ナタリー PowerPush - 小南泰葉
覚悟と覚醒の1stアルバム「キメラ」
シラフの小南なんて要らない
──そして、そういった楽曲が詰め込まれたアルバムのタイトルは「キメラ」。
はい。さっきも話した“私の中のキメラ”に、自分が乗っ取られるときがあるんです。それが主にライブや曲作りのときなんですよね。普段生活していると、やっぱり抑えているのでなかなか出てこないんですよ。でもライブになると、自分自身がこのキメラをすごく求めるんです。シラフの小南なんて要らないと思うくらい。
──キメラに乗っ取られるというのは、覚醒するような感覚?
そうですね。うん。そうかも。覚醒しているのかもしれないですね。
──そのキメラとともに生み出された曲に対して、共感している人がたくさんいると思うんですよ。
私に対して、お手紙や言葉で「すごく気持ちがわかります」って言ってくれる人たちが最近たくさんいるんです。すごくありがたいんですよ。だって、私自身が私のことを嫌いだし、絶望しているし、嫌悪感しかないんです。そんな思いに共感してくれる人たちは何かに苦しんでいるし、すごくつらい状況の人が多いんです。もしそんな人たちが救いを求めて私の音楽を聴いてくれているのなら、救えなくて申し訳ないと思うことが多いんです。
──それでも共感してもらえる人がいる限り、その人たちと手をつないでいたい?
そうですね。最初はそう思ってました。でも好きになってくれるのも自由で、離れるのも自由じゃないですか。でも、いきなり背を向けて“小南、もういいや”って離れていく人を見るのが耐えられないんですよね。もちろん離れるのは自然なことだし、自由なんですけど。
──そういった葛藤があって、それが歌詞になったりもするんですよね。
その通りです。例えば私はTwitterでしんどいって言えないし、鬱な言葉は吐けない。だって人に傷付いてほしくないし、鬱な言葉は人によくない影響を与えるから。
──そういう日々の思いが発散できないからこそ、曲にそのままの気持ちが乗り移ると。
そう。朝起きて“キメラがこんなこと書いてる”って言ったって、結局は私の深層心理が生み出したもの。曲で嘘はつけないから、生々しいものしか生まれないんだと思います。
──それでも、歌い続けたい?
はい。でも小南は歌う限り、誰かを傷付けるということを覚悟しなくちゃいけない。人間の本質を書けば書くほど、それは明確になるし……。
──でも、それを聴きたいという人がいるわけだしね。
だとうれしいですね。
ブログは遺書
──それにしても、ブログには本当に楽しそうに小南さんが日々を送っている様子が描かれていて驚いたんですよ。
あはは(笑)。バカでしょ?
──曲とのギャップがすごくて(笑)。
これは、あえて心がけてバカなことばかり書いているんです。ブログは私の遺書だと思っているんですよ。
──遺書!?
はい。もし私が事故にあったり、天災などで死んだら、まず最初に見られるのがブログだと思っていて。そこでバカな記事ばかりだったら面白いじゃないですか。
──また、極端ですね(笑)。
でしょ(笑)。基本的にはアホなことが大好きなんですよ。最近も、パリに世界一おいしいうどん屋があるって聞いて、意を決して行ってみたんですよ。
──パリまで!?
はい。だって、世界一おいしいんですよ!? 実際に行ったらもう閉店していて。ビックリするくらいガッカリですよ(笑)。でも、このガッカリがまた面白くて。基本的に、ちょっとガッカリするくらいのものが大好きなんです。
──あはは(笑)。すごいお金かけて行って、閉店はないですよね。
そうなんですよ! もうすごいガッカリ。でも、そこでヘタに美味しいうどん食べてもあまり面白くないからいいかなって(笑)。
──すごい発想の転換! そういう考え方、すごくいいですね。
そう思うだけで毎日ガッカリすることを見つけられるので面白いですよ(笑)。
──さてこのアルバムをリリースして、全国ツアーが始まりますが、今回はどんな仕掛けを用意するんですか?
実はまだ何も考えていないんです。でもやってみたいのが、会場で飛ぶこと! あとは、舞台からジャンプして出てくるポップアップ! それにゴンドラに乗りたい!
──ツアーって、ライブハウスでやるんですよね……?
できる限りのことはしてみたいんですよー。スタッフをなんとか言いくるめてできる限り実現したいと思っています(笑)。
──楽しみにしていますね(笑)。
はい! なんとか交渉してみます!
収録曲
- 嘘憑きとサルヴァドール
- 「善悪の彼岸」
- やさしい嘘
- Trash
- パロディス
- コウモリの歌
- Drink me
- パンを齧った美少女
- 世界同時多発ラブ仮病捏造バラード不法投棄(キメラver.)
- 怪物の唄
ボーナス・トラック
- 藁人形売りの少女
- Soupy World
小南泰葉(こみなみやすは)
関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。同年6月に行った東阪名での初ワンマンツアーは、全公演完売と注目度の高さを伺わせる。9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月には2012年2作目となるミニアルバム「121212」を発表した。2013年5月にはメジャー1stアルバム「キメラ」を発表。自身が切り絵をまとう衝撃的なアートワークでも話題を呼んだ。