ナタリー PowerPush - 小松未可子

今、身に付けたい音と言葉の宝箱

「カッスカスになっちゃいました(笑)」

──Pandaゾーンを抜けるとライブ会場限定盤にしてナカムラヒロシ(i-dep)さんとの初共作曲「ABC」と、ルーズな感じのギターロック「Material」を経由して、小松さん作編曲の「エメラルドの丘を越えて」へと続きます。リリースする作品で作曲、編曲するのは初めてですよね。

初めてです。で、今また新しい曲を書こうとしているんですが、なんにも出てこなくて……。「エメラルドの丘を越えて」を書いてカッスカスになってしまいました(笑)。

──そうやって全力投球したからなんでしょうけど、正直な話、デビュー作でこのレベルかってビックリしました。A、B、サビっていういわゆるJ-POP的な構成ではない。モータウンビートに乗ってAメロがだんだん変化していって、スッとサビにつながる。どちらかというと洋楽っぽいマナーに則った曲ですよね。やっぱり作曲って時間かかりました?

小松未可子

鼻歌ベースのメロディ自体は1日くらいでできたんですけど、そこから曲をどういう設計にしようかと考えるのに時間がかかりましたね。音楽制作ソフトを触りながら「楽器はこういう構成にして」とか「コーラスやハモはこういうふうに乗せよう」ということをずっと考えてました。いわゆる音楽の世界の一般常識がわからないので、とにかく自分の思うままに、できることをやってみようと。

──小松さんの思うままの楽曲って?

楽器についてはなるべくシンプルにしようと思っていました。ただ自分の力だけでは限界があったので、いろいろなアイデアを思い付いては(共同編曲家の)SiNさんのところに持っていって、これはありかなしかジャッジしていただいていました。11月の誕生日ライブで初披露する予定だったので、そうやって何カ月もかけて作って去年の夏頃にひとまず完成させましたね。

──その誕生日ライブのお客さんの反応っていかがでした?

「いい曲ですね」という感想は本当にたくさんいただいたんですが、11月のときにお聴かせしたのと、アルバム収録バージョンではまた少しアレンジが違うので、どういうふうに聴いてもらえるんだろうか?という楽しみと不安はあります。

──ライブのときと同じく好意的に受け入れられると思いますよ。なので、いずれアルバム全曲書きましょうよ。

すごく時間がかかりますよ(笑)。今、本当にカッスカスですから(笑)。だから(坂本)真綾さんが全曲作詞作曲をなさってる「シンガーソングライター」って本当にすごいと思っていて。初めて聴いたときにもすごいシビれてしまいました。

"エメラルドの丘"の上で自由について考える

──ただ坂本さんも以前ボヤいてましたよ(参照:坂本真綾「シンガーソングライター」インタビュー)。"作曲家坂本真綾"に向かって"シンガー坂本真綾"がさも当然のことのように「あっ、大サビがほしいです」って、それまで作っていた曲の構成すらも変えちゃうようなワガママを言い出すから。「今さら何を言ってんだ!」って(笑)。

あはははは(笑)。すごくわかります。あと逆もあるんですよ。自分で自分を苦しめるようなメロディを書いているなあということが。この曲も「私、こういうメロディ好きだなあ」と思いながら書いていたんですが、すごく歌うのが大変で。「なんだよ、これ! キー高いなあ」って(笑)。

──でもキーは下げなかった。

このキーじゃないと曲を書いていたときの自分の気持ちが声に乗らないという思いがありましたから。……でも、本当にレコーディングは時間がかかりましたね。「ちょっと待って!チェックします!」と言って、プレイバックを何度も聴き直したり。結局12テイクくらいレコーディングした気がします。

──それは歌うのが大変な曲だったから?

というよりは作曲家、編曲家として「こういう曲にしたい」っていうライン、基準みたいなものがあったので。

──"作曲家小松未可子"が"シンガー小松未可子"にダメ出ししている感じ?

そうなんです。自分で監督している映画やアニメに自分が役者として出ている感じでした。こういう曲の作り方をすると自由になれると思ってたんですけど……。

──そうですよね。自分が歌いたい曲を自分で書いて歌うわけだから。

でも自由って際限がなくなるということでもあるんですよね。体力的な限界やノドの限界や気持ちの限界を考えなければ、どこまでも自由でいられるのかもしれないんですが、当然そんなわけにはいかないので。本当に自由になるためには時間や体力が無限であることが必要になることと、制限のある中で自由に振る舞うことの大変さに気付かされました(笑)。

──甘やかしという意味ではなく、自分で自分にOKを出してやるのってホントに大変なことですしね。

それも身に染みました……。体力的にキツくなっていても「いや冗談じゃない!」って(笑)。妥協したくない自分がいましたから。

ニューアルバム「e'tuis」 / 2014年5月14日発売 / スターチャイルド
初回限定盤 [CD+DVD] 3394円 / KICS-93051
通常盤 [CD] 3085円 / KICS-3051
CD収録曲
  1. Sky message
    [作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:nishi-ken]
  2. Re:ing
    [作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:Junichi Hoshino]
  3. 天使がいない日
    [作詞:只野菜摘 / 作曲・編曲:楊慶豪]
  4. Sail away
    [作詞:atsuko / 作曲:atsuko・KATSU / 編曲:KATSU・松本祥平]
  5. 初恋
    [作詞:白倉由美 / 作曲・編曲:SiN]
  6. 僕ら
    [作詞:James Panda Jr.・TB226 / 作曲:James Panda Jr. / 編曲:矢野博康]
  7. PandA
    [作詞:小松未可子 / 作曲:James Panda Jr. / 編曲:James Panda Jr.]
  8. ABC
    [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
  9. Material
    [作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:Junichi Hoshino]
  10. エメラルドの丘を越えて
    [作詞・作曲:小松未可子 / 編曲:小松未可子・SiN]
  11. 終わらないメロディーを歌いだしました。
    [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
  12. in the suite
    • endless night
      [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
    • walking in the dark
      [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
    • 怪獣
      [作詞:カワムラユキ / 作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
    • I see world
      [作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ(i-dep)]
初回限定盤DVD収録内容
  • 「ABC」MUSIC CLIP
  • ハピこしライブ!~小松未可子生誕イベント2013~ダイジェスト
  • 「虹の約束」リリースイベント@東京スカイツリータウン
小松未可子(コマツミカコ)

1988年11月11日、三重県生まれの声優、歌手。女優として活動する傍ら、2010年にアニメ「HEROMAN」の主人公ジョセフ・カーター・ジョーンズ役で声優としてのキャリアをスタート。2012年1月より放送のアニメ「モーレツ宇宙海賊」では主人公・加藤茉莉香の声を務め、4月には同アニメのイメージソング「Black Holy」で個人名義による歌手デビューを果たす。7月にはミニアルバム「cosmic EXPO」、11月7日に2ndシングル「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」を、2013年2月13日には1stフルアルバム「THEE Futures」をリリース。同7月には3rdシングル「終わらないメロディーを歌いだしました。」を、12月には4thシングル「虹の約束」を発表する。またその一方で2012年、2013年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでの「Animelo Summer Live」に、2014年1月には東京・日本武道館での「リスアニ! LIVE 4 SUNDAY STAGE」に出演するなど、大規模フェスにも数多く招聘される。そして同年2月、自身が主演を務める劇場アニメ「モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE -亜空の深淵」のイメージソング「Sail away」をリリース。同5月には2ndフルアルバム「e'tuis」を発表した。