ナタリー PowerPush - 近藤晃央

永遠に途上にある僕が今いる、ここ“らへん”

どこか哀愁のある「和メロディー」に乗せて、純度の高い伸びやかな歌声を響かせるシンガーソングライター・近藤晃央。テレビアニメ「宇宙兄弟」のテーマ曲として発表した2ndシングル「テテ」がスマッシュヒットを記録し、勢いに乗る彼が、約半年ぶりの3rdシングル「らへん」をリリースする。

今作は、誰の心にもある温かい場所「ここらへん」をキーワードに、大切な人との日常やつながりを彼独自の視点で描いたバラード。楽曲の制作秘話はもちろん、そこから見えた彼の音楽的嗜好や恋愛観にも深く迫ってみた。

取材・文 / 川倉由起子

「らへん」は現在進行形の言葉

──3rdシングル「らへん」はかなり初期の楽曲だそうですね。いつ頃作ったものなんですか?

近藤晃央

2009年から音楽活動を始めて約4年なんですけど、その中でもかなり初期に作った曲になります。デビュー前のストリートライブでもずっと歌ってて、自分の基礎を作ってくれたというか、すごく原点に近い作品だなって。

──当時、どういった思いでこの曲を作ったんでしょう?

最初は「らへん」という3文字がポンッと浮かんだんです。で、忘れないようにメモって、それをテーマにすぐ曲を書こうと思ったんですけど……。自分の中から出てきたのに最初は「らへん」って言葉の意味がわからなくて(笑)。なんでこの言葉が出てきたんだろう?と考えているうちに「ここらへん」とか「そこらへん」っていう言葉から自分が「らへん」だけを切り取ってたことに気付いたんです。

──無意識のうちに切り取っていたということ?

はい。で、そこから「じゃあ僕の中の“ここらへん”ってどこ?」と考えてみたらやっぱり胸のあたりかなーと思って。そんな自分の中心にあるものは、と思いを巡らせたら、いろいろ大切なものが浮かんできて。そんなところから「人はそれぞれ大切なものが真ん中にあるんじゃないか」という思いでこの歌詞を書いていきました。

──でも「らへん」って場所を特定できない少し曖昧な表現ですよね。そんな実体のない領域を歌詞にしていく作業は難しくなかったですか?

そうですね。確かに「らへん」はちょっとぼやけた感じの言葉だとは思います。でも、なんで「そこらへん」「ここらへん」とぼやかさないといけないのかというと、おっしゃる通りまだ場所が特定できないから。例えば2つの思いがまだ重なってる途中とか、何かの進行形の状態だからこそ「らへん」としか言いようがないのかなって。そしてその状態が僕はけっこう好きなんです。だから、今自分は大切な人に対して「好き」「愛してる」以上の感情を抱いているし、その思いを伝えたいとも思っている。だけど、なかなか言葉にはできない。それならいっそ、伝えようとする姿勢や伝える途中の気持ちすらも言葉にしてしまおう、という詞を書いてみたんです。今はまだ気持ちが交わり始めたばかりで、その交わる場所は「2人のここらへん」というぼんやりしたものかもしれないけど、いずれ「らへん」が取れて「2人のここ」と言える日が来るかもしれない。そんな途中の段階を描いた曲になってます。

僕の思いをひたすら書きつつ、主役は僕じゃない

──近藤さんの歌詞って、言い回しや言葉の配列が特徴的ですよね。例えばサビ「疲れたから会わないんじゃなくて 疲れたから会いたい」であったり。

確かに単語選びよりも、むしろ言葉の配置を気にするようにはしてますね。同じ2つの言葉でも順序が変われば意味が違ってくるし、1つの言葉では個性が出せなくても別の言葉と組み合わせると輝きが増すこともよくあるので。1番のサビだけじゃなくて、2番のサビ「寂しいから会いたいんじゃなくて 会いたいから寂しい」も言葉の順番を入れ替えるだけでこんなにポジティブになるんだなって自分自身でも驚きましたから(笑)。

