音楽ナタリー Power Push - kōkua
10年の時を経て結実した プロフェッショナル5人の「Progress」
kōkuaが1stアルバム「Progress」をリリースした。
NHK総合テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」の主題歌のために、スガシカオ(Vo)、武部聡志(Key)、小倉博和(G)、根岸孝旨(B)、屋敷豪太(Dr)という、まさしくプロ中のプロによって結成されたバンドが、10年目にしてようやく完成させたフルアルバムの全貌とは? 今回はスガと武部の2人に、バンドの結成からレコーディング秘話までをじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 内田正樹 スタジオ風景撮影 / HIRO KIMURA
kōkua誕生のいきさつ
──結成10年目を迎えての1stアルバムリリースということで、まずは10年前にkōkuaが結成されたいきさつから聞かせていただけますか?
スガシカオ(Vo) 僕は武部さんからお話をいただいたんですよ。
武部聡志(Key) きっかけは10年前、「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組がスタートするにあたって、NHKサイドからいただいた主題歌のオファーでした。「その道のプロたちを扱う番組を立ち上げるのだけれど、どんな主題歌にしたらいいか」という相談だったので、「それならばプロフェッショナルというテーマで架空のバンドを組むのはどうだろう?」と僕が提案したんです。そもそも、その前まで同じ枠で放送されていた番組が「プロジェクトX~挑戦者たち~」で、主題歌が中島みゆきさんの「地上の星」だったこともあり、誰か1人のアーティストが歌うのでは、なかなか「地上の星」に太刀打ちできないだろうなあという目算もあって(笑)。
スガ なるほどなあ。確かにそりゃそうだ(笑)。
武部 そこで架空のバンドのメンバーを想像したら、真っ先に浮かんだボーカリストがスガくんだったんです。これまでに「MUSIC FAIR」や「僕らの音楽」で一緒に音を出した経験もあったし。フロントマンであり、ソングライターでもあり、何より優れた作家性を持っている人が理想的だったので。
スガ お話をいただいたとき、武部さんは「ギターはオグちゃん(小倉博和)に頼もうと思うんだ」と話してくださって。で、僕は僕で当時イギリスから帰ってきてすぐの(屋敷)豪太さんと仲よくなったばかりで、よく一緒にメシを食ったりしていたので「彼を引きずり込んじゃいましょうよ?」と逆提案して、すぐに豪太さんを口説きに行ったんです。
武部 ネギ坊(根岸孝旨)は、ほぼ全員共通の知り合いだったんだよね?
スガ そうそう。やっぱりベースでいろんなことができる人といえば根岸さん。あんなに荒っぽくて、いいロックベースを弾く人って、そうはいないから。僕は根岸さんの参加がkōkuaの音の決定打になったと思っていて。ベースが彼だと、そこに乗っかる上モノはもう暴れざるを得ないし(笑)。たぶん、ほかの人だったら変にまとまっちゃって、ここまでロックバンドのサウンドにはならなかったんじゃないかな。
武部 そうだね。ボトムを支え、リズムも作りつつ、全体のカラーも決める。だからバンドのベーシスト選びは本当に重要。その上、やはり豪太もネギ坊もオグちゃんも全員ほかのアーティストのプロデュースも手がけてるから、いちプレイヤーとしてだけではなく、プロデューサー的な感覚を持ってバンドに参加できる。これも大きなポイントだった。あとは全員だいたい同じ世代感を共有していることも強みになると思いましたね。
浸透のレベルが違う「Progress」
──この5人が集まってどのように「Progress」が生まれたのでしょうか?
スガ この曲はものすごい勢いで録ったんですよ。そもそも曲の発注がその年の12月の半ばだったんだけど、年明けの10日かそこらには番組がスタートすると言われて(笑)。
武部 オンエアまで1カ月もないっていう状況だったんだよね(笑)。
スガ 慌てて3曲ぐらい書き上げて。その中から「Progress」が番組サイドに選ばれたので、武部さんが一気にアレンジして、25日のクリスマスにレコーディングしたんです。全員が集まれる最短のスケジュールがそこしかなかったので。
武部 つまり勢いとか縁でワーッと集まって作った曲なんですよ。ちなみに僕と豪太が一緒にプレイしたのはこのとき初めて(笑)。たぶんネギ坊も豪太と一緒に演奏するのは初めてみたいなもんだったんじゃないかな。
スガ しかもこれ、完パケに使われているのはテイク1、つまり最初の演奏なんですよ?
──えっ、そうなんですか!?
スガ その後、2、3とテイクを重ねても、最初のものを上回れなかったの。
武部 お互いのプレイがどんなもんだかまだわからない状態でバッと演奏したのに、やっぱり起きるときは起きるんですよ、スタジオセッションならではのミラクルというものが。
──鳥肌モノのエピソードだ。
武部 あとこれはちょっとマニアックな話ですが、あのイントロでオグちゃんが弾いているのは、グレッチのWhite Falconという、ブライアン・セッツァーからミスチルの桜井(和寿)くんが受け継ぎ、桜井くんからオグちゃんのところに渡ってきたという由緒正しいギターなんです。で、もしもこのイントロがLes Paulとかほかのギターで弾かれていたら、曲そのものが相当違った印象になっていたと思う。ここがオグちゃんのすごいところ。
スガ 本当によくあのWhite Falconを選びましたよね。この箱が鳴っている感じの音だからいいんですよね。
──「Progress」は10年にわたって番組の主題歌として使用され続けていますが、リリース時に思っていた以上のスケールで曲が育ったという手応えはありますか?
スガ そりゃありますよ。だって道で人に声かけられるとき、ほとんどが「『Progress』聴いてます!」だもん。飛行機に乗ってても声をかけられるし、NHKの日本語チャンネルでも流れているらしく、海外でも声をかけられますからね。
武部 1つの番組で10年間使われている主題歌というのもなかなかないからね。企業の入社式とかで流れるという話も聞いたよ。
スガ 高校の道徳の時間にも教材として使われていますからね。もう浸透のレベルが違うんですよ。俺のソロの曲なんて、教科書どころか放送に乗せてもらえない曲だってあるっていうのに(笑)。
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収録曲
- 夢のゴール
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和] - 幼虫と抜け殻
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 砂時計
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - 1995
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:屋敷豪太] - BEATOPIA
[作曲・編曲:武部聡志] - Blue
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:kōkua] - Stars
[作詞・作曲:ミック・ハックネル / 編曲:kōkua / 日本語詞:スガシカオ] - 道程
[作詞・作曲・編曲:小倉博和] - kōkua's talk 2
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:武部聡志] - 黒い靴
[作詞:スガシカオ / 作曲・編曲:根岸孝旨] - 私たちの望むものは
[作詞・作曲:岡林信康 / 編曲:kōkua] - Progress
[作詞・作曲:スガシカオ / 編曲:武部聡志、小倉博和]
kōkua Tour 2016 「Progress」
- 2016年6月4日(土)
- 福岡県 福岡国際会議場メインホール ※公演終了
- 2016年6月14日(火)
- 愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2016年6月17日(金)
- 大阪府 NHK大阪ホール
- 2016年6月24日(金)
- 東京都 NHKホール
kōkua(コクア)
スガシカオ(Vo)、武部聡志(Key)、小倉博和(G)、根岸孝旨(B)、屋敷豪太(Dr)という日本の音楽シーンの第一線で活躍するアーティストたちによるバンド。2006年にNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」の主題歌「Progress」制作のために結成された。スガのデビュー20周年イヤープロジェクトの一環として2016年に再始動。6月に1stアルバム「Progress」を発表し、同月に初の全国ツアーを開催する。