ナタリー PowerPush - 清竜人
ありふれた日常が愛おしくなる 生活密着アルバム「PEOPLE」誕生
希望も絶望も、喜びも憎しみも、美しさも醜さも、すべて矛盾は矛盾のままあらわにした前作「WORLD」で、清竜人は勇気を手にしたのだろう。その力が、この世界に存在しているあらゆる命や出来事にまぶしい光をあてる……「ありふれたものや ありきたりなことって きっと 大切だからこそ ありふれてるんだよ」(4曲目「パパ&ママ愛してるよ!」より)。それは逆説ではない。シニシズムでもない。アウトサイドをよしとするメンタリティを持った若者が、ときには壁にぶつかりながら、アーティストとして新しい挑戦を続けてきて実感した“普通で本当のこと”。
ちなみにこの取材を行っている真っ最中に東日本大震災が起こった。彼が歌を書いた動機とは直接関係ないのだが、人と人のつながりや命について考えるとき、この「PEOPLE」がより真実味をもって聴こえてくるのもまた、事実だと思う。
取材・文/石角友香
前から大衆性を持った作品を作る予感がしてた
──ものすごくエモーショナルなアルバムになりましたね。
そうですね。あの……メッセージみたいなものは、今までよりも込められた印象はあります。
──去年のシングル「痛いよ」あたりから、清竜人っていう人の人格がすごく表に出てきた感じがあって。今作も、赤裸々な内容だった「WORLD」と地続きな印象があるんですよ。清さんの中で、今回のアルバムを作る前の精神状態はどんなものでしたか?
1枚アルバムを出し終えると、自分の気持ちみたいなものを歌詞にして絡めて放出するからだと思うんですけど、いつも虚脱感に襲われて。そのあとの自分の性格や人格がすごく変化するような気がするんです。それは1stの「PHILOSOPHY」も2ndの「WORLD」も同じで。「WORLD」から今回の「PEOPLE」に向けては、すごく前向きな変化があったというか……世の中的に見て良い変化だったというか。自分の中で「あ、次はある種、大衆性を持った作品を作ろうとするんじゃないか、作れるんじゃないか」っていう気持ちになって。今回のアルバムはそういう意味でポップで、大衆性を持ったものを作ったイメージがあります。
──世の中的に見て良い変化ってどういうことですか?
2ndアルバムまでは、ある種、マイノリティグループに向けてメッセージを発してたというか。自分の中では暗闇の中で暗闇に向けて発してたようなイメージがあって。それがちょっと明るい光のあるところに出れたかなってイメージなんですけれど(笑)。それは自分の中では良い変化だったかな、と。
──それは「WORLD」を作り終えて、「WORLD」に教えてもらった感じですか?
その時期に何があったのかは覚えてはないんですけど……自分の言いたいことを言ったり、歌ったりして、妙に納得したというか。そういう達成感や充足感みたいなものが生まれたことによって、視野が広がったのかもしれないです。それこそ、人とも接せれるようになったし、お仕事もできるようになったし。生活のあらゆるものが、今までと違う感覚で営めるようになったというか。それこそ今年、数年ぶりに初詣に行ったんですけど。
──(笑)。中学生以来ぐらい?
いや、もう覚えてないぐらいで。そんな変化がありましたね。今まではそれこそ成人式も出なかったし。別に出たくなくて出なかったワケじゃないんですけど。今までしてこなかった世の行事みたいなものをちょっと重んじるようになったかな、っていう変化がありました。
──時間を大事に使うようになったのかもしれませんね。
あぁ、そうですね。それはあるかもしれないです。
2ndアルバムまでは自分のことに夢中だった
──当たり前のことをなぜやるのか、腑に落ちるときってありますよね。それこそ今回の曲にも出てきますけど。
そうですね。それをすごく痛感したというか。なんていうのかな……あんまり世間とかかわらない思春期を過ごしてたんで。特に東京に出てきてから、すごく無関心だったほうなので……去年、急にこう思うところがあって、良かったなぁと思うんですけど。
──当たり前のことが無意味じゃないと思える経験があったんですか?
2ndアルバムの頃までは、自分の人生だとか自分の生活だとかに夢中で。良くも悪くもなんですけど。ちょっと排他的な思想や反骨心を持ってたんです。でも今回はそういうのが一切なくなって。たぶん2ndアルバムをリリースして、今まで見てたものとか考えてたものが広がったというか。今まで視野が35度ぐらいの広さしかなかったのが、急に325度ぐらい見えるようになったような(笑)。そういう変化があって、21歳なりの等身大の姿みたいなものを描けたかなっていう。とはいえ、やっぱりまだ21歳で、自分が325度見れてると思ってるのも、ホントは42度になったぐらいだとも感じているので(笑)。
──うん(笑)。
でもその7度広がったことは自分の中で大きな変化だったんです。
──清さんの1stアルバムには排他的なものは感じませんけど、あえて排他的な感情を出さないことで、あの透明感が保たれていたのかもしれないですね。
あ、そうかもしれないですね。一種の反抗期と同じようなものだと思うんですけれど、別にそこに哲学があるから反抗してるワケじゃなくて、人が誰でも通る道というか。たぶん、それが自分は表に出るタイプではないので、露骨には出てなかったかもしれないです。でも、1枚目のアルバムはそういう時期に作ったのかなって、今は思います。
CD収録曲
- ぼくらはつながってるんだな
- プリーズリピートアフターミー
- ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
- パパ&ママ愛してるよ!
- おとなとこどものチャララ・ララ
- がきんちょのうた
- ぼくが死んでしまっても
- イザベラ
- きみはディスティニーズガール
- うつくしい
- ホモ・サピエンスはうたを歌う
初回限定盤DVD収録内容
- Morning Sun
- ジョン・L・フライの嘘
- ヘルプミーヘルプミーヘルプミー
- 痛いよ
- ぼくらはつながってるんだな
- プリーズリピートアフターミー
- ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
清竜人(きよしりゅうじん)
1989年生まれ、大阪府出身の男性シンガーソングライター。15歳でギターを手にし、作曲を始める。16歳のときには早くも自主制作盤を発表。そのクオリティの高さが音楽関係者の間で話題となる。2006年には「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2006」でグランプリを受賞し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2006」に出演を果たす。映画「僕の彼女はサイボーグ」への挿入歌提供を経て、2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。同曲はau Smart SportsのCMソングに起用され、スモーキーな歌声とみずみずしいメロディがメディアやお茶の間の注目を集めた。同月発表の1stアルバム「PHILOSOPHY」では、自身の持つ音楽性の幅広さを証明した。その後もシングル、アルバムを精力的に発表し、ライブツアーも定期的に開催。情感豊かなサウンドが幅広く支持されている。