音楽ナタリー Power Push - kōkua
10年の時を経て結実した プロフェッショナル5人の「Progress」
武部聡志は猛獣使い
──ちなみにスガさんから見て、改めて今回ご一緒してみた武部さんの印象は?
スガ それはもう“猛獣使い”の一言です。
──端的だなあ(笑)。
スガ もう技の数が違うんだもん。たぶん俺が経験したことがないような修羅場をいっぱいくぐってきたんだなあって。例えばスタジオで何か不測の事態が起きて、みんなが「どうしよう!」みたくなっても、武部さんだけは「まあよくあるから」って(笑)。あの、俺ね今回、全曲レコーディングを終えた最終日の、しかも夜中に「どうしてもあと1曲やりたい!」って言い出しちゃって……。
──どの曲ですか?
スガ 「kōkua's talk2」という曲なんだけど、もうみんなクタクタで「そんなの今から無理だよ」「できっこないって」みたいな空気だったの。でも武部さんが「じゃあ何時までやってみてダメだったらやめればいいじゃん?」なんて言いながらあれよあれよとみんなを丸め込んでくれて(笑)。しかも2テイクかそこらで仕上がっちゃった。
武部 そういうときの集中力や気合いを切り取るのも僕の通常業務だから(笑)。でもミュージシャンって不思議なもので、それをスタッフか誰かに言われても、たぶんまず納得しない。一緒に演奏して、作っているプレイヤーでもある僕が言うから、仕方なく聞く耳を持ってくれたわけで。
スガ それはありますね。しかも武部さん、自分のプレイを絶対録り直さないんですよ。
──それはkōkuaに限ったことではなく?
武部 いつもそう。いや、適当なだけですよ(笑)。細かく詰めるよりもその場の空気を捉えるのが僕のやり方でもあるし、昔はデジタルじゃないから直しがきかなかったから(笑)。不遜に聞こえたら困るけど、豪太もネギ坊もオグちゃんも、もちろん僕にしても、別に楽器のテクニカルなうまさでメシを食っている人じゃないと僕は思っているから。
──それは武部さんクラスじゃなきゃ言えないセリフな気がしますが……。
武部 だって僕よりピアノが上手な人なんて山ほどいるもん(笑)。でもそれだけじゃない音楽へのアプローチの仕方を、僕にせよみんなにせよ持っているわけで。自分にしか思い付かないフレーズや、1音1音への向き合い方を含めた人間性込みでのミュージシャンだから。実際、今回はそういう人たちが集まって鳴らしたアルバムにちゃんとなったんじゃないかな。
──なるほど。では逆に武部さんから見た今回のスガさんは?
武部 さっきも話した通り、歌の力がこの10年で格段によくなったことも確かなんだけど、やっぱり歌詞に尽きる。ましてや自分の曲ではなく、他人の書いた曲がどんな歌詞を呼んでいるのかを的確に察知してフォーカスを合わせてくるんだから。お世辞ではなく「スガシカオ、恐るべし」と思いましたね。
スガ 作詞は調子よかったんですよ(笑)。「THE LAST」完成の直後だったこともあって、よくも悪くも自分のことで切り売りできるネタは尽きていたし。だからメンバーの書いてきた曲やみんなのパーソナリティをスムーズに吸収できたんですよ。
バンドでやったほうが絶対にキマるんです
──曲の話に戻りますが、「BEATOPIA」は武部さん作曲のインストゥルメンタルです。
武部 これはブリッジ的なものというか、箸休め的な曲を作ろうと思って。
──この曲と小倉さん作詞作曲ボーカルの「道程」は、ライブで映えそうな曲ですね。
スガ うん、絶対に映えると思う。俺、「道程」では“コーラス人形”に徹して、音の長さまでオグちゃんのデモを完コピしました(笑)。
武部 ストーンズ(The Rolling Stones)のライブでキース(・リチャーズ)が歌うコーナーみたいに、「道程」では少しスガくんに休んでもらおうかと(笑)。
スガ スタジオで「ライブではここでスガくんが裏で着替えてくるから」とか言われたけど、着替えませんからね(笑)。
──「1995」は屋敷さんの曲で、これはタイトル通り1995年の情景を歌った1曲です。ちなみにこの年は、数えでスガさんが29歳、屋敷さんが33歳、武部さんが38歳でした。
スガ たぶんみんなすごく元気で、いろいろあった時期かなと思って。パッと95年をピックアップしてみました。
武部 恐れるものが何もなかった頃だね(笑)。