──あと不思議だなと思ったのが、かなりストレートで深い愛情をつづりつつも「らへん」は決して重くないんですよね。むしろ、どこかポップに仕上がってる部分もあって。

この曲はまず1番のAメロが人を尊重したり大事にしたり、ってところから始まっていて、その後は「僕」の思いをひたすら書いてはいるんだけど、曲自体の主役は実は「僕」じゃなくて「君」。そこが重くないと感じてもらえる1つの理由なのかなって思います。恋愛をするとつい自己中心的になってしまうこともあるけど、それでは押しつけがましくなるし、重くなる。でも相手を思いやれれば押しつけがましさはなくなるはずだし、そうやって人を大切できるようになれば、自分を大切にすることもできるだろうし。自分を尊重するためにも相手を尊重するっていうのは、とても大事なことなのかなと思ってます。

僕はたぶん永遠に途上のまま

──ところで「らへん」の歌詞から垣間見える不器用な男性像は近藤さんそのものですか? 先ほど「うまく言葉で伝えられないなら、その途中の気持ちを書いてしまおう」という話もありましたが。

僕の口癖は「なんだろうな」なんですけど、こういう仕事をしておきながら、言葉でうまく言い表せない気持ちがすごく多いんです。こうやってお話をしていても、あとになって「さっきの言葉はちょっと違った」と感じることがよくありますし。でも、だからこそそうやってうまく言えない気持ちを、そのまま形にしたくなるというか。気持ちが整理できるまで待ってみたはいいけど、そのまま整理できずに消えてしまった、なんてことになるくらいだったら、結果正しく伝えられなくてもいいから、何個言葉を並べてでも、その途中経過さえも伝えてしまいたいんです。

──で、結果おのずと“ing形”、“現在進行形”の曲が多くなっていく?

そうですね。「途中」っていう居場所を共有するために音楽をやっていきたい。というか、それしかできないっていうのもあるんですけど(笑)。

──「らへん」もまさに変化の途上の曲ですもんね。

僕はたぶん、永遠に途上のまま死んでいくんだと思います(笑)。僕が不安になったり、もがいたりしながらも生きているのは、何かを完結したり解決したりするためじゃなく、その何かにちょっとでも近づくためなのかなって。だから結果よりも「たどり着こうとしてる段階」を大事にしたいし、もし進んだつもりがあと戻りしていたとしても、ちゃんとそこには意味があるんだよって肯定できるような音楽をやっていきたいですね。こういう面倒くさい性格を持ってしまった以上は(笑)、そこを個性にしていきたいんです。

ニューシングル「らへん」 / 2013年5月15日発売 / DefSTAR Records
初回限定盤 [CD] 1200円 / DFCL-2000
通常盤 [CD] 1000円 / DFCL-2001
収録曲
  1. らへん
  2. 3度目の告白
  3. らへん -アコースティックver(初回生産限定盤のみ収録)
ライブ情報
「らへん」CD発売記念スペシャルミニライブツアー
  • 2013年5月17日(金)
    愛知県 アスナル金山
  • 2013年5月18日(土)
    愛知県 イオンモール名古屋みなと 1Fワールドコート
  • 2013年5月19日(日)
    東京都 タワーレコード渋谷店 3Fイベントスペース
  • 2013年5月25日(土)
    福岡県 キャナルシティ博多 B1Fサンプラザステージ
  • 2013年5月26日(日)
    大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店

※すべて観覧無料

近藤晃央 1st TOUR ~ui ui she~
  • 2013年6月22日(土)
    大阪府 心斎橋Music Club JANUS
  • 2013年6月24日(月)
    福岡県 福岡ROOMS
  • 2013年6月28日(金)
    東京都 WWW
  • 2013年7月3日(水)
    愛知県 名古屋Electric Lady Land
近藤晃央(こんどうあきひさ)

愛知県刈谷市出身の男性シンガーソングライター。中学生時代にギターを始め、ライブハウスや音楽関係の会社で働いた後、23歳のときにアーティストとして活動することを決意し退社。2009年より楽曲制作に専念し、東京や地元の愛知県を中心にストリートライブを開始。以来着実に活動の範囲を拡大し、2012年には愛知県の学生たちとコラボレーションしたフリーライブイベント「UTAPHICA」を主催し、「ap bank fes’12 Fund for Japan」にも出演する。9月にはシングル「フルール」でメジャーデビューを果たし、12月にはテレビアニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマとなる2ndシングル「テテ」をリリース。そして2013年5月、亀田誠治プロデュースによる3rdシングル「らへん」を発表する。