今一番いいと思ったものを積み重ねていく
──「Knockdown」から新曲「コンサートホール」までの楽曲を聴いていて、良質な音楽を届けるということに対する気迫のようなものを感じたんですよ。そのあたりはどう考えてますか?
おっしゃる通り、今一番いいと思ったものを積み重ねていくっていうのは意識しているかもしれないです。そのときそのときに自分がいいと思ったものをアウトプットして、その延長線上でアルバムが完成したらいいなというか。あと「良質」というふうに表現していただきましたけど、音作りに関してもプログラミングであろうが生楽器であろうが、2021年に出す音楽として時代にマッチした音じゃないといけないと思っていて。なのでサウンドメイクはとても慎重に進めていますね。
──音作りに関して言うと、「清竜人週間CDランキング批評」の経験が生きているのかなとも思いました。いろんな音楽を聞いたうえで「自分ならばこうする」と清さん自身が考える上質な音楽をアウトプットしようとしているような。
ランキング批評をやってみて、トラックダウンのバランス感や音作りのトレンド感みたいなものは確かに勉強になりましたね。セールスの規模にかかわらず、いいと思う作品もあれば逆にバランスの悪い作品もあって、そのあたりも含めて今のトレンドを把握しておくのは大事だなと再認識しました。そう考えると確かに自分の修練に反映されている部分はあるかもしれない。
──ちなみに良質・上質な音楽に対して、その逆の音楽ってなんだと思います?
うーん、難しいですね。ちょっと専門的な話になりますけど、例えば音楽の帯域の整理とか、コンプレッションを含めた音自体の作り方はテクノロジーの進化によってできることが増えてきていると思うんですよ。そういった技術を使いこなせていない、時代に追いついていないのが“上質ではない音楽”なのかなと。ミュージシャンもそうですけど、携わるエンジニアもバージョンアップが必要というか、それができるか否かが音楽の良し悪しを大きく左右するんじゃないかなと思います。ミキシングやマイキング1つとってもその時代のトレンドがあるので、そのあたりを意識的にやっている人は音に表れていると思う。単純にサブスクで聴く分には差をあまり感じないかもしれないけど、環境を整えて繊細な聴き方をすると大きく差が出るってことは往々にしてあるから、そういった部分にもこだわっていきたいとは思いますね。
シンプルに見せかけてテクニカルな「コンサートホール」
──ここからは最新曲「コンサートホール」についてお聞きします。テレビ東京系で放送中のドラマ「スナック キズツキ」のオープニングテーマですが、主演の原田知世さんについてはどういう印象をお持ちですか?
僕は1989年生まれなので世代ではないんですけど、「ロマンス」(1997年発売のシングル。スウェーデンの音楽プロデューサー、トーレ・ヨハンソンのプロデュースで話題を呼んだ)はよく聴いてました。彼女は女優としてだけでなくミュージシャンとしても活躍していますよね。その立ち位置というか、例えばほかの女優さんが歌手デビューするのとは話が違う気がするんですよ。女優とミュージシャンをうまいバランスで両立しているパイオニアのイメージがあります。
──ドラマは家庭や職場、恋人との関係に傷付いた登場人物たちがアルコール類を置いていないスナック「スナック キズツキ」を訪れるというストーリーですが、登場人物それぞれが抱える不安や悩みを優しく包みつつ、登場人物が突然歌い出すという奇抜な設定もあるこのドラマに対し、「コンサートホール」はタイアップ仕事を完全に全うしてるなと感じました。
ありがとうございます(笑)。
──歌詞はドラマの世界観にドンピシャにハマってますが、これはどのように作っていったんですか?
これ、けっこう苦労したんですよ。企画書から読み取ったドラマのイメージだと、僕はアルバムの中の1曲的というか、ちょっと洒脱な肩に力の入ってない楽曲の方が世界観に合うだろうなと思ったんですね。とはいえタイアップ案件だからシングルになるじゃないですか。力を抜いた感じにはしたいんだけど、シングルっぽさも出さないといけない。だからドラマのことだけ考えるのではなく、清竜人のシングルとしても成立させなきゃいけない、そのバランスはすごく考えました。
──その「シングルっぽさ」ってどんなものだと思います?
構成もそうですし、楽器編成とかいろんな要素が合わさることで生まれるのかなと思います。「コンサートホール」の場合、リズムがループするシンプルな構成にしているんですね。これもシングルっぽさという意味で言うと、1A、1B、サビのストーリー作りにもう少しギミックがあったり、しっかりとお膳立てしたうえでサビを迎える方がわかりやすい。でも、そうしちゃうと曲自体が派手になるから「スナック キズツキ」の世界観には合わなくなるんです。
──テレビ東京の金曜深夜枠のドラマはそこが大事というか、少し変わった内容だけど最終的に気持ちがホッとする作品が多いんですよね。ゴールデンタイム的な華やかさを求めない、1週間働いて疲れが溜まってるサラリーマンやOLにホッとしてほしい枠というか。それも込みで「コンサートホール」は「スナック キズツキ」とシンクロする部分があるなと感じました。
ああ、それはよかった。
──でも、力を抜いたシンプルなアレンジのようでいて、細かいところまでゴリゴリに凝った作りですよね。
そういうふうに聴いてもらえるのはうれしいですね(笑)。おっしゃる通りシンプルに聞こえるんですけど、カバーするのはめちゃくちゃ難しいと思います。ギターのテクニカルな部分なども含めて、パッと聴きはシンプルなんだけど、実際に解析していくと複雑な立て付けになっていて。そのあたりは音楽玄人の方にも楽しんで聴いてもらえるように意識しました。
──音数を絞りつつきれいに進行していく展開もお見事だなと。ミックスにも相当こだわっているのかなと思いました。
ミックスに関してはエンジニアさんといろいろディスカッションしました。これからの時代、エンジニアの選定というのもすごく大事になってくるんじゃないかなと思いますね。エンジニアって個性も技量もバラバラなので、そこのセレクトを間違うと楽曲が想定と全然違うものになることは往々にしてある。音数を少なくシンプルにする傾向にあるからこそ、ミックスが難しい時代でもあると思うので、制作のチーム編成の大切さも痛感してます。
音楽を作るのはしんどい
──新しいアルバムを制作中とのことですが、作品全体の形は見えてきてますか?
