小室哲哉インタビュー|西川貴教とタッグを組んだ「ガンダムSEED」主題歌を、楽曲提供者サイドから語る (2/3)

言葉がたくさん詰め込まれた今の時代の曲とは、真逆なものにしたかった

──具体的な制作は西川さんや福田己津央監督とのミーティングを経てスタートしたそうですね。

はい。その中で、力強さはもちろんですけど、決して勢いだけではなく、何かしらの深さみたいなものを感じてもらえる楽曲にしたいなと思いました。これは福田監督から直接聞いたわけではないんだけど、監督の奥様であり脚本家の両澤千晶さん(2016年に逝去)のことを知ったので、今回の「ガンダムSEED FREEDOM」がラブストーリーになるというのは、そういった部分での心情が反映したものなのかなと思ったところもあって。それで全体的なイメージを固めていった感じでした。

──楽曲はまさにそのイメージ通りの仕上がりになっています。最初にできたのはどのパートになるんですか?

西川くんの歌唱力は皆さん認めるところでもあるし、僕もなんとなくわかっていたんですけど、自分の楽曲でどのくらい表現してもらえるのかがわからない部分もあって。なので、まずテストとしてイントロの部分だけ作って、歌ってもらったんです。

──完成した楽曲の頭に付いているパートですか。

そうです。今の時代は言葉がたくさん詰め込まれた、テキスト量の膨大な曲が多いんですけど、今回はそれとは真逆なものにしたくて。一言一句の音符が長いものもあるイメージだったから、そういった表現を実現するには歌唱力にかかっているなと。西川くんはちょうどミュージカルをやっている最中ですごく多忙だったし、喉の調子もあまりよくなかったみたいなんだけど、一聴した瞬間、間違いなくプロフェッショナルだなと改めて実感して。その歌声がきっかけになって、順番通りに頭から曲ができていった流れでしたね。

──小室さんらしいデジタル要素が盛り込まれつつも、全体的な印象としては生楽器ならではの広がりのある音像になっていますよね。

深さや広がりのある世界を表現するのはなるべく人による演奏を入れたほうがいいと思ったんですよね。空間を感じさせたくない場合はすべてを打ち込みにする場合もあるんですけど、今回は真逆で。なるべく空間を感じさせる音にしたいというのは最初から狙っていたところでした。結果、僕のキーボードとコーラス、ドラム、ギターを全部人の力で録音して。さらに言えば、当たり前ですけどエンジニアの人たちも生身の人間なわけで。そういったすべての方々が、いい作品を作りたい、いい作品を残したいという強い気持ちを持って僕の意図を理解してくれたのがありがたかったですよね。そこにはもちろん西川くんの気持ちも乗っかって、「届けたい」という思いがものすごく強い曲になったと思います。

──言葉が詰まった昨今の楽曲とは真逆のアプローチを試みたのには何か理由はあったんですか?

それはもう西川くんの歌唱力に導かれたものですね。胴鳴りって言うのかな? 彼の場合は口先だけで歌うのではなく、カラダ全体が鳴るので、それを生かすには早口であったり、メロディの動きが激しいものじゃないほうがいいという判断でした。そういったアプローチは今の若い世代にはちょっとクサく感じられるかもしれないなと思ったりもしたんだけど、最初にテストで歌ってもらった段階で「絶対に大丈夫」と思わせてもらえた感じで。

──有無を言わさず、曲の世界観をまっすぐに伝えてくれる歌声ですよね。

おっしゃる通り、本当にまっすぐな歌声だし、聴き手に「ん?」と思わせない圧倒感がありますよね。それは歌詞に関してもそう。言葉の1つひとつを切り取ると意外と抽象的でありきたりなワードも多いんですけど、それでも「え?」って思わせない力が西川くんの歌にはあるんですよね。

──キー設定に関して、西川さんは「ミドルレンジを求めてくるのが小室先生らしい」とおっしゃっていました。そこにはどんな狙いがあったんですか?

あれぐらいの音域だと西川貴教にしかできない歌になるなという思いがあったんです。キーが高くてあまりにピーキーになりすぎると歌唱法が限られてきたりもするんですけど、今回のようにある程度、キー的な余裕があるといろんな歌唱法を試すこともできる。ここはガナリにしてみようとか、伸ばし方を変えてみようとか、歌唱のテクニカル的な自由度が高くなるんです。歌に関してはレコーディング中にいろいろやり取りして決めていきましたね。リリース後に公開された「THE FIRST TAKE」を観ると、音源以上に「僕いろいろできるよ」ってテクニカル的なことを表現していた印象もありますけどね。

──レコーディングを経て、さらに見えてきた表現もあるんでしょうね。

そうだと思います。音源での表現が基準となって、さらにこんなこともできるよっていう。

「この言葉をまた使ってるな」って、自分で書いてて自分でニヤリ

──歌詞に関しても聞かせてください。言葉を紡いでいく中で、小室さんなりに大事にされていたのはどんなポイントだったのでしょうか?

これまでの「ガンダムSEED」で使われていた西川くんの楽曲を聴いてみたところ、作詞はすべて井上秋緒さんという女性の方が書かれているんですよ。内容としては比較的抽象的なんだけど、でも核心を突いてくる書き方をされていて。そういった世界観が好きな人もきっと多いと思ったので、今回作詞をするにあたっては意識しないわけにはいかなかったですね。ただ、井上さんは問いかけで終わり、答えを出さない書き方をしている印象もあった。でも今回、僕は強くて深い愛がしっかり結ばれるということを書きたかったんです。5分以上ある長い曲の終わりでちゃんと終着地点に落ち着くというか。言い切ることは大事にしました。

──使われているワードも、強い意味、響きを持ったものが多いですよね。

なるべく強いものを使うようにしましたね。ちょっと強すぎるのでいくつか削ったものもあるんですけど。それでもさっきの話のように西川くんの歌唱は、どんなに強い言葉であっても聴き手が照れずに受け取れるという、すごい力を持っているので。自分としては遠慮せずに思い切り書けました。

──完全に個人的な感想ですが、TM NETOWORKのファンがニヤリとするワード、フレーズがけっこう盛り込まれる印象もあったんですよね。

うんうん。そうですね。決して意図的ではないんですけど、自分で書いてて自分でニヤリとしたというか(笑)。「あ、この言葉をまた使ってるな」という気持ちはありましたよ。まあそこに気付いた人はね、「それが小室哲哉だよね」って思ってくれればいいかなという(笑)。とは言え、僕が音楽を作る際には、音が曲を助けて、曲が歌詞を助けて、歌詞が音を助けるという三位一体を大事にしているので、バランスは大事ですけどね。小室哲哉印がすべてを覆ってしまうと、ちょっと古さを感じる人も出てきてしまう可能性もあるので、あくまでも最新の、今の曲になるようなバランスは考えています。