結成25周年のアニバーサリーイヤーを迎えているコブクロ。数々のヒットを飛ばし、第一線で活躍し続ける彼らが送り出す11枚目のオリジナルアルバム「QUARTER CENTURY」は、これまでの活動を航海に例えた「RAISE THE ANCHOR」をリード曲とする、25年の集大成的作品だ。大阪・関西万博オフィシャルテーマソング「この地球(ほし)の続きを」や、書き下ろしの新曲も収録されている。
音楽ナタリーではマスタリングを終えたばかりのコブクロにインタビュー。アニバーサリーという懐古的になりがちなタイミングでありながら、未来への推進力を感じさせる新作を完成させた裏側に迫った。
取材・文 / 山田邦子
25年経ってもツアーが“しんどい”理由
──約3年ぶり、11枚目のオリジナルアルバム「QUARTER CENTURY」が完成しました。数時間前にマスタリングが終了したという貴重なタイミングでの取材になるわけですが、率直に今どんなお気持ちですか?
黒田俊介 正直、飲みに行きたいです(笑)。
小渕健太郎 (笑)。今回、作業が1日でもずれたらリリースが来年になるかもというくらい、ヤバいスケジュールだったんですよ。無事に完結して、こんなにホッとしたマスタリングの日はないっていうくらいホッとしてます(笑)。
──結成25年という節目のアルバムですから、完成した喜びもひとしおでしょうね。
小渕 それはめちゃくちゃ感じてます。リード曲「RAISE THE ANCHOR」で描いたように、僕らの活動を航海に例えるなら、「よっしゃ、あそこが25周年だ!」と思ってスタートして、ギリギリまで船が揺れて、荷物も揺れてって感じではありましたけど(笑)。
黒田 デビューした頃のツアーって、めっちゃしんどかったんですよ。ペース配分がわかれへんから。それから25年、まさかこうやって音楽活動を継続できてると思わなかったですけど、長年活動したらツアーはもっと余裕で、行く先々を楽しむくらいのノリになってると思ってたんです。でも今のほうがしんどいのは、なんでなんやろ。もっと余裕でやりたいんですけどね(笑)。
──もっと上にいけると信じているところがあるからじゃないですか?
黒田 あと「あれやって失敗したな」「違うことせなあかんな」という取捨選択がある程度できていて、「今度こそ」みたいな気持ちもあるからかも。1個1個、いろんなことの精度を上げていきたいですし。
──ライブを拝見していると、「これくらいでOK」みたいなラインが一切ないと感じます。
黒田 そうさせてるのは小渕でしょ。
小渕 ライブって、始まって終わるまでの3時間くらい何が起こるのかまったく想像もつかないし、終わってからもいい意味で「なんで今日はあんなことが起こったんやろ?」とか、自分たちが一番びっくりしてる感じがあるんですよ。だからここ10年15年、ライブが終わってから黒田と「あそこはもっとこうして」とかしゃべることなんてマジでないんです。
黒田 うん、ないですね。
小渕 それくらい、当事者が予想できないことがいっぱい起こるから、現状に満足しないっていうのもあると思います。
コブクロがスタートしたコンテナ
──これまでは10周年、20周年というタイミングでのアニバーサリーでしたが、今回25年で区切られたのは何かきっかけがあったんですか?
