ナタリー PowerPush - 小林太郎
ついに手に入れた「イメージどおりの音」の秘密
小林太郎がニューアルバム「tremolo」をリリースする。昨年7月に発表したミニアルバム「MILESTONE」からわずか半年で届けられる今作には、前作以上にエネルギッシュで生々しいロックナンバーが満載。存在感のある彼の歌声と、遊び心が散りばめられつつもディープな歌詞、そして変幻自在のサウンドはこれまで以上にリスナーを圧倒させることだろう。
前回のインタビューで音楽との向き合い方や表現方法の変化について語った小林。今回のインタビューでは、「tremolo」という自信作を通じてつかんだ確かな手応えについて明かしている。
取材・文 / 西廣智一
イメージを形にするために何をすべきかわかってきた
──ニューアルバム「tremolo」聴きました。今回は「MILESTONE」にあった解放感や突き抜けた感に、より緻密さが加わった印象があります。
ああ、確かに。今回は細かいこだわりみたいなものがすごく増えた気がしますね。
──ちょっとしたフレーズや表現方法が、前作よりも細やかで高度なものに進化している気がしました。よくこの短期間でこれだけの成長を形にできたなと、ちょっと驚きました。
「MILESTONE」からアレンジャーさんに入ってもらってるんですけど、今回はその影響がより濃く表れてるのかもしれないですね。全体的に本当に細かいところまで話し合ったので、だからこそ短期間でより緻密なものが作れたのかも。あとは自分の音楽センスとか才能とはまた違うところで、自分のイメージを形にするために何をしなきゃいけないのかがわかってきたのも大きいと思います。
──それは具体的にはどういったこと?
ミックスの周波数がどうのこうのとか、ここでコンプ(コンプレッサー)をかけなきゃいけないとかいったレコーディング技術の知識ですね。それは2年前の最初のアルバム「Orkonpood」を作るときからそうだったんです。あの頃からずっと勉強しなきゃいけないと思っていて徐々に学んでいったんですけど、ようやく「tremolo」でイメージどおりのものをひねり出すためのスキルが追い付いてきたなと。
「tremolo」の制作で心も強くなったかもしれない
──レコーディング技術に興味を持ったのは、何かきっかけがあったんですか?
「Orkonpood」を作るとき、俺はそういった技術的なことを何も知らなかったから。最初は単にレコーディングすればイメージどおりの音になるだろうと思ってたんだけど、そうはならなかったんですよ(笑)。ひとつとしてならなかった。もう「こんなの俺の曲じゃないよ!」って言いたいぐらい、ひとつとして思いどおりの音に仕上がらなかったんです。それが悔しかったんですね。それからは自分のケツは最低限自分で拭くために、いろいろ勉強しなきゃと思うようになって。もちろんすぐにできるようになるわけじゃないし、その間にもアルバムを出さなきゃいけない。この期間は本当につらかったですね、自分の思いどおりのものができないわけだし。
──頭ではイメージができあがっていても、そこにたどり着くための技術も知識もなかったと。
そうなんです。機材の知識もないから、「このコンプとこのコンプの違いは?」って言われても知らないわけですよ(笑)。そこが「tremolo」でようやくひとつ形になって。このアルバムの制作で、心も強くなったかもしれないですね。レコーディングスタジオに行くと俺が一番年下ですから(笑)。今俺は22歳なんで大学4年生くらいの男が、あの大人だらけの環境の中にポツンといるってことですからね。信じられます?
──年齢関係なく、レコーディングでは周りのスタッフと格闘するわけですもんね。
一番年下だからって別に何も優遇されるわけではないし。それは1枚目の「Orkonpood」のときからずっとそう。だからこそがんばろうって思ってましたね。
「tremolo」=音楽の才能を震わせる器
──アルバムタイトルの「tremolo」も非常にインパクトの強い言葉ですね。このタイトルにはどういう意味が込められているんですか?
音を振幅させて小刻みにビブラートさせる「トレモロ」っていうエフェクターがギターにあるんですけど、そこから取ってます。自分は音楽を振幅させる器であって、自分を通じて別の音楽に作り変えるんじゃなくて、揺らがせたりとかそういう効果を付与する役目なんだと。俺は無意識にそういうことをやってきた気がするんです。自分を小林太郎たらしめているのは、その器の人間性というか器の形。気性が激しいとかそういうことが、俺という器を通すことで音楽に付与されるんです。日常生活ではそういった激しさは出ないけど、音楽では自然に出すことができる。そういうふうに自分を「トレモロ」っていうエフェクターに見立てて、音楽の才能を震わせていく。それこそが小林太郎の音楽なんだろうなと思って、「tremolo」というタイトルにしたんです。
──音楽で表現する激しさっていうのは、普段の生活の中では出ないものなんですか?
