17歳の女子高生・橘あきらと、彼女が思いを寄せる45歳のファミレス店長・近藤正己の関係を描いた人気マンガ「恋は雨上がりのように」が、小松菜奈と大泉洋の主演により実写映画化。この映画の主題歌は鈴木瑛美子×亀田誠治による神聖かまってちゃんのカバー「フロントメモリー」で、神聖かまってちゃんのの子(Vo, G)とmono(Key)はこの映画の劇伴に参加している。
今回「フロントメモリー」が主題歌に選ばれたのは、神聖かまってちゃんの大ファンである「恋は雨上がりのように」の原作者・眉月じゅんが熱望したため。眉月は連載中から「フロントメモリー」がこのマンガのテーマソングだと考えていたとのことで、マンガにはあきらがイヤフォンでかまってちゃんの曲を聴くシーンが登場する。
音楽ナタリーでは映画の公開に合わせて、眉月との子の対談を実施。眉月のかまってちゃんへの熱い思いを本人にぶつけてもらった。また特集の最後には、カバーバージョンを歌った鈴木瑛美子による「フロントメモリー」へのコメントも掲載している。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 沼田学
思春期の天才
の子 眉月さんは「フロントメモリー」を「このマンガのテーマソング」と言ってくれていたそうですけど、どうしてこの曲なんですか?
眉月 たぶん「夏.インストール」(2016年発売ミニアルバム)のツアーだったと思うんですけど、かまってちゃんがライブ配信してるのを1人で作業しながらずっと観てたんですよ。そのときにこの曲がすごく耳に残ったんです。で、調べたら川本真琴さんが歌ってるバージョンのミュージックビデオをYouTubeで見つけて。
の子 僕が女装してるやつですね(笑)。
眉月 そうそう。それから連載中ずっとこの曲を聴いてました。「フロントメモリー」ってすごく思春期っぽさを感じるんですよ。思い通りにいかないけど、どん底ってほどじゃない、アンニュイな気分だけどネガティブまではいかない、鬱屈してるのになぜかすごく明るいイメージ。夢の中にいるような十代の頃の不思議で曖昧な感覚。この曲はそれそのものだと思ったんです。
の子 ああ、なるほど。
眉月 私は十代っていうのは、思春期っていうのはそういうものだと思いながら「恋雨」を描いていたので、連載中に聴いたこの曲がドンピシャで。
の子 ちょうど自分が描いてた世界観にハマったんですね。
眉月 かまってちゃんのYouTubeのコメント欄を見てみたら、「これで明日も学校に行ける」って書いてる人がいたんですよ。中学生なのか高校生なのか大学生なのかわかんないけど、なんかそれ見た瞬間に「うん、そういうことだよね」って共感して、感動してちょっと泣いちゃったんです(笑)。
の子 ははは(笑)。
眉月 私は「恋雨」に限らず今までのマンガはすべて、応援歌のつもりで描いてるんです。「明日もこれで前に進めそう」って、読んだ人にちょっとでも感じてもらえるものを描こうと思ってるので、そのコメントを読んだときに自分の気持ちと重なっちゃったんですよね。それで「こんなすごい曲を作る人ってどういう人なんだろう?」って思って、ほかの曲も聴くようになって。もちろん神聖かまってちゃんの存在はデビュー当時から知っていて、「ロックンロールは鳴り止まないっ」もいい曲だなと思ってたんですけど、メンバーの皆さんがその後どこで何をやってるのか、の子さんのライブ配信を観るようになるまで知らなくて。
の子 まあ、出会うタイミングって大事ですからね。巡り合わせがよかったんでしょうね。僕の場合はThe Beatlesなんかがそうですけど、「出会ったときにこういう気分だったから、こういう環境に置かれてたから、自分にとってそれが最高の作品になった」っていうのはよくある気がします。
眉月 そうなんですよね。
の子 話した印象ですけど、「恋雨」で描かれた思春期っぽさは、眉月さん自身からも感じますね。
眉月 本当ですか!? 私も実は、東宝の人たちにかまってちゃんのことを説明するときに「の子さんは“思春期の天才”だと思う」って言ってたんです。そうとしか言いようがない。もうそれを二つ名にしてほしいくらい。「思春期の天才・の子」って(笑)。
なんで脱ぐのか、自分で大真面目に考えてる
──ライブ配信サイトをきっかけにかまってちゃんのファンになったとのことですが、それ以前から眉月さんはいろんな人の配信をチェックしていたんですか?
