小林愛香×Q-MHz田代智一|カジュアルなあいきゃんで魅せる1stアルバム

小林愛香の1stアルバム「Gradation Collection」がリリースされた。

小林は2015年よりスクールアイドルプロジェクト「ラブライブ!サンシャイン!!」の津島善子役を務め、劇中ユニット・Aqoursのメンバーとしても活動。2020年2月にはシングル「NO LIFE CODE」にてソロでメジャーデビューを果たした。

彼女が最高の仕上がりだと語る「Gradation Collection」では、メジャーデビューから楽曲作りに携わってきた田代智一(Q-MHz)がサウンドプロデュースを手がけ、こだまさおり、須藤優(XIIX)、佐伯youthK、詩人の文月悠光といった多彩な作家陣が参加している。アルバムのタイトル「Gradation Collection」は、デビューから“グラデーション”“ボーダレス”をテーマに何事にも縛られず自由に歌唱してきた小林が名付けたものだ。

音楽ナタリーでは1stアルバムの発売を記念して小林と田代にインタビュー。「Gradation Collection」の制作エピソードはもちろん、田代が小林のプロデュースを始めたきっかけ、小林の豊かな歌唱表現の秘密について話を聞いた。

取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 山崎玲士

声優のお仕事には本当に感謝しています

──昨年2月リリースのメジャーデビューシングル「NO LIFE CODE」から一貫して田代さんがサウンドプロデュースを手がけていますが、そもそもこのタッグはどういう始まりだったんですか?

田代智一(Q-MHz) 最初はトイズファクトリーさんのほうから「こういうシンガーがいるんだけど、田代くんどう?」というお話をいただいて。あいきゃん(小林)とはそれ以前にも軽く挨拶程度はしたことがあったし、「もちろんやります」と。

小林愛香 新年会でお会いしたんですよね。

田代 音楽家とか業界人が集まる大きな新年会みたいなのがあって。そのときは「ああ、こんにちは」くらいの感じで終わったんですけど(笑)。

──最初から総合的なアーティストプロデュースを、というお話だったんですか?

田代 どうだったんだろう? たぶん「NO LIFE CODE」のときは先々の予定が全部決まっていたわけではなくて、さらにその後コロナ禍に入ったことでより先行きがわからなくなって。だから、計画的にここまで来たというよりは、その都度「次は何ができるだろう」と判断しながら走ってきた感じですよね。

小林 私自身、Q-MHzさんの作る楽曲の世界観がすごく好きでしたし。Q-MHzさんの曲は、体が勝手に動き出してしまうようなノリのいい感じとか、いろいろな楽器が聞こえてきて、それぞれの楽器が熱を持って歌っているようで魂を感じるところが好きです。「ライブで聴きたいな」と思える、ライブ映えする曲が多いイメージがあります。それを小林愛香として歌えるのがすごくうれしくて。

──田代さんは当初、小林さんをどういうボーカリストだと感じました?

田代 以前にインディーズで出していた曲も聴かせていただいていたので、「パワフルなロックとかは合いそうだな」というイメージは持っていました。でも、やっていくうちに「もっといろんな面を見てみたいな」と思うようになって、「NO LIFE CODE」のときにカップリング曲「ゆらゆらら」でちょっと毛色の違うものを試してみたんです。それがうまくいったので、調子に乗ってじゃないですけど(笑)、今回のアルバムでも、いろんなことをやってもらおうと。もちろん、意図的に「これはたぶん向いてないだろうな」というものを外したりはしているんですが……。

左から小林愛香、田代智一(Q-MHz)。

──ちなみに、どんなものを?

田代 メタルとかですね。できるかできないかで言えば全然できると思うんですが、今の時点で“メタルシンガー”のイメージが付いちゃうのも違うなっていうか(笑)。

小林 うふふふ。

田代 バリエーションを出しながらも、小林愛香としてのカラーはちゃんとまとまりがあるように、というのは意識しています。「よくこれだけいろんなことができるな」と毎回感心していますね。

小林 もともと私としては、クールな歌とか切ない歌、色で言うとブルー系の感情しか自分には歌えないと思い込んでいたんです。でも、声優としてのお仕事をさせていただくようになってから「意外と明るい曲も歌えるんだな」ということに気付いて。それまで知らなかった自分をどんどん知っていくような感覚があって、自分の声も好きになれたし、歌えないと決めつけていた歌も歌えるようになっていきました。

──自分でも見えていなかったシンガーとしてのポテンシャルを、ヨハネ(「ラブライブ!サンシャイン!!」で小林が演じるキャラクター・津島善子が自称する名前)が気付かせてくれたというか。

小林愛香

小林 そうですね(笑)。ヨハネには本当に感謝しています。

──いろいろな表現ができるタイプのシンガーであることは間違いないと思うんですけども、アーティスト・小林愛香のサウンドイメージとしてはパワーポップ系が軸になっていますよね。これを軸にするというのは、どなたの意思なんですか?

