Kitri|第1章を締めくくり、新しい世界へ

姉のMonaと妹のHinaによるピアノ連弾ボーカルユニットのKitriが、初のフルアルバム「Kitrist」を1月29日にリリースする。奥ゆかしい雰囲気をまとう姉妹が歌と鍵盤で紡ぐ物語は美しく静謐で、どこかミステリアス。彼女たちの才能を早くから見抜き、デビュー前からサポートしてきた大橋トリオをプロデューサーに迎えた本作は、その魅力が11曲に凝縮されている。

音楽ナタリーではKitriの2人にインタビューを行い、それぞれの音楽人生や姉妹ユニットならではのエピソード、アルバムに込めた思いなどを聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子 撮影 / 草場雄介

どちらもなくてはならない存在として、1つの音楽の中にあればいい

──以前音楽ナタリーで公開されたフジファブリックの金澤ダイスケさんとの対談、興味深く読みました(参照:「Coming Next Artists」シーズン2 キュレーター対談 第6回 Kitri×金澤ダイスケ)。Monaさんはこれまでピアノ一筋だったんですね。

Mona はい、大学までずっと。受験勉強として音楽理論を学び始めたらコードがわかってきて、「これなら曲が作れるかも」と思って簡単な曲作りを始めたことが今につながっています。

──クラシックピアノの練習ってストイックだし、孤独なときもありますよね?

Mona そうなんです、ホントに孤独です(笑)。部屋にこもってひたすら楽譜と向き合って、弾いては改善しての繰り返しで……それは一見静かな作業なんですけど、実は頭の中はめちゃくちゃ忙しくて、朝から夜までピアノのことを考えていました。そんなふうに1人でピアノと向き合ってきたんですけど、Hinaが小学生、私が中学生のときに「サーカス組曲」という小品を連弾する機会があって。そのときに姉妹で息を合わせて作り上げていく喜びを感じて、「ピアノでもこんなに青春できるんだ!」って思いました。

──Hinaさんも幼い頃からピアノを習っていたんですよね。

Hina

Hina はい。ただ中学生のときに合唱を始めて、合唱部が強い高校に行きたくなって、受験勉強に専念するためにピアノは一度やめました。その後は趣味で続けていて、合唱曲の伴奏を弾いたりする機会はあったんですけど、作曲を始めた姉にピアノ連弾ユニットをやろうと誘われて、私もやってみたいと思ったので、また改めて一緒にピアノの練習をするようになったんです。

──Hinaさんは合唱のどこに惹かれていたのでしょう?

Hina もともと歌が好きで、家でもよく姉とハモって遊んでいたんです。人と声を重ねるのがすごく面白くて、自分1人じゃ絶対できない音楽を作れるのが魅力的だなと思って、どんどんのめり込んでいきました。

──Kitriの音楽も、ハーモニーが重要な要素になっていると思います。

Hina 確かに。合唱は周りの人と連携して呼吸を合わせることがホントに大事で、それは今のKitriにすごくつながっていますね。

Mona KitriではMonaがボーカル、Hinaがコーラスという(パート分けの)名前を付けているんですけど、どちらもなくてはならない存在として1つの音楽の中にあればいいなと思うんです。

──Monaさんは1人でピアノを、Hinaさんは人の輪の中でハーモニーを追求してきた。近いようでまったく別の道を歩んできた2人なんですね。

MonaHina そうなんです。

──では、プロの音楽家になることを考えたのはいつ頃ですか?

Mona 私は音楽で生きていきたいと中学生のときからずっと考えていて。音楽以外は考えられないと思っていました。

──それは表現者として?

Mona いえ、最初は表現者になりたいとかではなくて、ときにはピアニストになりたくなったり、ピアノの先生をやってみたくなったり。まさか歌手になれるとは思ってもみなかったですけど……自分の中でいろんな道を探っているときに、隣にいるHinaとの連弾を思い出して、姉妹2人でピアノ連弾で歌ったら面白いことができるんじゃないかなと思って、そこで初めて表現者になりたいと思ったんです。昔から物語を書いたり、絵を描いたり、自分でアイデアを出して何かを作ることにすごく興味があったし。

Hina 私はそれを子供の頃から見ていて、Monaの書く物語は面白いなあと思っていました。

──Hinaさんは、Monaさんの最初の読者だったんですね。

Mona Hinaは私にとって、ずっと貴重なアドバイスをくれる存在です。でもまさか2人でこうしてユニットをやって曲を発表するとは想像もしていなくて。自分で言い出したことなんですけど、実際にHinaを誘うまで、自分1人の頭の中だけで思い描く秘密ごとみたいな感じだったので。人に聴いていただけるようになるとは思ってもみませんでした。

──Monaさんの中にはKitriを始める前から脈々と息づくイメージがあったわけですね。

Mona そうですね、誰かに発信したくて作ったというより、空想を楽しむうちに生まれたいくつもの物語がありました。それをHinaと2人で曲にして、プロデューサーの大橋トリオさんをはじめスタッフの皆さんに関わっていただく中で、頭の中のものが形になっていったという感じです。

一緒に新しい世界に進んでいけたら

──そして2019年にデビューが決まり、自己紹介的な2枚のミニアルバムを経て、今回初のフルアルバム「Kitrist」が完成しました。

Mona

Mona はい、「Primo」「Secondo」の2作があって、今回のアルバムが私たちの第1章を締めくくる作品になったと思っています。

──インスト曲「overture」で始まり、次の「Akari」で電車の音が聞こえてくる。ここからどこかへ行くんだな、という物語を感じました。

Mona そうなんです、この流れがとても気に入ってます。Kitriを聴いてくださる方も一緒に新しい世界に進んでいけたらいいなと思って。電車の音は超常現象というユニットに入れていただきました。

──「Akari」はアルバムの中で唯一、プロデューサーの大橋トリオさんがピアノを弾かれているんですよね。

Mona この曲はレコーディングのギリギリまでピアノアレンジを考えていて、ホントにこれでいいかなと迷っていたんですけど、休憩時間に大橋さんがピアノをポロポロと弾き始めて、それが「Akari」のピアノをアドリブでアレンジしたものだったんです。それを聴いた瞬間に、「これはすごい、大橋トリオさんならではのピアノだなあ」と思って。厚かましいとは思いつつも、緊張しながら「あの大橋さん、もしよろしければ、本番でもピアノ弾いていただいてもいいですか?」と勇気を出してお願いしたところ、「僕でいいんですか?」とおっしゃっていただいて。

──なんて丁寧なやり取りなんでしょう(笑)。

Mona いや、もう本当に恐れ多かったんですけど、快く引き受けていただいて、大橋さんはさらにベースとマンドリンも入れてくださいました。ピアノアレンジは大橋さんならではのジャジーさもありつつ、私たちが考えていたフレーズをモチーフに使ってくださったりと、粋な演奏をしてくださって。とってもお気に入りの曲になりました。