ナタリー PowerPush - 小南泰葉
「私にとって毒は薬」個性派新鋭が明かす半生
再び音楽に向かわせてくれた「サヨナラCOLOR」
──ちなみにその5年間はどうやって過ごしていたんですか?
まず、音楽を一切聴きたくなくなったんです。テレビもラジオも遮断して。日本語も聞きたくなかったんですよね。入ってくる言葉がすべて嫌だったんです。そうなってくると自然と引きこもりになっちゃって……。でも、あるときディスカバリーチャンネル(※世界最大のドキュメンタリーチャンネル)で、人間がジンベイザメとオーストラリアで泳いでいる映像が流れていたんですよ。それを観たらすごく興奮しちゃって、私も泳いでみたい!って思ったんです。そう思ってからは早かったですね。すぐにビザを取って、ワーキングホリデーでオーストラリアに向かったんです。
──その行動力はすごいですね!
ね(笑)。引きこもりって、それまで内に溜めている力がすごいから、その反動がすごいんですよ。引きこもりの行動力は、普通の人の行動力の倍あると実感しました(笑)。で、オーストラリアの生活はすごく楽しくて、働きながらフェスに行ったり、念願のジンベイザメと泳ぐこともできたんです。これで新しい人生を始められるかな、って思った矢先に、日本から私の友達の親子が不幸な死に方をしたというニュースが届いたんですよ。その友達が生きにくそうにしていたのは知っていたし、悩んでいたのも知っていたけど、私自身も当時は引きこもりで彼女を助けることができなくて……。そこに責任を感じて失意とやりきれなさでどうしたらいいのかわからない状態が続いたんですよね。私はオーストラリアに行くことで新しい自分を見つけて、どうにか生きる術を身につけられたけど、もしあのときジンベイザメの映像に出会わなかったら彼女と同じ立場になっていたかもしれないという思いがより私を怖くさせて、一時期眠れない時期が続いたんです。
──それはつらかったですね。
当時は本当につらくて。そんな私を見て、昔音楽を一緒にやっていた人が、SUPER BUTTER DOGの「サヨナラCOLOR」を聴いてみたらって教えてくれたんです。それまでは音楽も日本語も避けてたから怖かったんですけど、「さよならから始まることがたくさんあるんだよ」「本当のことは見えてるんだろう」という歌詞に心を突かれたんです。
──「サヨナラCOLOR」と出会って、改めて音楽と日本語の持つ力に触れたんですね。
はい。でも一度手放した音楽を再開するのは、本当に勇気がいることで。そんなときに「サヨナラCOLOR」の歌詞が、単純だけどすごく響いたんです。
音楽は自分を救うために作ってる
──そんな気持ちを抱えて再開した音楽活動は楽しめましたか?
それが実は音楽をやっていて楽しいと思ったことがないんです。25歳のときに音楽を再開した理由は、泥沼に首まで浸かった私を救うため。だからこそ、恋の歌とか歌えないんですよね。どんなに歌詞を吐き出しても、本当に自分の中にあるSOSしか生まれてこないんです。
──書こうとしたことはあるんですか?
あるんですけど、すごく嘘くさくて。私が歌ってる曲って1曲に1人、人が死んでいるんですよ。それなのに私の曲に共感してくれる人がいることが不思議で。
──でも、うれしかった?
そうですね。ただ私からしたら感情をさらけ出しているだけなんですよ。自分の見たくない感情とか、言いたくないこととか。自分の頭の中を見せるのはとても恥ずかしいこと。ディレクターに曲を送るときは常に「ケツの穴を見せている感じだ」って言ってるんですけど(笑)。
──そうやって曲に自分の感情を吐き出すことって、泰葉さんにとっては必要不可欠なことなんですよね?
はい。私にとっては曲を作るのはストレス発散、というよりは救い。生きていく上で命をつないでいく方法なんだと思うんです。
私にとって毒は薬
──小南さんの曲は、とにかく言葉選びが個性的ですよね。「嘘憑きとサルヴァドール」や「勧毒懲悪」など、意識してこの言葉を選んでいるんですか?
いえ、言葉を意識したことは全然ないんです。元々私はメロディ第一なんですよね。なので曲を作るときはメロディとコード、そして歌詞を同時に作っていくんです。こういう曲を作りたい、とか、こういう歌詞を綴ろうっていうふうに作っていないので、私自身もどんな曲ができるか完成するまでわからないんですよ。
──そのときの感情に従ってできていくものなんですね。
そうなんです。だからこそ曲が出来上がった瞬間に「ほう」って思うんです(笑)。私は、こういうことを言いたかったのかって。勢いに任せて作ってるので、制作期間はすごく短いんですよ。
──何かに乗り移られているのかもしれないですね(笑)。
まさにそんな感じかも。曲作りのモードに入ったときは、残虐な動画や写真をたくさん見るんですよ。そうやってこの世界の失望ややりきれなさでいっぱいにして脳を沸騰させて興奮状態で曲を作るんです。だからこそ、言葉も過激で「規制はされないかな?」って思うような曲が出てくることもあるんです。
──幸せな映像を観ても曲は浮かばない?
そんなことはないんですけど、幸せな映像の中にある毒を探してしまうんですよね。
──毒は必要不可欠?
はい。私にとって毒は薬だと思っているんです。少し前に駅前とか街中で「フリーハグ」って流行りましたよね。ああいう人たちを観て幸せを感じる人もいると思うんですけど、私には何も響いてこなくて。その瞬間に「私はそういうもので感動するようにできていないんだ」と思って(笑)。それからは開き直って毒一筋で曲をつくるようになりました。
──その毒のある曲を求めている人がいる現状をどう思いますか?
奇跡。本当に、奇跡だと思っています。こうやって取材を受けていることも不思議だし、自分を救うための音楽をほかの人に聴いてもらえることが奇跡だなって思うんですよね。
小南泰葉(こみなみやすは)
神戸出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断する。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある刺激的な歌詞とポップなサウンドが注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演を果たしたほか、東京と大阪で初のワンマンライブを行い成功を収める。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。