音楽ナタリー Power Push - kōkua
10年の時を経て結実した プロフェッショナル5人の「Progress」
アルバム「Progress」の始まり
──ではアルバム制作はどのような流れで決まったのでしょうか?
武部 今回はスガくんの招集だったんだよね。
スガ 「いつかまたみんなで……」と思いながらずっと連絡を取り合ってはいたんですが、番組も10周年を迎えたし、自分名義で活動するときのメジャーレーベルも決まって、ちょうど俺のデビュー20周年イヤーでもあったので。この節目で立ち上がらないと、「Progress」しかないバンドみたくなっちゃう(笑)。それもイヤで。あとは自分自身が、この10年でようやくみんなとガチでアルバムを作るレベルにまで到達できたかなあとも思えたので。
──つまりスガさんの中には、10年前の自分ではこの手練れの面々に太刀打ちできないという思いがあった?
スガ あったあった。だって俺、「Progress」の歌、いまだに録り直したくてしょうがないんだもん。聴き直すたびにマジで思っているぐらいだから。
武部 声の出し方が今とは違うんだよね。
スガ 声の線が細いの。今なら絶対バンドの音に負けないぐらいの歌を歌えるけど、当時はやっぱりロックの歌い方がわかっていなかったんです。バンドはちゃんとロックしてくれているのに、1人だけロックできていない青さが如実に記録されてしまったという(笑)。
武部 僕は細いとまでは思ってなかったけどね。でも、今回のアルバムにおけるスガくんの歌は、声の出し方も、メロディに対しての言葉のぶつけ方も、ソリッドでエッジが効いている。リスナーの方々にはこれまで以上に、歌の存在感を強く感じてもらえると思います。
グループLINE大活躍
──今作はスガさんが中心となりつつ、メンバーの皆さんが楽曲提供なりプロデュースなり、それぞれいずれかの曲でイニシアチブを取っているのも大きな特徴ですね。
武部 それは僕からの提案でした。僕、プログレが好きなんですが、1971年にリリースされたYesの「Fragile」というアルバムが、バンド名義の曲とメンバーがそれぞれに書いたソロ曲で構成されているんですね。あんな感じでそれぞれが1曲ずつ書くようなアルバムにしてみたかったんです。あとは「5人だけでやる」ということ。ゲストは入れず、例えば弦の音が欲しければ僕が弾いて、タンバリンの音が欲しかったら豪太が叩く。そうでないとバンド色が薄れて、巷のJ-POPと同じになってしまうと思ったので。ただ、打ち合わせの段階では「これ、フルじゃなくてもうミニアルバムにしない?」みたいな弱気な空気も流れたんですよ。ともかくみんな忙しいから(笑)。
──まあ確かに個人活動があったりバンドがあったり、ライブもレコーディングもやってるし、年がら年中セッション漬けみたいな面々ですものねえ(笑)。
武部 でも最初のスタジオリハーサルで音を出したとき、たぶん全員が「ああ、これはやっぱりちゃんとやりたいな」と思った瞬間があったよね。
スガ 俺も感じました。「これはフルアルバムだな」っていう空気(笑)。しかもさらに途中からは「このアルバム、化け始めたぞ」という意識をみんなが感じ始めて。
武部 するとみんなの本気度もさらにヒートアップする。そこからはグループLINEが大活躍だった。
──グループLINE?
スガ とにかくみんなスケジュールが合わないんですよ。忙しい上に、豪太さんが京都在住だったりもするので。だからLINEでグループを作って、書いた歌詞とか曲とか選曲のアイデアなんかをバンバン送り合って。
──ベテラン集団のわりには、またえらく今時なツールで(笑)。
スガ いやもうマジで今回はLINEがなかったらこの期間では絶対にまとまらなかった。詞や曲ができては「こんなのどうですか?」ってアップして。LINEの中でメンバーにインタビューしながら書いた歌詞もあったし。
武部 うん。あと面白かったのは、例えばLINEを通したほうが、直接会うよりも辛辣な意見を言えたりする場面が意外と多かったこと。とは言え、年齢的にもキャリア的にも余裕のある時期に集まれてよかったよね。これが20代の頃だったらまだ我が強過ぎて、こんなにまとまらなかったかもしれない(笑)。
スガ 「この曲どう?」とかきても「俺はピンとこないな」とか「イマイチっすね」とか言い合えてたし(笑)。LINE上でボツになったアイデアもたくさんあったな。
──ちなみにどんなアイデアが?
