ナタリー PowerPush - 小林太郎
1stアルバム「Orkonpood」全国盤で強烈に“自分”を鳴らす19歳の正体
「一人前だね」って言われるようなことはなんの得にもならない
──ところで、歌詞に関しては自分ではわからないということですけど、曲のタイトルは確信犯なんですか?
「安田さん」とかですか? これはバンドコンテストに出ることが決まったのにまだ曲名がなくて考えてるとき、手伝ってたライブハウスの受付の横に安田美沙子さんのポスターが貼ってあったんですよ。それをずーっと見てたら「かわいい……」と思って。「じゃ『安田さん」で」っていう。無責任な高校生の行動なんですけど(笑)。
──安田美沙子さんがかわいいことと、曲の中身は全く関係ないですよね(笑)。
ないですねぇ。でも、そういう感覚は大事にしていきたいなと思ってて。この曲はもうずっと「安田さん」で。
──自由ですね。
俺、音楽以外のことが全然ダメなんですよ。一応、大人になるんだから仕事もできないといけないし、しっかりしろよって思って、バイトもいろいろしたんですけど、全然無理で。
──バイトレベルでも厳しかった?
無理でした。バイトのために起きるのから始まって、バイトしてるときも、自分の人生を無駄にしてる感じがすごく強くて、全然楽しくなくて。学校もそうだったんですけど、もともとダメな感じの人間なんです(笑)。
──でも、若いときって時間がないような気持ちになって、あと1年で死んじゃうとかでもないのに、妙に焦るからじゃ?
うーん、「もしかしたら死んじゃうかもしれねぇからがんばろう」みたいな感覚というよりは、まぁ、人生一度きりというか……俺、2歳頃にけっこう大きな手術をしてるんです。
──病気でですか?
腸重積症っていう、腸が重なっちゃう病気で。あと30分放置されてたら死んでたかもしれないっていうことがあったんだけど、それで命を拾えたって感じてて。どうせなら自分のしたいように生きたいなぁと思ってるのも強いですね。
──そのときの記憶があるんですか?
いや、ほぼないんですけど、手術室のライトの記憶だけはあります。しかもその後、手術から何日も経ってない俺を、知らない女の子が抱き上げて、縫ったところが全部ぱかーって開いちゃったらしくて。
──ひえーっ!
記憶なくてよかったですよ。ていうか、消したいから消したのかな? って思う。でもまぁ生きてるんで。それで、そういう経験もあったんで、人から「一人前だね」って言われるようなことは自分にとってなんの得にもならないと思ったんですよ。音楽は趣味にして、ちゃんと働いて、1人暮らしして、親に仕送りして。「立派じゃん!」で終わっちゃいますよね? それに、あと50年ぐらいしてどうせ死ぬんだったら、俺は今は音楽だったり自分のしたいことだったりがあるので、それを全力でやりたいなぁ。
いいライブができたときは完璧に開き直ってる
──生きてることが当たり前だと思ってる人とは、自然と違ってきますね。
いや、客観的に「俺、ラッキーだな」と思ってるだけなんですけど(笑)。それよりも、この国に生まれて良かったなと思う。
──へー、なんで?
例えば風邪をひいても、病院行ったら治してもらえるし(笑)、お金を払って買うものは安全なものが多いし。生まれたところにいられるだけでも幸せというか。
──確かに紛争とか内戦とかやってないですけど。
引っ越しても隣の人に挨拶してもしなくてもいい感じだし。「平和すぎない?」っていうか。「ありがとうございます」って感謝してます。
──もっと冷めた10代の部分もあるかと思いきや、違うんですね(笑)。
いえいえいえいえ(笑)。
──小林さんは、いい曲を作って楽しんでもらいたいという気持ちの奥に、人がどう思おうが、まず「自分はこうです!」っていう覚悟がある気がします。
うーん、例えばライブでも「もっとあそこはこうできたんじゃないか?」っていうときもあるんですけど、すごく楽しんでるときもあって。そういうライブができたときは、完璧に俺、開き直ってますね(笑)。誰に何を言われてもイヤな気分にならない。そうやっていいライブしようとか、いい曲書こうとか心がけてがんばってはいるんで、そうやって実感できたときは幸せですね。
「美紗子ちゃん」ビデオクリップ(30秒)
小林太郎(こばやしたろう)
静岡県浜松市生まれの19歳。初音源として、2010年1月13日に1stアルバム「Orkonpood」をタワーレコード限定でリリース。力強いボーカルと洋楽の影響を感じさせる重厚なサウンド、鋭い歌詞で、リスナーから支持を得る。iTunesによる2010年に最も活躍が期待できる新人アーティスト「iTunes JAPAN SOUND OF 2010」にも選出された。
2010年4月14日には1stアルバムが全国発売開始。「ARABAKI ROCK FEST.10」「SUMMER SONIC 2010」などの大型フェスティバルにも参加が決定している。