俺は全く出ないです。出そうになったとしても出しちゃいけないじゃないですか。絶対に逮捕されちゃうから(笑)。
──あまりやりすぎると、そういうこともありますよね。
日常生活では出さないんだけど、音楽では嫌な気持ちにならないで出せますからね。
──音楽で出すときっていうのは、無意識に出るもの?
そうですね。例えば、演奏するのって純粋に楽しいじゃないですか。楽器を大きな音でドーンと鳴らすともう心も身体も解放されて……すると普段出していない気性の激しさが無意識のうちに出てくる。原始的な感情になるというか、楽しいとか怒ってるとかじゃなくて興奮して瞳孔が開くような。そんなことができるのって、俺にとっては音楽ぐらいしかないかなって思うんです。
──なるほど。
知り合いが犬を飼っていて、俺もよく遊ぶんですよ。目の前でおもちゃを右に、左に、また右にって動かしてると犬は動かす方を向くんですけど、最初は楽しそうなのに途中から夢中になって楽しいのか怒ってるのかわかんない状態になるんですね。顔は完全に怒ってるから「あ、噛み付いてくるかな?」って思ってると噛み付かない。それでもずっと右に、左に、って続けると、それでも犬は同じ行動を繰り返して、こっちがパッと止めると今度は「もっとやって!」って顔で続きを求めてくるんです(笑)。その姿を観て、「あ、こいつ俺と同じだわ」と思って。俺にとっての音楽が、楽しいとか悲しいとかそういう感情を超えて夢中になれるものなんです。犬と同じぐらいの原始的な感情になって楽しめることを、もっとストレートに伝えていきたいですね。
- ミニアルバム「tremolo」/ 2013年1月16日発売 / 2800円STANDING THERE, ROCKS / KICS-1859
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CD収録曲
- frontier
- 答えを消していけ
- 艶花
- 目眩
- 饒舌~interlude~
- ナユタ
- 輪舞曲
- INDUSTRIAL LADY
- 暁
- 愛のうた
- 星わたり
小林太郎 VS Short Tour
- 2013年1月16日(水)埼玉県 西川口Hearts
- <出演者>
小林太郎 / another sunnyday - 2013年1月18日(金)千葉県 千葉LOOK
- <出演者>
小林太郎 / THE NAMPA BOYS / BLUE ENCOUNT - 2013年1月19日(土)東京都 八王子RIPS
- <出演者>
小林太郎 / UNCHAIN
NEW TOWER GENERATION 2013~SPECIAL~
- 2013年1月31日(木)愛知県 名古屋APPOLO THEATER
- <出演者>
小林太郎 / ザ・ビートモーターズ - 2013年2月1日(金)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
- <出演者>
小林太郎 / カラーボトル - 2013年2月8日(金)大阪府 心斎橋Pangea
- <出演者>
小林太郎 / カラーボトル
TOUR2013 “tremolo”
- 2013年3月2日(土)大阪府 梅田Shangri-La
- 2013年3月3日(日)愛知県 名古屋ell.FITS ALL
- 2013年3月9日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
小林太郎(こばやしたろう)
静岡県浜松市生まれのロックシンガー。初音源として、2010年1月にインディーズ1stアルバム「Orkonpood」をタワーレコード限定でリリース。力強いボーカルと洋楽の影響を感じさせる重厚なサウンド、鋭い歌詞で、リスナーから支持を得る。iTunesによる2010年に最も活躍が期待できる新人アーティスト「iTunes JAPAN SOUND OF 2010」にも選出され、2010年4月にはインディーズ1stアルバムが全国発売された。同年夏には「ARABAKI ROCK FEST」「SUMMER SONIC」など、新人としては異例となる16本の大型フェスに出演。10月にインディーズ2ndアルバム「DANCING SHIVA」を発表。翌月から初の全国ワンマンツアー「TOUR 2010 “DANCING SHIVA”」を全国10都市で開催した。2011年夏、新バンド「小林太郎とYE$MAN」を結成し数々の野外フェスに出演。2012年よりソロ活動を再開させ、同年7月に新レーベル「STANDING THERE, ROCKS」からメジャー1stミニアルバム「MILESTONE」をリリースした。翌2013年1月には早くもメジャー1stフルアルバム「tremolo」を発売。リリース日より関東近郊をまわる対バンショートツアー「小林太郎VS Short Tour」、3月から東名阪ワンマンツアー「TOUR2013 “tremolo”」をスタートさせる。