小渕 僕たちも次のアニバーサリーは30周年だと勝手に思ってたんですよ。そしたら、ほかのアーティストで25周年を祝ってる方がけっこういて、特に海外では“quarter-century”として盛大に祝うらしいという情報をくれた人もいて。なんで25で刻むんやろ?と思ったけど、1世紀の間で3回しかない大きな区切りを超えるのはすごいことなんだと実感しました。それを自分たちに言い聞かせるように「QUARTER CENTURY」とライブなどで連呼してきたんです。
──かなり早い段階から言われてましたよね。
小渕 はい。それは僕たちの喜びであり、「25年活動し続けてる歌手を私たちは聴いてきたんだ」という、ファンの方の喜びにも絶対に変わると思ったんです。あと、初期に作った歌も今作ってる歌も同じように大事に歌う姿勢を、僕らは貫いていると思っていて。最新曲と並べても引けを取らない曲を初期から作ってきたという意識もあるし、だからこそ今も歌える歌が多い。そういう意味でも、25周年を僕たちはうれしく思っています。
──そんな25周年に作り上げたアルバム「QUARTER CENTURY」には、すでにシングルでリリースされている「Days」「この地球(ほし)の続きを」「エンベロープ」に加え、ライブで披露してきた新曲、そして書き下ろしの新曲が収録されています。全体的なイメージは、お二人の中でどんなふうに共有されたんですか?
黒田 アルバムの制作が始まったとき、「この地球(ほし)の続きを」が肝になるでしょうという話になったんです。でも小渕が「25周年を祝いたい」「そういう曲を書くわ」と、ギリギリのタイミングで「RAISE THE ANCHOR」を上げてきた。それで、方向性がドカーンと変わったんです。
小渕 「25周年ってなんや?」というのは、僕らが明確に決めるべきで。そう考えたときに、これは通過点なんだと言いたいと思ったんです。やっとここに来た! ありがとう! やったぜ!って気持ちじゃなくて、スッと次に向かう、25周年の先を見ているという決意を伝えたいなと。「RAISE THE ANCHOR」の歌詞には、旅を始めたときのことや、旅の過程も書いてるけど、それよりもっともっと向こうが見えていることをファンの人に伝えるべきで、それが最大の「ありがとう」にも変わると思った。「そんな先まで見据えて、やりたいことが多い2人の25周年を、私たちは見つめてるんだ」と思ってほしかったんです。
──5年前の20周年でこれまでを細かく振り返ったり、たくさんの思い出を共有したりする機会があったからこそ、25周年では先を見ることができたのかもしれませんね。
小渕 確かに、今おっしゃったようなことを僕は黒田に話したと思います。懐古的な、アーカイブ的な活動というのはもう十分やった。じゃあ25周年で何をやろうねと話をしたら、もう先を見ておくかっていう。ツアーでも、昔よりも未来の話をしている自分たちがステージに立ってたらカッコいいねって。僕たちはまだまだ旅の途中だということを共有して、ファンのみんなも乗組員だったり、隣の船からこっちに手を振ってる人だったりして、一緒に旅をしている……というような絵を、歌の中で描きたかったんです。
──そこからコンテナ船というビジュアルのイメージが生まれたんですね。
小渕 このビジュアルのアイデアが出たとき、まず面白いなと思ったんですけど、撮影の日にハッとしたんですよ。黒田と組んだ頃、僕の家でデモテープを作っていて、近隣住民から「うるさい!」と苦情がすごくて(笑)。そしたら黒田の知り合いのDJさんが「スタジオあるから、そこで録っていいよ」と言ってくれた。で、行ってみたらそこがコンテナだったんですよ。
黒田 コンテナが20個ぐらい並んでて、それぞれ月8000円とかで貸してるところだったんです。そのDJは俺の高校の同級生なんですけど、そこを借りて、紙みたいな材質でできてるタマゴのパックを吸音材として壁に貼って、クーラーを付けて、スタジオにしてたんですよ。
小渕 そんな思い出がワーッとフラッシュバックしました。デザイナーの宮師さんは、その話をまったく知らなかったのにコンテナというアイデアをくれた。しかもそのコンテナで録っていたのが1999年だから、ぴったし25年前なんですよ。
──コンテナに呼ばれましたね(笑)。
黒田 (笑)。
小渕 スタートに立ち返れたようで、うれしかったです。そのコンテナがあったからめちゃくちゃ音を出せて、デモを録ったりできましたから。
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コブクロが旅してきた海の広がる場所