田代 どなたの意思なんでしょうね(笑)。

小林 気付いたらそういう軸になっていた気がします。

田代 当初は世の中がこんなふうになることを想定していなかったので、ライブでたくさんの曲を歌うようなアーティスト像をゴールに設定していたんですよ。その影響かもしれないですね。お客さんとコール&レスポンスをしたり、思わず腕を上げたくなる感じとか、ライブでの役割がきちんとある曲を作っていこうとした結果、こうなっているのかもしれません。

──メジャーデビュー後の作品では本当にいろんなタイプの楽曲を歌いこなしていて、どの路線を軸にしても成立するんじゃないかというくらい全部に適性があるなと感じました。だからこそ逆に、1つの路線を軸に定めるのは難しそうだなと思ったんですよね。

田代 いや、本当にそうなんですよね。例えばシングルのカップリングには必ずおしゃれっぽい曲を挟むようにしてるんですけど、そっちを主軸にすることも全然できる。ただ、あんまり“おしゃれシンガー”みたいになりすぎちゃっても、それはそれでもったいないなと。気取ってる雰囲気が出るのも嫌だし、本人がすごく飄々と風のように生きている人なので……。

小林 (笑)。

田代 その感じを残したいなと思って。勢いのある元気な曲が表に出てはいるけど、「2曲目ではそっちに振り切れちゃうんだ?」みたいな、どこにでも顔を出せてしまうような飄々とした感じが軸になればいいなと。そういうカジュアル感があいきゃんっぽいのかなとは感じますね。

──まさにアルバムの作りもそうなっていますね。要所要所でパワーポップ系が柱になっていながら、間にいろんな具材がしれっと挟まっているみたいな。そういうアルバムとして作ろうというテーマだったわけですね。

田代 そうです。僕はそう思ってやってましたけど……(小林に)大丈夫ですか?

小林 いろいろと知れてうれしいです(笑)。

発言には責任を持とうと思いました

──では、アルバム「Gradation Collection」について伺います。「たたたんばりんりずむ」では小林さんが作詞を手がけていますが、これはどういう流れで?

小林 以前、田代さんに「あいきゃん、何か楽器できる?」と聞かれたときに「タンバリンならできるかもしれません」と軽い気持ちで答えたことがあるんですけど、それが拾われてしまって(笑)。「じゃあタンバリンの曲、作るわ」みたいな。

田代 本人にタンバリンを叩いてもらうことが前提の曲です。

小林 発言には責任を持とうと思いました(笑)。そこから、アルバムを出すのであれば自分で作詞した曲もあるといいよねっていうことで、じゃあこれをと。

──タンバリンのリズムを鼓動に見立てて、恋のワクワクを歌う内容になっていますね。

小林 歌詞がタンバリンとつながらなければタンバリンが鳴ってる意味がないなと思って、「どうやってタンバリンとつなげよう?」というところから考えていきました。それで、心が躍り出すようなイメージで、心臓の音だったり、タンタン足踏みしたくなるような気持ちをタンバリンの音に例えて、恋の歌を書いてみてもいいのかなと。自分でストーリーを決めて、その主人公になりきって物語を進めていきながら書いていきました。

左から小林愛香、田代智一(Q-MHz)。

──スムーズに書けました?

小林 ある程度できた段階で田代さんに提出するんですけど、毎回赤くなって返ってくるんですよ。丁寧に添削してくださるんです。

田代 最初のバージョンだと、確か2番くらいですでにオチが来てたんだよね。

小林 そうです。で、「ここはまだ恋に気付いていない段階にしよう」と。

──歌詞としては成立していたかもしれないけど、流れで見たときに「これはまだここで歌うべきことじゃない」みたいな?

田代 そうですね。間奏の前に結論が出ちゃっていたから、そうなると最後にもう1個どんでん返しがないとストーリーが間延びしちゃうんで。

小林 勉強になりましたね。

──実際に言葉を選ぶとき、何か気を付けていることはありますか?

小林 これは恋のかわいい感じを表現したかったので、ひらがなを多くしたり、「やだやだ」「どきどき」のような繰り返す言葉を意識的に入れました。字面にはけっこうこだわるタイプで。

田代 「あーもう」の伸ばし棒とか、「なんかさぁ」の小さい「ぁ」とかもいいよね。

──なるほど。個人的には、歌うときの音の響きにもかなり気を遣っている作詞家という印象があります。田代さんとの共作詞だった「Lorem Ipsum」(2021年1月発売のシングル「Tough Heart」カップリング曲)にしても、かなり響き重視の歌詞という感じがしますし。

小林 歌いながら「これが合うかな?」って思いながらやっているからですかね。口がちゃんと動く音というか……。「Lorem Ipsum」は私がキーワードをたくさん送って田代さんにまとめていただく形だったんですけど、送ろうとしていた単語が全部“る”で終わることに気付いて、「これはもう全部“る”終わりに統一しよう」と思って。

──そのエピソードからも、やはり響きというものにすごく敏感な方なんだろうなという感じがします。

小林 そうなんですかね。もしかしたらそうなのかもしれません(笑)。確かに、アルバムタイトルの「Gradation Collection」も自分で付けたんですけど、完全に韻を踏んでますしね。字面も込みでいいなと思いました。