ナタリー PowerPush - 近藤晃央
「手を離す決意」を歌った注目2ndシングルの世界
シンガーソングライターを目指したのが23歳という遅咲きの経歴ながら、しっかりとデビューをつかみ取り、着実に良質な楽曲を生み出し続けている近藤晃央。2ndシングルとなる「テテ」は、TVアニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマとしてオンエア中の、軽快なギターサウンドとラテンのリズムが心地よく響くアップチューンだ。しかし、その曲の中に込められたメッセージは、とても強く深いものだった。
ナタリー初登場となる今回は、音楽を目指すきっかけとなった出来事や楽曲に対する思い、強い信念をたっぷりと語ってもらった。まっすぐに相手の目を見て、しっかりと言葉を選びながら話す彼の誠実さと、話せば話すほど見えてくるその興味深い本質をぜひ味わってもらいたい。
取材・文 / 吉田可奈
日常生活から生まれるものを大事にしたい
──シンガーソングライターになろうと思ったのは、いつ頃だったんですか?
しっかりと音楽をやろうと思ったのが、23歳のときですね。ただ、音楽を始めたきっかけは、中学の音楽の授業だったんです。当時僕が行っていた学校にはアコースティックギターの授業があったんですよ。
──それはまた、かなり珍しいですよね。
今考えると、そうなんですよね。そのおかげで僕は親にギターを買ってもらえたんです。とはいえ、そこでプロになりたいと思ったことはなかったんですよ。元々サッカーが大好きで部活ばかりやっていたし、習い事で剣道をしていたりもしていたので、自分も、周りも僕のことは体育会系だと思い込んでいたんですよね(笑)。親も僕には音楽の才能が全くないと思っていて、小さな頃に「ピアノを習いたい」と言ったらすぐにダメって言われた思い出があるんです(笑)。
──その親の目を見事、いい方向に裏切ったんですね(笑)。
いや、今でも音楽に対しての潜在能力は低いと思います。自分でも才能はないと思うんですよね。だからこそ、いろいろ吸収しなくちゃダメなタイプだと思うんですよ。
──その吸収すること、というのは?
僕の場合、曲や歌詞は日常生活で発見したこと、思ったことから生まれるんです。だからこそ、デビュー前にレコード会社の方とお会いしたときに、生意気にも「僕は音楽のことだけを考えることができない人間なので、日常生活とのバランスを大事にしたい」と断言していたんです。
──いきなり強気発言ですね(笑)。
そうですね(笑)。もちろん音楽一本が悪いというわけではないですが、僕自身は音楽だけにとらわれていると日常に転がっている感情を拾うことができないんじゃないかなって思うんですよね。聴いてくれる人は日常生活を普通に送っている人たち。ならば、その人たちの共感を得るためには僕も同じ場所にいなくちゃいけないと思っているんです。とはいえ、制作に追われているときは、その信念と自分の行動が矛盾していたりすることもあるんですけどね(笑)。
──近藤さんの楽曲は、サウンドはさまざまでありながら、歌詞は全曲リアリティのあるものだと思うんです。きっと、それはその信念が根本にあるからなんですね。
そうですね。僕自身、父が公務員、母が幼稚園の先生という家で育って、どちらかというと親からは安全な道を勧められていたし。性格上も直感で行動するということはなくて、確信が持てるまではしっかりと考えて行動するタイプなんです。だからこそ、20歳のときには普通に就職していて……。いわゆる普通の生活を送っていたんですよね。そんな生活の中だからこそ生まれた「こうしておけばよかった」「こうなりたい」という感情が歌詞になっているので、リアルに感じてもらえるのはうれしいですね。
ハナレグミのライブが心を動かした
──それにしても一度就職して安定を得たのに、なぜいきなりシンガーソングライターを目指したんですか?
いろいろ理由はあるんですが、一番大きく心が動いた理由がハナレグミさんのライブを観たことなんです。元々僕は、ないものねだりじゃないですけど、ハスキーな声質にすごく憧れを持っていたんです。バンドサウンドに埋もれない声=ハスキーボイスなんじゃないかと勝手に思ってました。僕自身、歌いたいという気持ちはあったんですが、声が細いことがコンプレックスだったので、僕の声では無理だろうと思い込んでいたんですよね。でもハナレグミさんの歌声は、キレイでとても存在感があって、心に深く入り込んできたんです。いわゆるミックスボイスという歌い方なんですけど。そこにヒントを得て、僕もアコギ1本で歌ってみようと思えたんですよね。
──自分の声を、すごく冷静に判断していたんですね。
そうですね。それからは自分の声の特徴や個性を理解して、オリジナル曲を2曲作って、過去にバイトをしていたライブハウスのエンジニアに、ビール1ケースという激安なギャランティを払ってレコーディングさせてもらったんです(笑)。それを送ったのが、今のレコード会社だったんですよね。
──すごい! 夢のある話ですね!
今考えるとすごいことだったのかなって思うんですけど、当時レコード会社から連絡をもらったときが、すごく忙しい仕事中で、あまり喜んだ覚えがないんですよ(笑)。
- 2ndシングル「テテ」 / 2012年12月5日発売 / DefSTAR Records
- 初回限定盤 / 1200円 / DFCL-1958
- 通常盤 / 1000円 / DFCL-1959
収録曲
- テテ
- かな
- テテ - tofubeats remix - (初回限定盤のみ)
近藤晃央(こんどうあきひさ)
愛知県刈谷市出身の男性シンガーソングライター。中学生時代にギターや歌を始める。ライブハウスや音楽関係の会社で働いた後、23歳のときにアーティストとしての活動を決意し退社。2009年より楽曲制作に専念し、東京や地元の愛知県を中心にストリートライブを行う。美しい歌声と優しく温かな楽曲が話題を呼び、2011年には数多くの学園祭ライブに出演。同年には自身の母校、安城学園高校の創立100年目を記念した楽曲「100年後」を制作し、同校の合唱部とともに学園祭でこの曲を披露した。2012年6月には愛知県の学生たちとコラボレーションしたフリーライブイベント「UTAPHICA」を名古屋で開催し、1200人を動員。7月には「ap bank fes’12 Fund for Japan」出演。そして9月にシングル「フルール」でメジャーデビューを果たした。またTOHOシネマズ初の試みとなる「TOHOシネマズメッセンジャー」に大抜擢され、映画館と音楽をつなぐ架け橋として期待されるなど、急激に注目を集めている。12月5日、2ndシングル「テテ」をリリースする。