スガ CDは今よりクッソほど売れていたしね(笑)。豪太さんはSimply Redのワールドツアーで世界を回っていた頃かな。僕らにとってもう2度と見ることのできない、過ぎ去りし日々の景色です。
──「Blue」は、さわやかで疾走感のある曲ですね。
武部 これもスガくんは「ソロでは絶対にやらない曲」って言い切ってたね。
スガ 昔はやってたんですけどね。でも本当は大好きなタイプ。アルバムを作ることが決まって最初に書き上げた。こういう曲はどんどん書ける(笑)。最近の俺のソロはデジタルの匂いが半分するけど、こういう曲はデジタルの匂いがあるとあまりよくない。生音でやったほうが絶対にキマるんですよ。
──「Stars」は、屋敷さんが所属していたSimply Redによる91年のヒット曲に、スガさんがオリジナルの日本語詞を当てたカバーですね。
武部 洋楽と邦楽から各1曲ずつカバーをやろうということになって、せっかく豪太がいるんだし、みんなSimply Redを聴いていたので選びました。「せっかくならただのカバーじゃなく、ボーカルのミック・ハックネルが聴いて喜ぶサウンドにしようよ」と、豪太が直接ミックに連絡して日本語詞を付ける許諾を取り付けてくれたんです。このスガくんの日本語詞は素晴らしいと思うよ。
スガ 本当に? でもこれは難しかった。原曲はかなり同じことを繰り返し歌ってて、洋楽というか英語ってワンテーマでもこの長さを持たせられるんだけど、日本語だと歌詞を展開させないと絶対に持たなくて。だから瞬間的に直訳という選択はないなと諦めて、自分でオリジナルの歌詞を書こうと思いました。
──そのかいあってか、まあ激ロマンチックな歌詞になりましたね(笑)。
スガ 無事に当てることで精一杯だった。そのぐらい苦労しました。
次のページ » この結果にはかなり傷付いています(笑)
収録曲
- 夢のゴール
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和] - 幼虫と抜け殻
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 砂時計
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 1995
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:屋敷豪太] - BEATOPIA
[作曲・編曲:武部聡志] - Blue
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - Stars
[作詞・作曲:ミック・ハックネル / 編曲:kōkua / 日本語詞:スガシカオ] - 道程
[作詞・作曲・編曲:小倉博和] - kōkua's talk 2
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:武部聡志] - 黒い靴
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:根岸孝旨] - 私たちの望むものは
[作詞・作曲:岡林信康 / 編曲:kōkua] - Progress
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和]
kōkua Tour 2016 「Progress」
- 2016年6月4日(土)
- 福岡県 福岡国際会議場メインホール ※公演終了
- 2016年6月14日(火)
- 愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2016年6月17日(金)
- 大阪府 NHK大阪ホール
- 2016年6月24日(金)
- 東京都 NHKホール
kōkua(コクア)
スガシカオ(Vo)、武部聡志(Key)、小倉博和(G)、根岸孝旨(B)、屋敷豪太(Dr)という日本の音楽シーンの第一線で活躍するアーティストたちによるバンド。2006年にNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」の主題歌「Progress」制作のために結成された。スガのデビュー20周年イヤープロジェクトの一環として2016年に再始動。6月に1stアルバム「Progress」を発表し、同月に初の全国ツアーを開催する。