ナタリー PowerPush - 小南泰葉
「私にとって毒は薬」個性派新鋭が明かす半生
思い描いていた以上に素晴らしいアレンジ
──さて、デビューミニアルバム「嘘憑キズム」に収録される楽曲は、西川進さんやハジメタルさん、森俊之さんや羽毛田丈史さんなどによるアレンジが施されていますが、自分の曲が彼らによって変化していくことをどう感じましたか?
素晴らしいですよね、本当に。最初にレコーディングしたのが「藁人形売りの少女」だったんですが、森俊之さんが私の思い描く倍以上に素晴らしく編曲してくださったんです。
──どんなふうに作業は進んでいったんですか?
私にとってこの曲はとても大切な曲なので、自分のイメージどおりに編曲をしてもらいたいという気持ちがあったんですよね。なので最初にこの曲に込めた色や風景、物語など全てを伝えたんです。それをそのまま、いや、それ以上にきれいに形にしてくださったのでとにかく感動しました。
──ドラマティックで、かわいらしくて、とても印象的でした。
ストリングスがまたいいんですよ! 一度聴いただけで映画1本を観終えたような感覚になれる曲になってるんです。何度も聴いてもらいたいですね!
わら人形作り後任募集中
──「藁人形売りの少女」って泰葉さん自身のことですよね。ライブ会場ではリアルにわら人形を売ってるとか。
はい。1000体作ったら終わりにしようと思って始めて、今850体ほど作り終えました。
──物販でわら人形が置いてあるとすごいインパクトありますよね。
最初はホントに気味悪がられて(笑)、全く売れなかったんですよ。シュシュでかわいく飾り付けしてあるのにどうしてかなあって不思議だったんですよね。
──いやあ、なかなかわら人形を目にする機会ってないですからね(笑)。
私としては、その人に降りかかる不幸をこのわら人形が受け止めてくれたら、って思いで作っているんですよ。
──そうなんですか。昔は他人との接触を避けていたのに、人を思えるようになるってすごい進化ですよね。
そうかもしれないですね。今は作ることが楽しくなっちゃって、あと150体作り終えたら、何をしていいかわからないんじゃないかって思うんです。マネージャーにそれを言ったら「君は音楽を作って歌いなさい」って言われちゃって(笑)。本業をすっかり忘れるくらいわら人形にハマってるんです。
──シュシュを飾り付けるのも楽しそうですもんね。
そうなんですよ! わら人形に着せ替えしながら、「女子ってやっぱり着せ替え人形が好きなんやな」って思ったり。
嘘をつかない人はいない
──さてデビュー作は「嘘憑キズム」というタイトルがとても印象的ですが、このタイトルの意味は?
訳すと「嘘つき主義」という意味なんです。小南泰葉は今まで、ちょっとのことで人生をリセットして、というのを続けてきた結果、嘘をつき続けて生きてきて。人を傷つけたくないとか、傷つきたくないという理由で急に蒸発したり、爆発したりということを続けてきたんです。そんな私がやっと音楽という居場所を見つけて作ったアルバムだからこそ、自分らしくありたいと思ったんですよね。自分を肯定するため、嘘つきを肯定するために「私は嘘つきでした、そしてこれからも」という意味を込めてこのタイトルにしました。
──これからも?
みんなもそうだと思うんですよ。嘘をつかない人っていないと思うんです。
──そんなアルバムを象徴するリード曲「嘘憑きとサルヴァドール」のPVは、すごい破壊力のある作品ですね。
すごいです、これは。55人のエキストラさんに出演してもらったんですが、とにかく非人道的な現場で(笑)。私もSなんですが、監督さんはドSで。観ていただくとわかるんですが、皆さん口と目しか映っていないんですよ。しかも拘束時間も長くて、顔を真っ黒にされて番号で呼ばれて……。さらに口パクのシーンなのでみんな来た瞬間に歌をしっかり覚えさせられて、1日中歌わされていたんですよ。カンペもなくて、暑いし狭いしつらいし、もう現場で泣けましたね、エキストラさんのその苦労の賜物が映像になっているので、ぜひ観てもらいたいです。
──では、最後にナタリー読者にメッセージをお願いします。
皆さん、日々小さな嘘をついていると思うんですが、それはそれでいいと思うんですよね。そしてその嘘が重なってどうしようもなくなったら、節度さえ持っていれば爆発してもいいと思うんです。私自身「人は人生で3回は他人に大きな迷惑をかけていい」と思っていて(笑)。爆発しないまま、どこかで諦めている人生って、自分を殺すだけ。そうじゃなくて、自分が誰かに迷惑をかけてでも、何か突拍子もないことをしてみることも面白いと思うんです。まぁ、4度目に人に迷惑をかけたら、世間からダメ人間をレッテルを貼られるので、それはやめたほうがいいと思うんですけど(笑)。
小南泰葉(こみなみやすは)
神戸出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断する。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある刺激的な歌詞とポップなサウンドが注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演を果たしたほか、東京と大阪で初のワンマンライブを行い成功を収める。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。