武部 やっぱりカバー曲を何にしようかというときはかなりいろんな曲が候補に上がりましたね。時代を革命的に変えたようなメッセージソングということで出し合ったんだけど、それこそ(吉田)拓郎さんや、はっぴいえんども挙がっていたし。
スガ BO GUMBOSも挙がっていましたね。
スガシカオのソロとは違う「光が射すアルバム」を目指して
──ここからは収録曲について1曲ずつ伺いたいんですが、まずは1曲目の「夢のゴール」から。これは「プロフェッショナル~」の放送10周年を記念して、番組で披露された曲でした。未来へのスタートとゴールについて歌われているという意味においても「Progress」の兄弟曲というかアンサーソングに位置付けられる曲ですね。
武部 そうですね。今の時代に問いを投げかけるという意味においても、「Progress」と共通するメッセージを持った曲になりました。
スガ そもそも今回は最初から僕のソロとは違う、言うなれば「光が射すアルバム」を作ろうという意識だったので、歌詞はあまり自分の内面を出さずに書きました。歌詞にはいろいろな職業が出てくるんですが、この曲に限らず、今回の制作中はこれまで放送された「プロフェッショナル~」をたくさん観直しましたね。
──続く「幼虫と抜け殻」では、さまざまな日常の情景の断片が切り取られています。
スガ これはスタジオで「あの店がさあ」みたいな話をしていたのがきっかけ。ちょっと皮肉が入った感じは俺のソロに近いかも。
武部 結局スガくんにはどこかシニカルで冷めた目線があるから、軽快なポップスも“ただの軽快な歌”にはまずならない(笑)。
スガ 今年って初頭からすごい年だったでしょ。いろんなスキャンダルが起きたり、レジェンドみたいな人が次々と亡くなったりして。そういうニュースを横目で見ながら制作していたので、日常に潜む「明日は俺かもしれない」的な危機感が歌詞に反映されちゃった。だってスタジオにいたとき、みんなでプリンスの話をしていたら、その次の日にプリンスが亡くなったんだから……本当、人なんていつ死んでしまうかわからない。
──「砂時計」では、幼い子供への思いが歌われています。
スガ 僕のソロでは絶対に触れないテーマ(笑)。これ、最初は別の歌詞だったんですよ。でも演奏を聴いたら、歌詞が曲に負けてしまっていた。単純な愛を歌ったところで、この素晴らしいアレンジと演奏に釣り合わないと思ったので、全ボツにしてイチから書き直したんです。またこの曲のレコーディングの様子がすさまじかったんですよ。
武部 オグちゃんのギターソロなんて一発OKだったもんね。大抵ギターソロというのは、ベーシックトラックを録ったあとにオーバーダビングするものなんだけど、オグちゃんはベーシックを弾いた流れでそのままソロまで弾いてしまい、しかもそれが神懸かっていたという。
スガ あれは本気でゾクッときた。
武部 で、スガくんが歌ったあとに僕がシンセでストリングスを足したら、それを聴いたスガくんがもう一度歌い直してね(笑)。
スガ あのストリングスを聴いたら「これはないわ!」みたく火が点いちゃって。
武部 そういう楽しさはバンドならではだね。
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収録曲
- 夢のゴール
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和] - 幼虫と抜け殻
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 砂時計
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 1995
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:屋敷豪太] - BEATOPIA
[作曲・編曲:武部聡志] - Blue
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - Stars
[作詞・作曲:ミック・ハックネル / 編曲:kōkua / 日本語詞:スガシカオ] - 道程
[作詞・作曲・編曲:小倉博和] - kōkua's talk 2
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:武部聡志] - 黒い靴
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:根岸孝旨] - 私たちの望むものは
[作詞・作曲:岡林信康 / 編曲:kōkua] - Progress
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和]
kōkua Tour 2016 「Progress」
- 2016年6月4日(土)
- 福岡県 福岡国際会議場メインホール ※公演終了
- 2016年6月14日(火)
- 愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2016年6月17日(金)
- 大阪府 NHK大阪ホール
- 2016年6月24日(金)
- 東京都 NHKホール
kōkua(コクア)
スガシカオ(Vo)、武部聡志(Key)、小倉博和(G)、根岸孝旨(B)、屋敷豪太(Dr)という日本の音楽シーンの第一線で活躍するアーティストたちによるバンド。2006年にNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」の主題歌「Progress」制作のために結成された。スガのデビュー20周年イヤープロジェクトの一環として2016年に再始動。6月に1stアルバム「Progress」を発表し、同月に初の全国ツアーを開催する。