ナタリー PowerPush - 小南泰葉
「私にとって毒は薬」個性派新鋭が明かす半生
直情的かつ衝撃的な楽曲と、規制ギリギリの言葉が並ぶ言葉遊びのような歌詞が聴き手に強いインパクトを与える小南泰葉。心の闇をさらけ出し、わら人形を物販で売る、個性派女性シンガーソングライターの出現にゾクゾクする人も多いはずだ。そんな彼女が、ついにメジャーデビューミニアルバム「嘘憑キズム」を完成させた。
印象的な楽曲を生み出す彼女が一体どんな人物なのか直接会いに行ってみると、そこにいたのはしっかりと相手の目を見て、自分の思った言葉を滑らかに話す美しい女性。彼女がこのような楽曲をどうやって作ってきたのか、そして今までどう過ごしてきたのか。インタビューでその素顔に迫った。
取材・文 / 吉田可奈 撮影 / 佐藤類
共鳴してくれる人がいるのが不思議
──デビュー前からYouTubeなどで話題を集めていらっしゃいましたよね。その反響をどう受け止めていましたか?
元々人の声や目、さらに意見がすごく苦手なんです。ただ、音楽活動をしていく上でいろんなことを言われる覚悟をしていたんですよね。
──肯定的な意見も多いと思うんですが?
肯定的、というか共鳴してくれた方が多かったようで、最近はいろんなお手紙をもらうようになったんです。
──共鳴ですか?
はい。私自身、心の中にあるつらいことや闇の部分を歌にしてきたので、はっきり言って自分のためだけの歌なんですよね。でも、そんな歌でも共鳴してくれる人がいるようで、「今までは引きこもりだったけど、小南の音楽を聞いてコンビニまで行くことができました」というような生々しい手紙をもらうことが増えたんですよ。もちろん、歌のこういう部分が良いとか、コードの展開が良いとか楽曲について褒めてくださる人もいるんですが、それよりもこういった人間らしい手紙のほうにハッとさせられるんですよね。
──自分の音楽が誰かの助けになっているというのが、不思議だと。
そうなんですよね。音楽は自分への癒しであり、自分の心の発散物だったりするので、誰かほかの人に対して影響を与えている、という今の状況がすごく不思議なんです。
登下校のBGMは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のサントラ
──小さな頃から音楽は好きだったんですか?
音楽を意識してやり始めたのが中学の頃なんです。父が持っていたアコースティックギターを弾くようになったのが最初ですね。当時は父が好きだった吉田拓郎さんの曲を弾いて遊んでいたのを覚えています。
──その頃から曲も作っていたんですか?
いや、当時は自分に曲を作る才能なんてないと思っていたので、作ってませんでしたね。でも音楽を聴くのは大好きで、中学の登下校はジャニス・ジョップリンと映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のサウンドトラックを聴いていました。
──それはまた暗い登下校ですね。
そうなんですよ(笑)。朝一番でビョークの歌声を聴いて気持ちが落ちて、帰る頃にもまたその歌声を聴いて落ち込んで、というのを繰り返してました(笑)。それほど「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の影響が大きかったんですよね。
──映画の内容は救いのないものですよね。
壮絶ですよね。映画としては、落として落として、最後に光が見える、という手法が120点満点の仕上がりなのに、この映画は落として落としてさらに突き落とすという内容。当時の私には衝撃的でしたね。でも、その落ちっぷりが激しすぎて、ちょっとしたことがうれしく感じるようになったり、よりうれしいことを100倍にして感じようと思えるようになったんですよ。
──ポジティブのような、ネガティブのような……。
まあ、ネガティブですよね(笑)。
嫌になったらすぐに放棄する生き方だった
──自分で曲を作り始めたのはいつ頃ですか?
大学生になってから、軽音楽部に入ったんです。その頃演奏していたのは、自分の心にも記憶にも残らないしょうもない音楽で。今聴くと本当に恥ずかしいんですよ。ただ英語に憧れて、教科書の英文をそのままメロディに乗せて歌ったり。当時は歌にメッセージを乗せるという感覚さえなくて。すごく適当な音楽活動でしたね。
──そしてプロフィールには20歳から突然音楽活動を休止する、と書いてありますが……。
ある日突然、人生をやり直そうと思ったんです。突然、小南泰葉という名前を捨てたくなったんですよね。家族も友達もいらない。携帯を折って出ていったら、新しい人生を送れると思ったんです。
──そこまで衝動に駆られるってそうそうないと思うんですが。
そうですよね。でも、私の性格として突然「○○がしたい!」って思ったらすぐに始めてしまうんです。そういう行動力はあるんですよね。で、ある日、人生をやり直したい、って思ったんです。そうすれば自分の嫌な部分を全部捨てられると思ったんですよ。簡単に言えば、嫌になったらすぐに放棄する。そんな生き方をずっとしてきたんです。
──それは今も?
20歳から5年間音楽を中断していて、もう一度始めようと思ったときに、すごく体力と精神力が必要だったんです。だって音楽を改めてやるということは、音楽を辞めたときの自分を全否定することだし、すごく恥ずべきことだと思ったんですよね。だからこそ、勇気も必要だったんです。その全部を振り絞ってやり始めたからこそ、死ぬまで貫き通さなくちゃいけないなって思ったんです。
小南泰葉(こみなみやすは)
神戸出身の女性シンガーソングライター。10代から音楽活動を始めるも、20歳になったときに活動を中断する。その後、約5年にわたり音楽から離れていたが、2008年より活動を再開。2010年6月に1stミニアルバム「UNHAPPY BIRTHDAY」をリリースし、毒のある刺激的な歌詞とポップなサウンドが注目を集める。2011年には「FUJI ROCK FESTIVAL'11」に初出演を果たしたほか、東京と大阪で初のワンマンライブを行い成功を収める。2012年5月にミニアルバム「嘘憑キズム」でメジャーデビュー。