ナタリー PowerPush - KOKIA

私にしか歌えない色

ポップスをやってる意識はない

──ポップスのコンサートの基本は、同じセットを均一のクオリティで聴かせることだと思うんですが、KOKIAさんは「ポップスをやってる」っていう意識ってありますか?

KOKIA

ないですね! 海外でも「どんな歌を歌ってるんですか?」ってよく聞かれるんですけど、サッと答えられたことがないんです。「いい気分になる、柔らかい曲」って言ったりするんだけど、「待てよ。そんな歌だけではないな」って思うし(笑)。あとね、「自分がどんな音楽をやってるか?」ということをあまり気にしてないんですよ。だって、私にできることしかできないじゃないですか。自然に出てきたものがたまたま“何風”だったらそれでいいやって思っています。素敵なものであれば、なんでもいいなと。

──確かに(笑)。

「こういうジャンルの曲を作ろう」と思ったり、サウンドから決めていくタイプだったら、自分の曲はこうですって説明できると思うんですよ。でも、私の場合は全然違いますからね。曲を作る際もほとんどは、「何を伝えたいか?」というメッセージが先に決まらないとなかなか音が聞こえてこないんです。伝えたいトピック、メッセージがあって、それに伴って音のイメージができるっていう感じです。作文やラブレターを書くのに、やみくもに書き出すよりも、何を最も伝えたいか心の中で決めてから書き出すほうがまとまった文章になりますよね? なんだかそんな感じに似ています。ミュージシャンというよりもメッセンジャーっていう気持ちでいるんですよね。まず私の人生があって、そのうえに音楽が乗っかっている感じというか……。なので、私の場合、プライベートで起こる多くのことが音へと大きく影響してゆきます。自分の思いを残している。そんな感じです。そういう意味では音楽が特別な存在っていう意識もないのかもしれません。

試練があるときのほうがいい曲を残している

──昨年リリースされた15周年記念アルバム「Where to go my love?」はこれまで以上にKOKIAさん自身のリアルな思いが表現された作品でした。KOKIAさんにとっては、どんな位置付けのアルバムですか?

これはねえ……まず、あのアルバムを出してよかったと思うし、15周年記念のライブもやってよかったなって思っています。さっきも言ったように、あのステージは私にとっては15周年の集大成となったステージだったんです。この15年の間にもそれなりにさまざまな困難があったけれど、最後に「こんなに大きなハードルが待っていたなんて!」という出来事が重なって。「私、これまでもけっこうがんばってきたと思うんだけど、もっともっとがんばらなくちゃいけないの?」と思いましたよ。正直“ビックリ”“唖然”っていう言葉がピッタリだったかも。それに、考えたり、立ち止まったりする時間さえなかったので。

──大事なパートナーを失ったわけですからね……。言葉にならない衝撃ですよね。

KOKIA

ショック状態でしたね。本当にすべてが極限の状態でした。闘病生活のサポート、アルバム制作、15周年のステージの準備、1つひとつをとってもそれぞれが全力で立ち向かわなくてはならないような大事な物が、一挙に3つ重なってしまって、もうどうしていいのかわかりませんでした。「なんで? なんで? なんで? こんなことになってしまったんだろう?」という言葉ばかりが頭の中をぐるぐると巡っていたけれど、それでも今は「ああいう時間を過ごすことにも意味があったんだな」って思わせてくれる素敵でかつ意味のあるアルバムができたこと、うれしく思っています。今聴き返しても「よくやったな。いいアルバムできたな」ってホントに思うの。あんなに大変だったのに「妥協してない」ってハッキリ言えるし。以前から「試練があるときのほうが、いい曲を残してきている」という統計もあったんですけど(笑)。あんなことが自分の人生に起こるなんて、本当に想像もしていませんでした。今でもなんだか信じられない。不思議な感覚に襲われることがあります。カッコよくなくてもいいから、がんばろうって必死になること。そうやって必死になった時間って裏切らないんだなって今は思います。諦めないって大事だなって。

──困難に直面することで、いつも以上の力が出てくる?

プライベートな時間の中で心がザラついたり、乾いたりすると、確かにつらいんだけど、自分で作った音楽が潤してくれるんですよね。音楽を届けるお仕事をしているけど、自分のために書いているというところも大きいと思います。自分自身を潤してくれる音が人を幸せにできるとしたら、それはとっても素敵なことですよね。

