ナタリー PowerPush - KOKIA
私にしか歌えない色
クラシック、ジャズ、ヨーロッパのフォークロアなどの要素を取り入れた質の高い楽曲、愛の本質に迫るようなメッセージ性の高い歌によって、日本はもちろんヨーロッパでも支持されているシンガーソングライターKOKIA。2013年のデビュー15周年は彼女にとって、とてつもなく大きな意味を持つ1年となった。
10年にわたって二人三脚で活動を共にしてきた男性スタッフ──彼はKOKIAの人生のパートナーになるはずだった──が病魔に侵され亡くなるまで、KOKIAは彼の闘病をサポートしながら音楽活動を続けたのだ。そうして生まれたオリジナルアルバム「Where to go my love?」、そして15周年記念コンサート「COLOR OF LIFE」(2013年4月28日に渋谷Bunkamuraオーチャードホールで開催)は、彼女の音楽人生の中でももっとも大きな出来事だったはずだ。
今回ナタリーは、15周年記念コンサートの音源を収録したライブアルバム「COLOR OF LIFE」をリリースするKOKIAに、彼女のプライベートスタジオでインタビュー。去年から今年にかけて起こった出来事を踏まえ、自らの音楽観、人生観について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 上山陽介
10年、15年先も間違いなく歌ってる
──KOKIAさんのプライベートスタジオ(東京都内にある「01073(=オトナミハウス)」)、とても落ち着く空間ですね。最近はここで制作することが多いんですか?
そうですね。スタジオが完成してからは、ここばっかりですね。私はピアノが軸になる曲が多いので、ピアノをいい音で録れるスタジオが作りたくてこのスタジオを作りました。使いたい!って興味を持ってくださるほかのアーティストの方にもお貸ししてるんですけど、柔らかい音、温かい感じの音が好きな方には、すごくいいと思います。これまでにストリングスやジャズなどいろいろな音録りを試したんですけど、特に生楽器はなんでも素敵な音で録れたような気がします。今ではリハーサルもここでやることが多いんですけど、スタジオのスケジュールや時間を気にしないで集中できるのも何よりなんです。
──理想的な制作環境ですね。
そうですね。私のコンサートを今、ここで行うのはちょっとキャパシティ的に難しいですけど、30人くらいのお客様を迎えてのミニサロンコンサートもできるので、これまでにいろいろな企画を行っているんですよ。場所が人をつなぐということがあると思うんですけど、このスタジオはまさにそんな感じです。プライベートスタジオを持つことってほとんどのミュージシャンが持っている夢だと思うんですけど、やっぱり実際に建設するとなるととても勇気が必要な決断でした。でも「10年、15年先はどうしてるかな?」って考えたとき、「私は間違いなく歌ってるな」と思えたので、ゆっくりとおおらかに自分の音を探すための場所を作りたいなと思って思い切りました。
私が輝ける場所はステージだな
──ではライブアルバム「COLOR OF LIFE」について聞かせてください。15周年を記念して行われたコンサートの音源を収録した作品ですが、ライブ盤をリリースするのは今回が初めてですよね?
そうですね。15周年のステージは、月並みな言い方ですけど、1つの節目でもあり、これまでの集大成でもあったと思うんですよね。あのコンサートに臨むまでには、私的にすごくいろんな試練があったし、「本当に試されているな」っていう感じもあって……。あと、自分で思っている以上に力を発揮できたステージでもあったんですよ。最近私に起きた出来事だけではなく、この15年間を振り返りつつ、いろんな思いが集結したコンサートだったし、ぜひ“音”としても多くの方に届けたいな、と。
──KOKIAさん自身は、このライブ盤を聴いてどう感じました?
