ナタリー PowerPush - 小南泰葉
初めて人に捧げた「12月12日」秘話
愛と憎、生と死といったシビアな現実から目をそらすことなく、独特の言葉で歌詞を紡ぐ小南泰葉。メジャー2枚目となるミニアルバム「121212」は、2年前に作られライブで歌い続けてきた「12月12日」を中心とした、本人曰く「最高傑作」の1枚だ。
本作には、旧知の仲であるレーベルメイトの蜜とのコラボや、黒夢の人時(B)が参加した楽曲、さらにART-SCHOOLの戸高賢史(G)をアレンジャーとして迎えた曲なども収録。聴き通すには体力を要する濃密な1枚となっている。各曲のエピソードをコロコロと表情を変えながら話してくれた彼女。その言葉の数々を通して、より深く小南泰葉のことがわかることだろう。
取材・文 / 吉田可奈 撮影 / 福本和洋
彼のことを忘れないでいよう
──タイトルの「121212」は、2012年12月12日を意味してるんですよね?
そうですね。2年前に「12月12日」という曲ができたんですが、2012年12月12日にリリースしたいという思いがそのときからあったんです。
──この曲はアルバムの最後に収録されていますが、歌詞がほかの曲に比べて類がないくらいストレートで、聴いてて気持ちがこみ上げてきました。
実はこの曲を作ったときのことはあまり覚えていないんですよね。普段曲を作るときのエピソードは鮮明に覚えているんですけど。それくらい夢中になって書いていたんだと思うんです。
──歌詞にはある人を失った思いが繊細に描かれていますね。
ええ。人が亡くなると周りの人は最初は悲しんでも、少しずつ忘れていくんですよね。それと同時にその人の誕生日もどんどん忘れてしまうんです。それがすごく悲しいことだなって思ったんですよね。「12月12日」の中で歌ってる男の子の誕生日が12月12日で、死んでしまったのがその数日前だったんです。だから誕生日を覚えていることで、彼のことを忘れないでいようと思ってこのタイトルにしたんです。
──なるほど。
最初は気持ちがあふれるままに言葉をつづっていたので、この曲が誰かを傷付けるなんて思ってもいなかったんです。でも曲が完成してライブで披露したときに、この彼の遺族を苦しめてしまうことに気付いて……。
──確かに鎮めるような歌とは違って彼の本質を描いたような、ある種遠慮のない歌詞ですもんね。
彼は生前、歌詞のとおり嘘をついていたし周りから非難を浴びることもあったと思う。彼は何度も何度も更生を試みてたんですが、結局することができなかったんです。その結果、自分を亡くすことでリセットしたんだと私は思ってて。でも家族にとってはもちろんそうではなくて。だから私の歌が彼らを傷付けてしまったし、考え方の相違が距離を生んでしまったんです。でも私は彼がいなくなることで、生前に彼を良く思っていなかった人の心がリセットされる瞬間を見た気がして。それと同じように人間はどんな思いも忘れていくんだな、って実感していたんです。
──この曲を書いたことが、小南さんにとっての彼に対する“誠意”だったと。
はい。だから曲を作って2年経った今、改めて家族の方と話をして彼に対する気持ちや、忘れたくないからこそ曲にしたんだという思いを伝えたんです。そしたらお互いの誤解も解けて、リリースについても了承をいただいたんです。本当はCDのブックレットの最後のSpecial Thanksの欄に彼の名前を入れたかったんですけど、それは叶わなくて代わりにイニシャルである「U」を入れさせてもらったんです。「U」であれば、彼でもあり、聴いてくれた人に対する「You」という意味にもできる。彼のイニシャルがUでよかったなって思っているんです。
ここまでストレートなのは珍しい
──ところでこれまで発表されてきた小南さんの曲って、特定の誰かのために書いたものってないですよね。
そうなんですよ。「12月12日」が初めてだったんです。あと普段は「タイアップが付くかな」「会社が喜ぶかな」とか思いながら曲を作っているので、ここまでストレートな気持ちがあふれてる曲は珍しいんです。
──小南さんでも、タイアップや会社のことを気にするんですね(笑)。
しますよ! だって売れなくちゃ意味がないですから。売れないと、自分が伝えたいことをいろんな人に伝えられないし、伝え続けることができないから。忌み嫌われる言葉ばかり並べていても、それは自慰行為でしかないですからね。
──確かに。この曲の歌声は、男の子に対するあふれるような気持ちがすごく伝わってきます。声が泣いているというか……。
でしょ! 私もこの声はいいと思ったんですよ。歌い始めた瞬間にこれはすごいテイクになると思って、今までにないくらい魂が入ったんです。
──「121212」の収録曲はどれもサウンドがゴージャスでドラマチックで、だからシンプルな構成の「12月12日」が異彩を放っていて。
私もすごく気に入ってて、よく聴いてるんです。音はピアノとチェロという構成なんですが、このチェロがまた素晴らしいんですよ。私がこの曲への思いを伝えたら、チェロを担当した結城さんという方が「僕はこの1小節に魂を込めます」と言って素晴らしい演奏をしてくださったんです。それですごく強い曲になったなと思ってます。もちろんほかの収録曲も強いんですけど。
収録曲
- 視聴覚教室
- お蜜会 / 小南泰葉“秘蜜の花薗”蜜
- 「善悪の彼岸」
- 絶望に棲むキダルト達へ
- 12月12日
LIVE TOUR2013 “コペルニクス的転回”
2013年2月10日(日)
大阪府 心斎橋JANUS
OPEN 17:30 / START 18:00
2013年2月12日(火)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 18:30 / START 19:00
2013年2月16日(土)
東京都 新宿LOFT
OPEN 17:15 / START 18:00
小南泰葉(こみなみやすは)
関西出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開する。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある歌詞とポップなサウンドで注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。同年6月に行った東阪名での初ワンマンツアーは、全公演完売と注目度の高さを伺わせる。9月に映画「アシュラ」の主題歌「Trash」をメジャー1stシングルとしてリリースし、12月には2012年2作目となるミニアルバム「121212」を発表した。