、その悲しさは絶望ではない感覚もあって。家族と離れて暮らしたとき、周りの人が亡くなったときなんかは、そういう感じでしたね。
昼より夜のほうが正直になれる
──言葉選びで具体的に意識したのはどんなことでしたか?
とにかく画を想像させるために選んだ言葉が多いのですが、こういう曲じゃないとなかなか使わない単語も選びました。例えば冒頭の「午前0時 灯り消えた街 / 今宵は 踊れ Tipsy Night」は、かなり説明から入ってて。僕の曲はシチュエーションが出てくるものが少ないので、そこは今までと違いますね。
──先ほどおっしゃった通り、頭からこの歌詞とメロディがリンクして情景がクリアに浮かびました。
「ブラックナイトタウン」という架空の街には、0時に眠る人がいれば同時に行動を始める人たちもきっといるんですよね。だからそこは後者の人たちが「夜が来た!」って歓迎しているようなイメージで書いてみました。
──ところで、夜から明け方までの時間って年齢や生活スタイルによって印象が全然違うのかなって思うんです。例えば幼少期だったら、覗き見したいけどしちゃいけない謎めいた時間……という感じがありませんでした?
ああ、そうですね。子供の頃って確かにその時間が怖かった(笑)。何が起こってるかわからないし、夜中に目が覚めちゃったときは起きながら目だけ閉じるようにしていました。今はだいぶ夜型人間ですけどね(笑)。
──制作中だと特にそうなる?
だいたいは昼過ぎから始めて、翌朝の9時10時までやってます。理由はわからないですが、やっぱり夜のほうが集中できるんですよね。あと、昼より夜のほうが正直になれるってところもあって。僕、昼にやろうとすると最初から変に前向きになっちゃうんです(笑)。曲中の起伏がないというか、押し切っちゃう感じになりがちで。そういう意味でいうと、最初に低いところから入ったり、途中で落ちたり……っていう曲のテンションは夜始めるからこそ生まれるのかもしれないですね。
収録曲
- ブラックナイトタウン
- わたしはサンタクロース
- ブラックナイトタウン-instrumental-
- わたしはサンタクロース-instrumental-
近藤晃央(こんどうあきひさ)
愛知県刈谷市出身の男性シンガーソングライター。中学生時代にギターを始め、ライブハウスや音楽関係の会社で働いた後、23歳のときにアーティストとして活動することを決意し退社。2009年より楽曲制作に専念し、東京や地元の愛知県を中心にストリートライブを開始。以来着実に活動の範囲を拡大し、2012年には愛知県の学生たちとコラボレーションしたフリーライブイベント「UTAPHICA」を主催し、「ap bank fes’12 Fund for Japan」にも出演する。9月にはシングル「フルール」でメジャーデビューを果たす。2013年6月には1stフルアルバム「ゆえん」を発表。同年9月に4thシングル「あい」、11月に5thシングル「ブラックナイトタウン」を発表した。