レコード会社の方が「それはまるで、耳で観るコンサート」というキャッチコピーを付けてくれたんですけど、まさにそうだな、と思いましたね。私の場合、レコーディングも同時録音で録ることが多いので、構築してゆくというよりは瞬間的にいい演奏を封じ込めていくという感じなので、そういった意味ではレコーディングもわりとコンサートと似ている感じがします。一方でコンサートのパフォーマンスのクオリティは、どこまでCDを越えた演奏で残せるかという気持ちでいつもお届けしているので、「なぜ今までライブ盤を出さなかったんだろう?」と不思議に思いました。ファンの方からの要望も多かったし……。私のような構築してゆくタイプのミュージシャンでなく、一発芸みたいな感じのミュージシャンにはライブ盤はあっていると思うんですよね。一発入魂というか(笑)。
──その瞬間にしか生まれないテイクを重視する、ということ?
そうそう。うまく歌うということではなくて、ボルテージが最高潮になって、感情がウワッとなる感じというか。何度リハーサルをしても、その日のコンディション、マインド、お客さんによって予定調和に終わらないのがライブのよさ。事前に予測できないっていうのを楽しんでるんですよね、きっと。お客さんからパワーをもらって、自分でも思ってもみない素敵な歌が飛び出すこともあるし。私のよさはそういうところにあると思います。その日によって歌の浸透率が変わる歌。ライブが好きか嫌いか?って聞かれると、なかなか答えづらいんですけどね(笑)。たくさんエネルギーを放出して、すごく疲れるので。でもそれがなんだか心地よい疲れなんです。
──そういうスタンスは、デビュー当初から一貫してるんですか?
うーん、どうだろう? たぶん「いつの間にか気付いたら」っていう感じじゃないかな。ライブの音源を聴き直したり、ライブDVDを見てると「私、こんなに幸せそうな顔をして歌っているんだな」とか「自分の想像以上のパフォーマンスができてるなあ」って思うことが多くて、ステージではお客さんからたくさんの力をもらって、自分1人では見られないその先の場所に行けることがあるんだなっていうことに気付いたんですよね。「私が輝ける場所はステージだな」って15年間歌ってきた中で段々と気付けたというか。
──すごく真剣に聴いてますよね、KOKIAさんのライブに来てる方は。
本当にしっかり聴いてくれますね。そのぶん、こちらもさらに真剣になるし。30本とか50本のツアーを組むアーティストもいらっしゃいますけど、私にはたぶん無理なんですよね。1公演にものすごくパワーを使ってるし、予定調和というか同じことを繰り返すことがどちらかというと苦手なので……。
DISC 1
- Dance with the wind
- 愛はこだまする
- you are not alone
- something blue & something red
- ヒトの中にあるもの
- 心のロウソク
- 音蒔き 歌蒔きのうた
- 歌う人
- life goes on
- 安心の中
- INFINITY
DISC 2
- 夢の途中
- 祈り
- moment~今を生きる~
- 映画のような恋でした
- Where to go my love
- 傘を貸してあげて
※コンサート会場およびKOKIAオフィシャルサイト内「コキア印」で販売中。
KOKIA(こきあ)
1976年生まれの女性シンガーソングライター。幼少期より楽器に親しみ、高校と大学では桐朋学園で声楽を専攻。1998年に大学在学中にシングル「愛しているから」でメジャーデビューを果たす。1999年に発表した3rdシングル「ありがとう...」は、海外でもリリースされ香港国際流行音楽大賞で3位に入賞。同曲は香港にて広東語でカバーされ大ヒットを記録する。その後もCMソングやドラマ主題歌を多数手がけ、2004年にアテネ五輪日本代表選手団応援ソング「夢がチカラ」を発表。2006年には初のベスト盤「pearl」が日本、フランス、スペインでリリースされ、特にヨーロッパ諸国で大きな反響を呼ぶ。近年は海外でのライブ活動も積極的に行い、歌を通じてのチャリティ活動にも取り組んでいる。デビュー15周年を迎えた2013年に、アルバム「Where to go my love?」を発表し、Bunkamuraオーチャードホールにてアニバーサリーコンサートを開催。また同年よりイギリスにも拠点を置き、日本とロンドンを行き来しながら活動している。2014年2月に15周年コンサートの模様を収めた初のライブアルバムをリリースした。