眉月 これは取材の一環でもあるんですけど、人間臭い部分をインターネットで開けっぴろげにしてる人に興味があって。例えば10年くらい前は、整形依存症の女の子のブログとかを読んでたんです。普段の生活では周りの人に整形してることを話さないけど、ブログではあっけらかんと書いてる人がたまにいて。依存までいってしまうとつらいだろうけど、美しくなりたいっていう気持ちは決してネガティブなだけのものではないから、よくも悪くもエネルギーの強さに惹かれて読んでたんです。 で、ライブ配信が流行して一般人の女の子たちが配信を始めてからは、「おっ、これは」と思ってそれも取材の感覚で観るようになりました。そのときに配信サイトのサムネイルを見てたので、の子さんが配信してることは知ってたんですけど、私が観たいのは一般人の配信だったから、の子さんのことはずっと避けてたんですよ。「プロには興味ない」って。でも「この人ずっと配信してるけど、どんなことを話してるんだろ」みたいな感じで試しに観てみたら、どんどん引き込まれていっちゃって。
──それから音源を聴いたりライブに通うようになったわけですね。
眉月 私がライブに行き始めたのは「めちゃ×2魔法を叶えてっ!ツアー」のEX THEATER ROPPONGI(2017年1月開催)からなので、全然新参者ですけどね。最初は配信で観てても十分楽しいから会場に行かなくてもいいかなと思ってたんですけど、盛り上がっているのを見てふと行ってみたいと思って。あのときライブハウスという小さな空間でエネルギーを浴びることの楽しさに目覚めてしまいました。パチンコ玉くらいのサイズの透明なキラキラした無数のエネルギー体をパシャっとかけられて、お客さんもそれをステージに投げ返すみたいな感覚。ライブが闘いなんですよ。「かまってちゃん VS ファン」みたいな。
の子 ああ、僕らとお客さんとのやり取りって、キャッチボールと言うよりドッジボールなんですよね(笑)。
眉月 先日のWWW X公演は、私は風邪を引いて熱が出てたから行けなかったんです。「なんで私はいつもこうなんだ」って本当に落ち込んで。その後にの子さんが配信でお話ししたのを観てましたが、あの日はライブ中に下半身を露出したとか?
の子 ははは(笑)。ホント、なんでそんなことしたんだろうって。
眉月 そういう行為は衝動的にやってるんですか?
の子 と言うよりただの自爆です。昔から、ああいうことやったあとに「なんでこんなことしたんだろう」って毎回悩んでるんですよ。きっとなんかテンパってたんでしょうね。
眉月 テンパって? 気分がよくなってやってるんじゃないんですか?
の子 悪くなってるんだと思います。
眉月 そうなんだ。私はいい状態なんだと思ってました。精神解放!みたいな。
の子 ではないと思います。自分自身が、ステージ上で脱ぐような人間を拒絶してるんで。5年くらい前からそんな感じです。でもなぜか脱いでしまう(笑)。なんなんだろう、あれ。なんで俺そんなことするんだろう。毎回反省してるんですよ、1人で家で。
眉月 ははは(笑)。脱がなきゃよかったって?
の子 毎回思ってますよ。別にファンや周りの人から「脱ぐな」って言われてるわけじゃないです。自分が嫌だからそう思ってるんです。正直、最初の頃は自分の意志で脱いでたんですよ。それは意図的だったからいいんだけど、今テンパって脱いじゃうのは全然別の話で。
眉月 確かに、知名度がないときに「ちょっとビビらせてやろう」的に脱ぐのはわかる気がするけど、今さら別に脱がなくたってね(笑)。
の子 死ぬ間際に生殖本能が働くっていう話があるじゃないですか。もしかしたらそれに近い状況なのかなとか、自分で大真面目に考えてたりするんですよ(笑)。
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「やっぱり運命なんだ」って思ったんです
- 音楽:伊藤ゴロー
<参加アーティスト> の子/mono(神聖かまってちゃん)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)、澤部渡(スカート)
「オリジナル・サウンドトラック『恋は雨上がりのように』」 - 2018年5月23日発売 / Warner Music Japan
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[CD]
2808円 / WPCL-12897
- 収録曲
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- ひびのそれぞれ
- 渡り廊下
- 走るあきら!