──本質的に前向きなんでしょうね、きっと。

前向きになるための気持ちを音楽が後押してくれているんじゃないかな。いろいろあっても、前に向かって進まなくちゃいけない……そのためのポジティブな“種”って、みんな持っていると思うんですよ、誰でも。それを大きくしなくちゃいけないんだけど、その方法やきっかけは人によって違うと思うんです。ときにそれは誰かの言った言葉かもしれないし、旅に出ることかもしれない。私の場合は、音楽を奏でることなんですよね、たぶん。あとは「大丈夫」って自分に繰り返し言い聞かせたり。例えば「がんばろうっていう言葉は言わないほうがいい」っていう意見をよく聞くんですけど、いろんな考え方があると思うので、それはそれなんですけどね、私の場合、自分に「よし、がんばろう」って何度も言うことって、すごくいいことだと思うんですよ。面白くなくても、とにかく笑っていようとか。そのときそうでなくても、言った先から状況がついてくることってあると思うんですよ。今、ロンドンと東京を行ったり来たりの生活をしているんですけど、ロンドンで新しく出会った人たちに「KOKIAさんはいつも笑っていて、幸せそうだね」って言われることが多かったんですよ。でも、私がロンドンに行った理由って、簡単に言うと傷心の旅だったわけで、決して羽を伸ばしに海外に行ったわけではなかったけれど、生きていくために、これからの自分の生き方を新たに探さなくちゃって思う日々の中で、唯一これから始めようって思ったのは、「1分1秒なんでも楽しむこと」。たとえ状況や気持ちがそうじゃなかったとしても、時間はただただ過ぎてゆくもの。なるべく楽しいことを考えて、笑顔でいるうちに、少しずつ状況も変わってくるんじゃないかな。“福を呼ぶ”じゃないけど。

──KOKIAさんらしい考え方だと思います。現在はロンドンでも音楽制作を行っているということですが、KOKIAさんの中で活動の拠点はどこに置いてるんですか?

仕事の拠点は日本です。こうやってスタジオも作っちゃいましたからね。もしかしたら変わることもあるかもしれないけど、それがいつなのかは見当もつかないし(笑)。ただ、人生の拠点はどこでもいいと思ってるんですよ。2009年のヨーロッパツアーの後で「Wherever I am~world tour 2009 in Europe~」というDVDをリリースしたんですけど、そのタイトルがずっと私の中に残っていて。どこにいても私は曲を書けるし、歌も歌えますからね。ステージがあるときはその会場まで行かなくちゃいけないけれど、基本的に日々の生活の場所はどこでもいいし、こだわってないんです。ステージがKOKIAの居場所なのだとしたら、私の居場所はピアノがあればどこでもいいかなと。今はたまたま東京とロンドンだけど、別のところでもかまわないんです。

──ヨーロッパを中心に活動を広げていきたいという気持ちは?

それはあります。それも自然なことというか、「(ヨーロッパに)進出したい」っていう強い希望があるわけじゃないんですよ。大阪や名古屋、北海道でライブをやるのと、モスクワ、フランス、スペインでライブをやるのは、私にとってはまったく同じ感覚なので。

ライブアルバム「COLOR OF LIFE」 [CD2枚組] 2014年2月12日発売 / 3465円 / Victor Entertainment / VICL-64132~3
DISC 1
  1. Dance with the wind
  2. 愛はこだまする
  3. you are not alone
  4. something blue & something red
  5. ヒトの中にあるもの
  6. 心のロウソク
  7. 音蒔き 歌蒔きのうた
  8. 歌う人
  9. life goes on
  10. 安心の中
  11. INFINITY
DISC 2
  1. 夢の途中
  2. 祈り
  3. moment~今を生きる~
  4. 映画のような恋でした
  5. Where to go my love
  6. 傘を貸してあげて
ライブDVD「 15th anniversary concert DVD『COLOR OF LIFE』2013」

※コンサート会場およびKOKIAオフィシャルサイト内「コキア印」で販売中。

KOKIA(こきあ)
KOKIA

1976年生まれの女性シンガーソングライター。幼少期より楽器に親しみ、高校と大学では桐朋学園で声楽を専攻。1998年に大学在学中にシングル「愛しているから」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表した3rdシングル「ありがとう...」は、海外でもリリースされ香港国際流行音楽大賞で3位に入賞。同曲は香港にて広東語でカバーされ大ヒットを記録する。その後もCMソングやドラマ主題歌を多数手がけ、2004年にアテネ五輪日本代表選手団応援ソング「夢がチカラ」を発表。2006年には初のベスト盤「pearl」が日本、フランス、スペインでリリースされ、特にヨーロッパ諸国で大きな反響を呼ぶ。近年は海外でのライブ活動も積極的に行い、歌を通じてのチャリティ活動にも取り組んでいる。デビュー15周年を迎えた2013年に、アルバム「Where to go my love?」を発表し、Bunkamuraオーチャードホールにてアニバーサリーコンサートを開催。また同年よりイギリスにも拠点を置き、日本とロンドンを行き来しながら活動している。2014年2月に15周年コンサートの模様を収めた初のライブアルバムをリリースした。