ナタリー PowerPush - KOKIA

私にしか歌えない色

自分にできるのは“ベストを尽くす”だけ

──でもうらやましがられるでしょ? ヨーロッパでライブできるなんて、いいねって。

KOKIA

言われますね(笑)。そういうときは「やればいいじゃん!」って言ってるんですよ。だって、ライブを作るときにやることって、万国共通じゃないですか。まず会場に連絡して、ライブができるかどうか聞きますよね。そこで「できません」ってなることもあるし、「誰々を通してください」って話になることもあって。そんなふうにただやればいいんだけれど、なんだか日本って海外に対して異様に大変なんじゃないか?というようなイメージを持っている気がするんですよね。日本でだってライブ1つ作るの、大変じゃないですか。

──それはKOKIAさんだからできることかもしれないですよ(笑)。

確かに、フリーランスの私にだから自由にできることも多いと思います。けれど、自由に決められるところが多いぶん、その責任はすべて自分に返ってくるわけで、怖いことも結構ありますよ。結果が伴わないとそれなりにヘコみますし(笑)。でも、大きな事務所に所属していたときのように、お膳立てされたお盆の上に乗っかってただ歌うのとは、まったく違う達成感があるんですよ。15周年のコンサートのときも、それはすごく感じましたね。ライティングにしてもステージの美術にしても、演出、私のステージはすべてにおいて、みんなと一緒に決めています。

──これまでのキャリアの中で、音楽的な壁にぶつかったことはないですか? 思うように曲が書けない、イメージ通りのサウンドが作れないということは、どんなミュージシャンにもあると思うのですが。

もちろんありますけど、曲は書けないときの私って、粘るほうではなくて、けっこう諦めがいいんですよね(笑)。絞り出して出るものなら、とっくに出てると思うし、今日はその日じゃないんだって思うようにしています。ステージに関しては、ベストを尽くしてダメだったんなら、それはもうしょうがないって思うようにしています。例えばどんなに体調管理に気を遣っていても 、体調不良になるときはなります。そんなとき、それでも臨まないといけないステージがあったとしても、私にできることは、“その体調の中であってもベストを尽くす”だけなんですよ。それは体調がよいときも同じだけれど、当たり前のことだけど、自分がベストを尽くしたステージなら、コンディションがよくなくても、いいステージだったなというものになることもあります。それに、もしも体調不良だからといって手を抜いてしまったら、それは誰よりも自分が一番よくわかっているだろうから、あとですごく悔やまれると思うんですよね。

──できることはすべてやって、その結果は謙虚に受け入れる、と。

たとえ満足ができないライブだったとしても、そこから学べるものもありますからね。実際、数年前にそういう経験をしたことがあるんですけど。その日のライブは本当に体調がよくなくて、全然声が出なかったんですよね。最後のほうは歌えなくなってしまって、ボロボロと涙が出てきて……。そのとき、会場中のお客さんが私の代わりにその歌を歌ってくれたんですよ。それを美化するつもりはないし、当然「恥ずかしいライブをしてしまった」という思いはあるし、──もちろん、厳しい言葉をくださったお客さんもいらっしゃいました──でも、それよりももっと大きなものが自分の中に残ったというか。長く歌っていればいろいろなことがあるだろうし、点では完璧を求めても仕方がないなと。そのかわり、ベストは尽くさないとダメですけどね。

予測不能なことが起きるのが人生

──困難や苦難を糧にして進んでいくというか。特にここ数年の出来事を乗り越えたことは、KOKIAさんにとって大きな意味を持つことになりそうですね。

「こんなビッグウエーブが自分に起こるんだ?」って思いましたからね(笑)。デビューする前もデビューした後もここ数年の出来事も現在も、「なかなか私の人生は面白いシナリオだな」って。しっかりとレールに乗っている方だったら、2~3年先くらいまでは簡単に自分が何をしているか想像できると思うんです。でも今の私は2~3カ月先、どうなっているかまるでわからないですから(笑)。計画を立てるのは大好きなんですけど、全然計画通りに進まないっていう出来事がここ最近はよく起こりました。どんなことでも「あれは必要なことだったんだな」と思うことにしています。

──起こったことにはすべて意味がある?

そう思います、ホントに。今の私、すごく潔くなっているんですよ。「予測不能なことが起きるのが人生だ」と今では構えていられているし、わけのわからない不安を抱えながら生きるのはやめようって。無理しないで、自分にできることをゆったり紡いでいこうっていう……。よく、年上の方が「健康であればそれでいい」とか「最低限のお金があれば、楽しみは少しでいい」なんておっしゃるじゃないですか。最近「ホントにそうだよな」って思うんですよね(笑)。もちろん、やりたいこともたくさんあるし、これからもこれまでと変わりなく精一杯がんばりますけどね。大きな出来事があったぶんだけ、やっぱり私の生き方は少し変わってきているように思います。そうでなくちゃ、大きなものを失わなくちゃならなかったことに、意味なんてないように思いますし。

──5月17日と18日には東京・国際フォーラム ホールCで「KOKIA 2014 Spring Concert ~Release~」を開催。ここからまた新しい音楽人生が始まりそうですね。

この先は楽しくなりそうだなという気がしてるんですよね。新しい曲も、自分の体内にどんどんたまってきてるんですよ。

──(笑)。それは自由に取り出せるんですか?

取り出せます! ボルテージが上がってきたら、ウワッと一気に書けるんですよ。どんな曲が生まれるのかな?って自分も楽しみだし、全然焦ってないんですよね、今は。

ライブアルバム「COLOR OF LIFE」 [CD2枚組] 2014年2月12日発売 / 3465円 / Victor Entertainment / VICL-64132~3
DISC 1
  1. Dance with the wind
  2. 愛はこだまする
  3. you are not alone
  4. something blue & something red
  5. ヒトの中にあるもの
  6. 心のロウソク
  7. 音蒔き 歌蒔きのうた
  8. 歌う人
  9. life goes on
  10. 安心の中
  11. INFINITY
DISC 2
  1. 夢の途中
  2. 祈り
  3. moment~今を生きる~
  4. 映画のような恋でした
  5. Where to go my love
  6. 傘を貸してあげて
ライブDVD「 15th anniversary concert DVD『COLOR OF LIFE』2013」

※コンサート会場およびKOKIAオフィシャルサイト内「コキア印」で販売中。

KOKIA(こきあ)
KOKIA

1976年生まれの女性シンガーソングライター。幼少期より楽器に親しみ、高校と大学では桐朋学園で声楽を専攻。1998年に大学在学中にシングル「愛しているから」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表した3rdシングル「ありがとう...」は、海外でもリリースされ香港国際流行音楽大賞で3位に入賞。同曲は香港にて広東語でカバーされ大ヒットを記録する。その後もCMソングやドラマ主題歌を多数手がけ、2004年にアテネ五輪日本代表選手団応援ソング「夢がチカラ」を発表。2006年には初のベスト盤「pearl」が日本、フランス、スペインでリリースされ、特にヨーロッパ諸国で大きな反響を呼ぶ。近年は海外でのライブ活動も積極的に行い、歌を通じてのチャリティ活動にも取り組んでいる。デビュー15周年を迎えた2013年に、アルバム「Where to go my love?」を発表し、Bunkamuraオーチャードホールにてアニバーサリーコンサートを開催。また同年よりイギリスにも拠点を置き、日本とロンドンを行き来しながら活動している。2014年2月に15周年コンサートの模様を収めた初のライブアルバムをリリースした。