- 密かな想い
- あきらの想い
- いつかの手品
- 恋は雨上がりのように メインテーマ
- そして 雨上がる
- 近藤と小説 1
- あきらの片思い
- so true love
- 中途な夢
- あきらとはるか
- 近藤と小説 2
- スーパームーン 大事なこと。
- みずき
- B.G.M.
- みずきの記録会
- 恋は雨上がりのように~加瀬のサンドイッチ~
- 近藤のテーマ
- 恋は雨上がりのように~停電の夜~
- 近藤と小説 3
- 恋は雨上がりのように~浜辺~
- 恋は雨上がりのように~夜明け~
- フロントメモリー / 鈴木瑛美子×亀田誠治
- フロントメモリー feat. 川本真琴 / 神聖かまってちゃん(ボーナストラック)
- 鈴木瑛美子×亀田誠治「フロントメモリー」
- 2018年5月11日配信開始
- 神聖かまってちゃん「ツン×デレ」
- 2018年7月4日発売 / unBORDE
-
[CD]
3132円 / WPCL-12890
- 収録曲
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- 33才の夏休み
- 塔を登るネコ
- 8月の駅
- 秋空サイダー feat. たかはしほのか
- 犯罪者予備君
- トンネル
- 決戦の日
- ラムネボーイ
- 26才の夏休み
- 大阪駅
- 「恋は雨上がりのように」
- 2018年5月25日(金)全国公開
- ストーリー
-
橘あきらはファミレス“ガーデン”でアルバイトとして働く高校2年生。バツイチ子持ちの冴えない店長・近藤正己に密かに恋心を抱く彼女は、ある雨の日に「あなたのことが好きです」と思いのたけを打ち明ける。けがによって陸上競技を断念した17歳のあきらと、文学に情熱を注ぎながら小説家になれなかった45歳の近藤。止まっていた2人の時間が、静かに動き始める。
- スタッフ
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監督:永井聡
原作:眉月じゅん「恋は雨上がりのように」(小学館)
音楽:伊藤ゴロー
主題歌:鈴木瑛美子×亀田誠治「フロントメモリー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
- キャスト
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橘あきら:小松菜奈
近藤正己:大泉洋
喜屋武はるか:清野菜名
加瀬亮介:磯村勇斗
吉澤タカシ:葉山奨之
西田ユイ:松本穂香
倉田みずき:山本舞香
久保佳代子:濱田マリ
九条ちひろ:戸次重幸
橘ともよ:吉田羊
- 「恋は雨上がりのように」公式サイト
- 映画「恋は雨上がりのように」公式 (@koiame_movie) | Twitter
- 映画「恋は雨上がりのように」 (@koiame_movie) | Instagram
- 「恋は雨上がりのように」作品情報
©2018 映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館
- 神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
- の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2014年9月にフルアルバム「英雄syndrome」、2016年7月にミニアルバム「夏.インストール」を発表。2017年4月から放送のテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」にエンディングテーマとして「夕暮れの鳥」を書き下ろし、同曲を収めたシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」を5月にリリースした。7月4日にはニューアルバム「ツン×デレ」の発売も決定している。
- 眉月じゅん(マユヅキジュン)
- 神奈川県横浜市出身の女性マンガ家。2007年に開催された集英社主催の「第1回金のティアラ大賞」で「さよならデイジー」が銅賞を受賞する。2014年から2016年にかけて「月刊!スピリッツ」、2016年から2018年にかけて「ビッグコミックスピリッツ」で連載された「恋は雨上がりのように」が大ヒットを記録。同作は2018年1月にフジテレビ「ノイタミナ」枠でアニメ化され、同年5月には小松菜奈と大泉洋のダブル主演で実写映画化された。