キタニタツヤ|異色のシンガーソングライター、7つのキーワードでその思考を暴く

6扇動

──新作ミニアルバムのタイトルに“煽動”を意味する「DEMAGOG」という言葉を選んだのはどうしてですか?

このアルバムは、日常や社会の中にある嫌なことをたくさん切り取った作品なんです。嫌なことって、実は誰とも共有できないと思っていて。「こんなことがあってさ」と話すことはできるし、「わかる」と言ってもらえることもあるけど、両者の中にある“嫌なこと”の本質は似ているようで違うし、自分で解決するしかない。自分の弱さを指摘して「立ち上がれよ」と煽動してくれる人がいればいいけど、そういう人もいない。つまり最後は自分でなんとかするしかないし、自分で自分を煽動してほしいという気持ちも込めてますね、「DEMAGOG」というタイトルには。

──アルバムには“悪い夢”という歌詞が何度か出てきます。「悪夢」という曲も入っていて。

社会的なこともあれば個人的なこともあるので、1曲1曲、描かれている嫌なことの種類は違うんですけど、それらのすべては悪い夢のようだなと。ただ、夢の中に逃げ込んでいてはダメで、やっぱり現実に立ち向かわないといけないんですよ。このアルバムを聴いて、悪夢から覚めるというか、「危ない危ない。なんとかしないと」と思ってもらえたらいいなという気持ちもあります。

──音楽には人に何かを気付かせたり、行動に影響を与える力があると?

そう思っているからこそ、こういうアルバムを作ったんですよ。僕自身、よくも悪くも音楽の影響をすごく受けていて、いい音楽を聴けば一気に気分がよくなるし、そうじゃない音楽を聴くと嫌な気持ちになる。そういうパワーを信じているんですよね。音楽を作ることって、突き詰めると自分の楽しみなんですよ。自分がいいと思えればOKというところもあるんだけど、せっかくリリースするんだから、聴いてくれた人に喜んでもらったり、何かに気付くきっかけになってもらえたらなって。

──ダークファンタジー系のエンタテインメントとして成立しているところも、「DEMAGOG」のよさだと思います。

ああ、本当ですか。できあがったときは、説教臭いアルバムになってないかなとちょっと心配になったんですよ。音楽として楽しんでもらいたい気持ちもあるし、そういう作品になっていたらうれしいです。

キタニタツヤ

7サウンドメイク

──「DEMAGOG」の制作にあたって、音楽的にはどのようなテーマがあったんですか?

前回のミニアルバム「Seven Girls' H(e)avens」(2019年9月発売)はファンク、ダンスミュージックの曲が中心で、それも楽しかったんですけど、今回は原点回帰というか、ロックをやりたかったんです。最初のアルバム「I DO (NOT) LOVE YOU.」(2018年9月発売)は完全にロックだったから、2枚のアルバムの感じを合わせていいバランスを取れないかなと。現代風のサウンドも好きだし、生のギター、ベース、ドラムも好きだから、そこをうまく調和したかったんです。実際「DEMAGOG」は、俺のジャンルってこういう感じだよなと思える作品になりました。

──マスタリングエンジニアは、ビリー・アイリッシュの作品を手がけているジョン・グリーナム氏が務めています。

まさか受けてくれるとは、びっくりですよね。自分の作品にはいろんな人に関わってほしいし、今回は専門のマスタリングエンジニアにやってほしかったんですよ。レーベルのスタッフと話している中で、「この音だったら、ジョン・グリーナムがいいんじゃないか」と薦めてもらって。メジャーレーベル万歳ですね(笑)。聞いた話ですけど、曲も気に入ってくれて「楽しいよ」と言ってくれていたみたいで。戻ってきた音もすごかったですね。「こんな音にしていいの?」という驚きや音楽的な学びがありました。マスタリングって基本的にきれいに整える工程であって、音に色付けしちゃいけないんですよ。でも彼はすごく自分の色を出してきて、しかもカッコよくて。攻めた音にしてくれたのは本当にうれしかったです。

──現在のグローバルポップにも通じる音ですよね。

あ、それはうれしい。いつも海外のいい音を聴いて「どうやって作っているんだろう? 俺にはやれないのか」と落ち込んでいるので(笑)。

──近い将来、「DEMAGOG」の楽曲をライブでも体感したいです。

僕も早くライブで届けたいです。YouTubeでライブ映像を配信する予定もあるので、楽しみにしていてください。

配信ライブ情報

YouTube「『DEMAGOG』完全再現スタジオライブ『煽動』」
  • 2020年8月26日(水)21:00~
キタニタツヤ