だいぶ見えてきました。僕的には次にシングルで出す予定の楽曲が、ここ最近作った作品の中で一番いいなと思っていて。このタイミングで自分自身が自信を持って発表できる楽曲を作れたのは大きいし、アルバム完成までの景色がよりクリアになった気がします。その曲は年内もしくは年明けにはお届けできるかなと。
──おお。その手応えというのは、ここ数年の活動で感じていた感覚とは違いますか?
そうですね。ここ数年は楽曲のメロディラインや歌詞などいわゆるミニマムな面での評価ではなくて、トータルの世界観やビジュアルイメージも含めての点数を意識していたので。今回ひさしぶりにソロワークスに着手してみて、楽曲において重要なメロディと歌詞という二大要素を見つめ直すモードになってきている中で、すごく手応えのある1曲が作れたことは大きいです。
──お話を聞いていると次のアルバムが非常に楽しみです。
いい曲を1曲1曲積み重ねていけたらいいかなと思います。あと、次のアルバムは個人的に通過点の意味合いが強くて。もちろんいい作品にしようとは思っているんですけど、これからアルバムを2枚、3枚と出す過程で少しずつスケールアップしていければいいかなと。なので次に出すアルバムは、ライブの動員数やCDの売上枚数も含め、ビジネスとしても、アーティストとしてもスケールを大きくしていくための第一歩と位置付けています。そのためにも何か意義のある作品にしたいですね。
──その言葉は頼もしくもあり、意外にも感じます。ちょっと前までは、アルバム出すたびに「俺はもうこれで終わりでいい」と言ってましたよね?(笑)
辞める辞める詐欺みたいな感じでしたね(笑)。
──今はそういう感覚はまったくない?
今はないですけど、アルバムをリリースしたあとにはまた言ってるかもしれないですね(笑)。キャリアでいうと13年目なんですけど、こんなに詞と曲に真面目に向き合う時間って本当になかったんですよ。ここ数年はエンタメ要素が強くて、もちろん楽曲が中心にあるんだけど、それ以外の部分も含めてアートを作るという発想でやっていたので、制作に対してのストレスは感じたことがなくて。最近はいい曲と歌詞を作るというのがまず大前提としてあるので、音楽作るのはしんどいなと思うこともあります。
──曲が湯水のように湧き出るタイプのように見えていたから、そうやって悩みながらの制作している清さんもいいですね。
本当にひさしぶりなんですよ。まったくのストレスフリーで音楽やってたので。
──今感じているストレスは楽しめてますか?
そうですね、いい意味のストレスなのかなと。今まではストレスを感じないように立ち回っていたし、時間をかけたからといっていい曲ができるわけじゃないという発想だったんですよ。それは今でも大事だと思っているんですけど、時間をかけたからこそできる曲もあるなと再確認しているところです。
──そのほかのホットなニュースだと、ご自身のTwitterで来年春に弾き語りツアーの開催を匂わせていましたけど、予定は決まってるんですか?
ツアーはやることになると思います。有観客ライブは2年半ぶりになるんですけど、2年半前と言ってもやったのが「KIYOSHI RYUJIN MUSIC SHOW 2019」(参照:りゅうじんくん10変化!清竜人、7年ぶりの「MUSIC SHOW」)なので(笑)、いわゆる音楽ライブとして考えるともっと長い期間やってないんですよ。弾き語りのツアーだと最後にやったのが4年前かな(参照:清竜人、静寂のホールに歌とピアノを響かせるソロ組曲)。なので、このタイミングでひさびさに弾き語りでツアーを回りたいなと思っています。
プロフィール
清竜人(キヨシリュウジン)
1989年生まれ、大阪府出身のシンガーソングライター。15歳でギターを手にし、作曲を始める。16歳のときには早くも自主制作盤を発表し、そのクオリティの高さが音楽関係者の間で話題となった。映画「僕の彼女はサイボーグ」への挿入歌提供を経て、2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。その後もシングル、アルバムを精力的にリリースし、2014年9月から2017年6月にかけては“一夫多妻制”アイドルユニット・清 竜人25として活動。およそ3年におよぶプロジェクトで6枚のシングルと2枚のアルバム、合計31曲のオリジナルソングを作り上げた。清 竜人25と並行し、2016年12月に立ち上げたプロジェクト・TOWNでは「演者と観客との境界線を取り払う」というコンセプトのもと、公募によるメンバーや観客を巻き込んでのライブを敢行し、合計12回のライブをもって2017年7月に解散。同年12月にピアノ弾き語りツアー「KIYOSHI RYUJIN SOLO TOUR」でソロ活動を再開した。2018年にはキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSに移籍し、7月に「平成の男」、11月に「目が醒めるまで」と2枚のシングルを発表。2019年5月、新元号「令和」が施行される1日にニューアルバム「REIWA」をリリースした。2021年3月にソニー・ミュージックレーベルズへ移籍。11月にテレビ東京系ドラマ「スナック キズツキ」のオープニングテーマ「コンサートホール」を配信リリースした。
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